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北の国から、ペルト篇。 [2010]

エストニアの作曲家、アルヴォ・ペルト(b.1935)。
アンビエントなサウンドで、難解な"ゲンダイオンガク"とは一線を画す人気作曲家... という位置付けも、今となっては次第に変わりつつあるのか。昨年、75歳のアニヴァーサリーを迎え、それに合わせた回顧、代表作、近作、様々なアルバムがリリースされ。となると、もはや、現代音楽の巨匠。21世紀、リアルな現代を前にし、現代音楽のイメージそのものが変わりつつある中で、ペルトという存在は大きくなりつつあるように思う。ということで、昨年リリースされた印象的なペルトのアルバムを2つ振り返る。
まず、ペルトが、アンビエントな路線へと舵を切り始めた頃、過渡期の作品、3番の交響曲を取り上げる、クリスチャン・ヤルヴィの指揮、ベルリン放送交響楽団の演奏によるアルバム(SONY CLASSICAL/88697723342)。3番の交響曲から37年を経て2008年に完成された4番の交響曲を、エサ・ペッカ・サロネンが率いた、ロサンジェルス・フィルハーモニックによる初演のライヴ盤(ECM NEW SERIES/476 3957)で聴く。
アカデミックな世界の外にいたイメージもあるだけに、アカデミズムの象徴とも言える交響曲でペルトを振り返るというのは、かなり新鮮かも...


3番。ティンティナブリへの道。

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ペルトというと、イメージで語られやすいのかもしれない。いや、ある種のイメージを強く持っている。シンプルで清廉な古い時代の音楽へと帰る、ティンティナブリ様式の美しくアンビエントなトーン。これがペルトに、現代音楽にして異例の「人気作曲家」という地位を与えたわけだ。が、そのあたりに、現代音楽においては、イロモノ的な見方も、無きにしも非ずだったような... 良くも悪くも、ペルトというステレオタイプはしっかりと形作られていて、そうしたものに慣らされて来たところに聴く、ペルトの3番の交響曲は新鮮だった。
20世紀前半のモダニスティックな様々なスタイルを吸収しつつ、そこから大きく飛躍し、ティンティナブリ様式へと移ろうとする過渡期、1971年の作品... アンビエントさよりも、骨太なシリアスさを響かせつつ、ティンティナブリ様式的な美しい響きも散りばめられた3番の交響曲。過渡期なればこその多層的なトーンが大いに魅力的。クリスチャン・ヤルヴィは、その過渡期である姿を素直にサウンドしつつ、巧みにまとめ、交響曲としての構築感を引き出しているあたりが印象的。ヤルヴィ家と縁の深い作品(父に献呈され、その父はDGに、兄はVirgin CLASSICSに録音していたり... )だけに、クリスチャンが新たに録音する余地はあるのだろうか?と、多少、懐疑的にも思っていたのだけれど、父、ネーメとも、兄、パーヴォとも違う、作品をクリアに捉えることに長けたクリスチャンならではのペルトを聴かせてくれる。すると、シベリウスや、ニールセンといった北欧の作曲家たちを思わせるフレーズが浮かび上がり、興味深く... 何より、交響曲としての充足感をしっかり味わえたことが新鮮。クリスチャンによるイメージに流されないペルト像は、北欧ならではのヴィヴィットさで、魅了してくる。
そして、このアルバム、ペルトの75歳のアニヴァーサリーに相応しい1枚というのか、1970年代の3番の交響曲に、1980年代のスターバト・マーテル(track.1)、1990年代のカンティク・ドゥ・デグレ(track.5)が収録され、ペルトの歩みも追うことができ、回顧的な感覚もあったり。また、代表作のひとつ、スターバト・マーテルは、クリスチャンのために新たにアレンジされた、コーラスと弦楽オーケストラによるヴァージョンでの録音。響きがより柔らかくなり、アンビエントな魅力が増し、こちらはまさにペルト!のイメージを裏切らない美しい仕上がり。RIAS室内合唱団もすばらしい歌声を聴かせてくれている。

ARVO PÄRT CANTIQUE KRISTJAN JÄRVI

ペルト : スターバト・マーテル 〔合唱と弦楽オーケストラのための〕 *
ペルト : 交響曲 第3番
ペルト : カンティク・デ・ドゥグレ 〔合唱とオーケストラのための〕 *

クリスチャン・ヤルヴィ/ベルリン放送交響楽団
RIAS室内合唱団 *

SONY CLASSICAL/88697723342




4番。ティンティナブリの行き着いた先...

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3番の交響曲から37年、L.A.フィルの委嘱により、再び交響曲というスタイルに戻って来たペルト...まず、そのあたり、とても興味深く感じる4番の交響曲、「ロサンジェルス」。振り返れば、その37年こそ、ペルトにとってのサクセス・ストーリーであって。3番の交響曲が発表され、その後、ティンティナブリ様式による、まさにペルト!というイメージを確立し、前衛主流の現代音楽の世界で、異彩を放ち。アンビエントな美しい作品の数々は、ECM NEW SERIESにより録音され、世界的に紹介され、ジャンルの枠を越えて幅広く支持されることに... まさに人気作曲家となるわけだ。そうした歩みを経ての、2008年の作品...
深く重い霧が漂う中を、力無さ気に彷徨うような、そんな感覚だろうか?ペルトならではのアンビエントなトーンに悲壮感が広がり、ティンティナブリ様式に至る前の、20世紀前半のモダニスティックな様々なスタイルを、もう一度、ティンティナブリ様式の下、咀嚼するような、そんな印象も。時に、シェーンベルクのような先の読めない不安定な表情を見せ、またオネゲルのような沈鬱さ、ショスタコーヴィチのような切迫感を孕み、その独特の雰囲気は、どこかノスタルジックなのか。そして、全編、スローな展開で抑制的でありながら、ひたひたとドラマティックでもあり。この交響曲、体制批判で囚われの身となっているロシアの実業家、ミハイル・ホドルコフスキーに捧げられており、21世紀、今なお蔓延る政治的理不尽に鋭く迫ってもいる。
それにしても、サロネンに率いられたL.A.フィルによる委嘱と聞いて、とても意外に感じたのだったが... サロネンならば、もっとコアな現代音楽の作曲家に委嘱しそうなイメージが... あるいは、自分で書く?いや、だからこそ、サロネンとペルトという組合せ、大いに興味を掻き立てられもした。で、十二分の説得力を以って、ティンティナブリ様式での名作の数々とは一味違う、深く重層的なあたりを印象的に響かせ、そのインパクトは大きいのかもしれない。アルバムの後半には、代表作のひとつ、カノン・ポカヤネン(track.4)からのフラグメンツが収録されているのだけれど、無伴奏コーラスによるティンティナブリ様式の作品は、交響曲と絶妙なコントラストを描き、苦悩から祈りへという構図が、静かにメッセージ性を孕み、力強くすらある。

ARVO PÄRT SYMPHONY NO.4

ペルト : 交響曲 第4番 「ロサンジェルス」 *
ペルト : カノン・ポカヤネン から フラグメンツ *

エサ・ペッカ・サロネン/ロサンジェルス・フィルハーモニック *
トヌ・カリユステ/エストニア・フィルハーモニック室内合唱団 *

ECM NEW SERIES/476 3957




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