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アッサラーム!ゲンダイオンガク! [2011]

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ナポレオンのエジプト遠征(1798-1801)には、様々な学者も参加していた... ロゼッタ・ストーンの発見などは、その代表的な成果だ。ということはよく聞くのだけれど、そうした学者たちの中には、音楽学者も含まれており、中世以来、紡がれて来た西洋音楽の知識を以って、アラブ世界の音楽との接触は、相当に刺激的だった。という話しを、どこかで読み、興味深かった。微分音を含み、より複雑なリズムを刻むアラブ世界の音楽を前に、モーツァルトはあまりにシンプルだ。というのが、西洋音楽のリアクション...
オリエンタリスムでしか語られないアラブ世界の音楽とは違う、分析的に接したアラブ世界の音楽というのは、より高度な音楽?ならば、そういう音楽的素地から、西洋音楽のフィールドで音楽を奏でる音楽家が現れたら、かなりおもしろいことになるのでは?と、ずっと思っていたところに、見つけた... ヨルダン出身の作曲家、サエド・ハダッド(b.1972)。そして、ドイツが誇る現代音楽専門家集団、アンサンブル・モデルンが、そのハダッド作品を演奏するアルバム(WERGO/WER 6578 2)を聴く。

これまで、クラシックというジャンルの中でも、オリエンタルなエッセンスは、いろいろ聴いて来た。が、オリエントそのものからやって来て、クラシックというジャンルで音楽を生み出そうという存在には、なかなか遭遇できなかった。それだけに、ヨルダン出身というサエド・ハダッドという作曲家の存在は、かなり刺激的。また、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学で哲学(歴史あるカトリックの大学で、哲学を学ぶというのは、ヨルダン出身者として、かなりラディカル?)を学び、その後、作曲の道に進んだのも興味深いところ。その作曲だが、まずヨルダンの大学、イェルサレムの大学で学び、再びヨーロッパへと渡り、ラッヘンマン、デュサパンらについてさらなる研鑽を積み、現在はドイツで活動しているとのこと。70年代生まれの新たな世代、そしてオリエントからの才能というあたりが、まさしく21世紀的で、期待してしまうのだが... その音楽は?
1曲目、"Le Contredésir"。クラリネットが気だるくアラブ的なメロディを歌い始めて、その西洋人が描くオリエンタルとは違う、リアルなアラブ的気分が魅惑的。なのだが、その先に、音の欠片が散らばるようなところがあって。ラッヘンマンといった、当代切ってのラディカルな"ゲンダイオンガク"の巨匠について学んでいるだけに、現代音楽としての修辞には長け、単にアラブ風で売るなんてことはない。
具象的に描くことを禁じられているイスラム圏だが、おかげで幾何学模様を駆使しした抽象的な感性が発達したわけだ。が、そういう背景を思うにつけ、実はアラブ世界こそ"ゲンダイオンガク"に向いているように感じる。アラブ的であることと、"ゲンダイオンガク"な感性は、どこかで共鳴する?ハダッド作品を体験して思うことは、折衷ではなく、東洋と西洋の共通項を探り、つながってしまう不思議さ。それも、現代音楽という拡大された西洋だからこそ、つながりを見出せたように感じるのがおもしろい。2曲目、カヌーン(アラブ世界のツィター)とアンサンブルによる"On Love I"(track.2)は、民俗楽器を用いることで、よりアラブ性を帯びるわけだが、魔法が掛かったように"ゲンダイオンガク"につながってゆく。ナポレオンのエジプト遠征から200年強を経たわけだが、西洋音楽も、モーツァルトのシンプルさから、アラブ世界の音楽ほどに複雑に発展させることができるようになった?ということ?そんな見方をすると、クラシックという基準が大きくグラつくようで本当に刺激的だ。
さて、そんなハダッド作品を演奏するアンサンブル・モデルンがすばらしい!研ぎ澄まされ、確信に充ちた一音一音は、力強く輝き、アラブ=ゲンダイオンガクの興味深い世界を鮮烈に響かせる。一方、ヴァイオリン独奏による"Les Deux Visages de l'Orient"(track.5-9)での、ウルリケ・シュトルツの鋭いヴァイオリン。ピアノ独奏による"Études mystérieuses"(track.10-16)での、河合祝子の硬質なタッチが圧巻で、ハダッド作品の"ゲンダイオンガク"としての魅力を存分に味合わせてくれる。

DEUTSCHER MUSIKRAT ・ EDITION ZEITGENÖSSISCHE MUSIK ・ Sead Haddad

ハダッド : Le Contredésir ****
ハダッド : On Love I ***
ハダッド : On Love II ***
ハダッド : Les Deux Visages de l'Orient *
ハダッド : Études mystérieuses *
ハダッド : The Sublime **

アンサンブル・モデルン *
マーティン・ブラビンズ(指揮) *
フランク・オルー(指揮) *
ニーナ・ヤンセン(クラリネット) *
ザール・ベルガー(ホルン) *
ミヒャエル・M・カスパー(チェロ) *
バッセム・アルコーウリ(カヌーン) *
ヘルマン・クレッチュマー(ピアノ) *
ウルリケ・シュトルツ(ヴァイオリン) *
河合祝子(ピアノ) *

WERGO/WER 6578 2

今、アラブ世界は大いに揺れている。そして、世界中の視線が向けられている。が、改めて考えると、アラブ世界について、あまりに無知であることを思い知る。自動車を便利に使い、街は隅々まで明るく、部屋はいつだって温かい... そうしたエネルギーの多くがアラブ世界からやって来ているはずなのに。この断絶感、何なのだろう?ハダッド作品に触れ、ちょっと考えさせられる。いや、そろそろしっかり考えなくてはいけないのかもしれない...




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