二〇一〇、「裏」チョイス... 前編。

3月11日にupする予定... のものを、今頃、ひっそり(？)とup。

えー、2月、丸々掛けて、2010年を振り返りました。が、ちょっと煮え切らない... というか...
そこで、より個性的、多少、灰汁も強い？言うなればマニアック？けれど、間違いなくおもしろかったアルバムを改めて振り返る。2月に振り返ったものが「表」チョイスならば、この度は「裏」チョイスということで... 煮え切れなかった分の補完を試みる？いや、補完とは言えないか。しかし、そのインパクト、あるいはおもしろみという点では、「裏」は「表」を越える！そんなところもあったり？

さて、型破りなアルバムを並べる。
クラシックというと、どうしても教科書的なイメージがつきまとう。クラシックの作曲家といえば、音楽室を飾る仰々しいポートレートに納まった面々... だが、そのポートレートとポートレートの間に、あるいは、その影に隠れて、無数の存在があったはず。が、そういう存在は切り捨てられる... 歴史というのは、そうやって整理されて、今に伝えられるものなのだろう。けれど、整理され、分かり易くまとまってしまった「教科書」は、おもしろいのだろうか？教科書的クラシックは、雑多極まる21世紀に、どれほどの存在感を示すことができるのだろうか？編集された歴史ではなく、もっと生々しい歴史に触れることができたなら... と、思うことがある。

強烈なプリミティヴに、おもいっきり中てられた、ヒナステラの奇作、「ポポル・ヴー」と魔術的アメリカに捧げるカンタータ(NEOS／NEOS 10918)。スノッブなコンサート・ホールで、盛装したオーケストラの面々で、この音楽を奏でるのは、かなり異様かも... というくらい、振り切れたプリミティヴ。また、アズベリー指揮のケルンWDR響が、そのプリミティヴを律儀に音楽としてゆくものだから、余計、プリミティヴは純度を増すようで。『エスタンシア』ばかりでない、ヒナステラの凄味(？)を思い知らされつつ、やがて、ヤミツキに... いや、こういう異様さが音楽の本質？

そんな、プリミティヴから一転、雰囲気たっぷりに、欧州のデカダンを燻らせる、知られざるソヴィエトの作曲家、ロクシーンの作品を取り上げるアルバム(BIS／BIS-CD-1556)。その名前はぼんやりと認識して来たが、その音楽を聴くのは初めて... ということで、興味津々だったが、ソヴィエトの音楽をショスタコーヴィチら数人の作曲家で説明してしまうのはもったいない！そんな再発見を促してくれる1枚。ボードレールの『悪の華』を歌う交響詩に、その『悪の華』の挿絵をジャケットに使うあたりもクール！

知られざる... から一転、今も昔も人気作曲家、ヘンデルによる美しいメロディを、ハープで聴くアルバム、"MICROCOSM CONCERTO"(GLOSSA／GCD 921303)。ピリオドのハープの名手、ガラッシが、18世紀、ハープ用にアレンジされたヘンデルの名旋律を弾くのだけれど、これがもう、美し過ぎて... 名アリア「涙、流れるままに」などは、その涙が宝石となってこぼれ落ちてくるようで息を呑む。で、その美しさ、クラシックの仰々しさとはまったく違う場所で響くかのよう... いや、美しさが、ジャンルの枠組み揺らがせる？クラシックという枠に囚われない、音楽そのものの魅力が結晶になる希有な1枚。

2010年を振り返って、最もキテレツだったものは？となると、やはり、鬼才バリトン、松平敬がたった独りで繰り広げる"MONO=POLI"(Enzo Recordings／EZCD 10006)。祝！文化庁芸術祭賞レコード部門優秀賞受賞... なわけだが、賞を贈った方も凄い... というほどに、突き抜けていた。響いてくるサウンドはもちろん、構成まで凝りに凝っていて。それでいて、笑わせてくれるツボも心得ており。その器用さに舌を巻く。で、勢い付いたか？今度は、タリスの40声のモテットを独りで歌い、ネット配信... 次は何をしてくれるのだろうと、ドキドキしたり、ドギマギしたり、目が離せない...

以上、3月11日にupする予定... のものだったのだけれど。いつもなら、更新日には準備万端で書き上げていたはずが、その日に限って完成させられず... どこかで、もの凄い揺れが来ることを感じていたのだろうか？今になって思うと、何だか不思議な気がする。とはいえ、ほぼ完成はしていたのだけれど... で、そのテキストを補強して... 補強していたら、少し長くなってしまったので、2回に分けて、upすることに。
ということで、後半につづく...