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北の国から、ヴァスクス篇。 [2010]

寒い!寒い、寒い、寒い!と、無駄に言ってみる。
まったく、温暖化が叫ばれているのに、この寒さは何だ!と、大気に喧嘩を売ったところで、どうにもならんのだけれど... この寒さを考えると、「温暖化」ではなく、「極端化」と言うべきなのでは?寒波だ、大雪だと、夏の猛暑と同じくらい、今、寒さがニュースを賑わせている。そして、こうも寒いと、外に出る気が失せる。それ以前に、布団から出る気が失せる(人間も冬眠すべき... なわけねーな... )。いや、寒いと、動きのみならず、思考まで鈍くなるような... そんな冬に、ちょっとストレスを感じているのだけれど...
一方で、雲ひとつないクリアな青空、瞬きが増す星々が彩る夜空、そんな、冬が見せてくれる情景には、心を洗われるものがあって... 冬の研ぎ澄まされた空気感というのは、嫌いではない。ストイックで鮮烈な季節、冬なればこその美しさは、他に代え難いもの。そして、そんな冬にぴったりはまる音楽... 冬を描くサウンド。なんて言いたくなってしまう?ラトヴィアの作曲家、ペトリス・ヴァスクス(b.1946)。若手アンサンブル、ナヴァッラ四重奏団による弦楽四重奏曲集(CHALLENGE CLASSICS/CC 72365)と、若手ピアニスト、ヴェスタルド・シムクスによるピアノ作品集(WERGO/WER 6734)を聴く。


鮮烈に現れる、北の国の自然...

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ヴァスクスの音楽の魅力は、シンプルなサウンドが生み出す鮮烈さ、パワフルさ... だろうか?もちろんリリカルで、アンビエントな部分も、この作曲家の大きな魅力。そのあたり、地域的な近さなどもあってか、ペルトらと並べられ、「癒し系」と捉えられなくもないのだが。現代音楽にしてよりクラシカル、かつコンテンポラリーなエッセンスもありつつ... という希有なバランス感覚で、その音楽は、クラシックの堅苦しさとはちょっと違う場所にあって、現代音楽の気難しさとも距離がある、何ともニュートラルなポジションがおもしろい。というヴァスクスの、3つの弦楽四重奏曲を取り上げるナヴァッラ四重奏団のアルバム。
1曲目、3番の弦楽四重奏曲、そのスタイリッシュな響きに、まず魅了される。弦楽四重奏という極めてクラシカルで、ストイックな編成でありながら、まるで映画音楽のようなヴィヴィットさにノックアウト!例えば、2楽章(track.2)の、空気を切り裂くような出だし、その鮮やかさと鋭さに、痺れてしまう。シベリウスや、ニールセンのDNAを受け継ぐ、北欧のロマンティックな音楽の進化系とでも言おうか、クリアな響きに彩られつつ、どこか仄暗さを孕み、独特の美しさを湛える。それは、北の国の厳しい自然が鍛え上げた美しさ?人間が分け入ることのできない、北の国の奥深い世界を描くようで、圧倒される。環境問題に関心を持つヴァスクス... とのことだが、自然への畏怖が、そのまま音楽となっているかのよう。
そのあたりを際立たせる、ナヴァッラ四重奏団の「若さ」も印象的。オランダ出身者を中心に、2002年にイギリスで結成されたアンサンブル。若いからこその実直さ、清新な感性が、ヴァスクスの音楽に見事に共鳴し、良い意味での生真面目さ、一生懸命さが、出会うべく作品に出会い、きらめき、ヴァスクスの音楽が持つ鮮烈さ、パワフルさを、よりインパクトあるものとしている。
さて、ヴァスクスには5つある弦楽四重奏曲があるのだが、このアルバムに収録されているのは1番から3番まで。1995年の3番(track.1-4)に始まり、1984年の2番(track.5-7)、1977年の1番(track.8-10)と、作曲家の歩みを遡ってゆく流れも興味深いものになっている。

Pēteris Vasks  String Quartets nos. 1-3 NAVARRA QUARTET

ヴァスクス : 弦楽四重奏曲 第3番
ヴァスクス : 弦楽四重奏曲 第2番 「夏の歌」
ヴァスクス : 弦楽四重奏曲 第1番

ナヴァッラ四重奏団

CHALLENGE CLASSICS/CC 72365




鮮烈に巡る、北の国の四季...

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始まりは、アンビエントな白い情景... 雪が降り積もる真っ白な情景が見えてきそうな、そんな音楽。ピアノの一音一音が、何とも言えず冷えて、よりクリアに響くよう。必要、最小限の音で、静まり返る冬の様子を描いてゆく。そして、それは、まさにアンビエント=環境音楽。ヴィヴィットな弦楽四重奏曲からは一転、静かな美しさで充たす。そんな白い情景に、やがて陽の光が射し、一面の白に覆われた静けさに、変化を見せる、続く、春の音楽(track.2)。雪解けが進み、やがて一気に草木が萌え、茂る瞬間がやって来て...
緑の情景(track.3)、秋の音楽(track.4)と続き、繊細に、そしてドラマティックに、ロマンティックにも盛り上がりを見せるヴァスクスの『四季』。ヴィヴァルディのような描写音楽とはまた一味違う、打鍵のひとつひとつを、ひと筆ひと筆に置き換えて、キャンバスに自由に4つの情景を描いてみせるかのよう。繊細でありながら、勢いづくとその筆は止まらなくなり、色彩の連なりは具象のようでもあり、抽象のようでもあり。その境目の曖昧な感覚が、四季のうつろいをかえってリアルに捉えるようで、おもしろい。
その『四季』を弾くのは、ヴァスクスと同じラトヴィアの出身の若きピアニスト、ヴェスタルド・シムクス。作曲家と同じラトヴィアの風景の中で、四季の中で育ったからの共感なのか、より積極的にヴァスクスの音楽世界へと入り込んでゆくような姿勢が見受けられ、またそのタッチはより自由闊達。アンビエントなテイストから、ジャジーな臭いを漂わせる瞬間もあったり。かえってクラシカルに、ロマンティックに、表情を紡いでみせたり。かと思えば、メシアンのように多彩な色彩で遊ぶような感覚も。その瞬間その瞬間を本能のままに捉えて、鮮やかに織り成されてゆくヴァスクスの『四季』は、自然の息吹を鍵盤にほとばしらせるかのよう。弦楽四重奏とはまた違う鮮烈さ、パワフルさを響かせて、魅了される。
それにしても、北の国から響くサウンドというのは、独特のものがある。冷たくクリアでありながら、どこか情熱的でもあって。ペルト、ヴァスクスと聴いて、その希有な感性を改めて見つめれば刺激的。

Pēteris Vasks The Seasons ・ Die Jahreszeiten

ヴァスクス : 四季
ヴァスクス : 夏の夜のための音楽

ヴェスタルド・シムクス(ピアノ)

WERGO/WER 6734




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