SSブログ

The Book of Sounds. [2011]

8572444.jpgSS10.gif
1010.gif
プリペアード・ピアノとピアノによるガムラン風とミニマル風... アメリカのジョン・ケージと、ドイツのハンス・オッテの音楽を、大胆に東西という括りで並べ、共鳴させてしまった"Orient | Occident"(WERGO/WER 6706)。この刺激的なアルバムに触れて以来、その西=オクシデントとして取り上げられたオッテ、『響きの書』(全12曲から5曲... )がずっと気になっていた。ケージの灰汁の強いサウンドと対置させれば、そのシンプルな美しさは際立つわけだが、そればかりでない、ヨーロッパのミニマリズムの、アメリカのミニマリズムとは一味違う、どこかロマンティックな響きが新鮮で、印象に残り...
ということで、きちっと聴いてみたかった、オッテの『響きの書』。そして、新たな録音がリリース。NAXOSの近現代担当、気鋭のオランダのピアニスト、ラルフ・ファン・ラートによる『響きの書』(NAXOS/8.572444)。期待通りの美しいサウンド!いや、今、こういうシンプルなサウンドが欲しかった。

例えば、トーン・クラスターのような音塊の圧倒的な存在感や、スペクトル楽派が繰り出す呑み込まれそうな音響の海、特殊奏法を駆使しての耳に刺激的な音の数々... "ゲンダイオンガク"における「響き」は、徹底して非日常を聴かせてくるものが主流(とも言えなくなりつつある?)。日常の感覚でそうした響きに出くわすと、慄くばかりなのだが。ハンス・オッテ(1926-2007)の『響きの書』、その「響き」は、まったく違う場所にある。
何も考える必要の無いシンプルさ... やさしく心地良い響き... 始まりのpart.1から、そのアンビエントなサウンドに、ストレスの多い現代社会、日々の緊張は解けてゆくよう。クラシック?現代音楽?というより、ニュー・エイジ?そういう枠組みを、まったく意に介せず、日常からけして遠くない場所にある心地良い「響き」を、衒うことなく素直に求め、綴る、『響きの書』。抵抗なく、スーっと耳に流れ込んでくるそのシンプルさは、ヨーロッパにおけるミニマル・ミュージック?そんな印象を受けるのだが... 1960年代以降、アメリカの現代音楽をヨーロッパに紹介したという、オッテだからこそのものも、そこにはあり。例えば、シンプルで美しい和音ばかりでなく、不協和音をリズミカルに用いて、ガムランのように、ケージのプリペアード・ピアノによる作品のような雰囲気を漂わせたり(part.5)。ナンカロウのようなランダムな音の連なりもあったり(part.6)。ミニマル風ばかりでないセンスも響いて、全12パートは、思っていた以上に多様。また、そのミニマル風にも、ヨーロッパ調のミニマル・ミュージックというのか、アメリカのミニマル・ミュージックのストイックさとは一味違って、ロマンティックに響くようでもあり(シューベルトのパルスや、ワーグナーのトレモロの先にあるセンス?)。かと思うと、サティのようなシニシズムが滲むところもあり。特に印象に残るのは、最後、part.12... ドビュッシーのようにも感じる、フランス印象主義のような色彩感が、『響きの書』のシンプルさを、美しく昇華して、どこか天国的に全12パートを閉じるところ。
単調なようで、単調ではない... というより、全12パートを聴けば、ドラマティックにも感じられる『響きの書』。そこには、ラルフ・ファン・ラートの音楽性も十分に活かされて... 下手すると、イージー・リスニングな方向へ傾きそうな音楽と真摯に向き合い、丁寧に、ニュアンスを以って、繊細な「響き」を紡ぎ出すタッチ。ピアニストとしての存在感を打ち出しにくい作品ではあると思うけれど、この人の存在がなければ、こういう仕上がりにはならなかったはず。その絶妙なバランス感覚と、「シンプル」、「ミニマル」という言葉に流されず、シンプル、ミニマルな中にも、より豊かな表情を見出すファン・ラートの絶妙なセンスが、「響き」の余韻の中に、静かに光る。
しかし、この「響き」に救われる。滅入りがちな気分は、浄化されるよう...

OTTE: The Book of Sounds

オッテ : 『響きの書』

ラルフ・ファン・ラート(ピアノ)

NAXOS/8.572444




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

ECHOES of TIME.for Solo Violin. ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。