落日のメランコリー。

大騒ぎの年末、そして、良くも悪くもハッピーな年始... 今となっては遠くに感じられて、妙にテンション高めだったせいか、今は、何となくテンションも低下気味。胃袋のみならず、耳も、どこかで七草粥的なサウンドを求めているような。いないような。ということで、多少、メランコリックにバロックのギターなどを...
ギターの名手、シャビエ・ディアス・ラトーレの下、スペインの古楽のエキスパートが結集するアンサンブル、ラベリントス・インヘニオソス。Zig-Zag Territoiresに登場して以来、そのリリースは常にチェック... のはずが、昨夏にリリースされたアルバムは、つい聴きそびれてしまい今頃となる。そのアルバム、スペイン・バロックを彩る、ホセ・マリン(1618-99)、フランシスコ・ゲラウ(1649-1722)を取り上げる、"Entre el Ciela y El Infierno(天国と地獄の間)"(Zig-Zag Territoires／ZZT 090301)を聴く。

フランシスコ・ゲラウの『調和の詩』から、ギター独奏の3曲と、フィッツウィリアム写本に収録された、ギター伴奏(時々、パーカッションも... )によるホセ・マリンの歌曲を取り上げるアルバム"Entre el Ciela y El Infierno(天国と地獄の間)"。何とも意味深なタイトルのアルバムは、3つのパートから成り、それぞれのパートは、ゲラウのギター曲が前奏曲のように奏でられて、マリンの歌曲が続く。ディアス・ラトーレは、スペインの古典演劇のスタイルを、このアルバムで試みているとのことだが、下手に芝居掛かるでもなく、ただ切々と、奏で、歌われてゆくあたりが、独特のインパクトを生む。
世界を支配したスペイン・ハプスブルク家(1516-1700)の終焉の時代をクローズアップする"Entre el Ciela y El Infierno"。17世紀、黄金の帝国であったはずのスペインの落日、その崩れゆく時代に、奔放に生きたマリンと、修道士として生きたゲラウ。ともにスペイン・ハプスブルク家の宮廷に仕え、スペイン・バロックを担った作曲家だが、マリンは強盗(？)や殺人(！)にも手を染めていたとのこと... で、修道士のゲラウと並べるあたりがおもしろい。しかし、ディアス・ラトーレがクローズアップするのは、天国と地獄の"間"。神に仕える者にしろ、盗み、殺める者にしろ、2人の音楽は、どこか時代の遣る瀬無さを映して、ただならずメランコリック。また、そのあたりに、21世紀の今が重なるようで、何か心に染みるものがあったり。
そんな音楽を紡ぎ出す、ラベリントス・インヘニオソス... 今回は、ディアス・ラトーレのギターに、テノールのランベール・クリマン、パーカッションのペドロ・エステバンという3人編成。で、極めて手堅い、ベテラン、3人。だけれど、その響きは、新鮮。空間に溶けゆくような、美しいテノールを響かせるクリマン。そのナチュラルさは極めて心地良く、何よりアルカイック。なのだけれど、どこか熱を孕むようなところがあって印象的。そして、相変わらず、巧みにリズムを刻むエステバン。一打一打に味わいがあって、歌とギターに色彩すら添えかねないあたりが凄い。そして、ディアス・ラトーレのギター... 一音一音、丁寧に爪弾かれて生まれる輝きは、この人ならでは。情緒に流されないクリアさが、作品のピュアな美しさを保って、安易なエキゾティシズムに沈まないスペイン・バロックを響かせる。そこから浮き上がる、時代の仄暗さ、メランコリーが、何とも言えない味となり、落日のスペインへと、イマジネーションを掻き立てられる。

GUERAU | MARÍN　Entre el Ciela y El Infiermo　LABERINTOS INGENIOSOS

Primera jornada
■ ゲラウ : Marionas
■ マリン : La verdad de Perogrullo
■ マリン : Ojos, pues me desdenais
■ マリン : Tortolilla, si no es por amor
■ マリン : Mi senora Mariantanos

Segunda jornada
■ ゲラウ : Passacalles por el primer tono
■ マリン : De amores y de ausencias
■ マリン : Si quieres vivir
■ マリン : Que bien canta un ruisenor
■ マリン : Si quieres dar, Marica, en lo cierto

Tercera jornada
■ ゲラウ : Gallardas
■ マリン : Aquella sierra nevada
■ マリン : Al son de los arroyuelos
■ マリン : Montes del Tajo
■ マリン : Sepan todos que muero de un desden

ラベリントス・インヘニオソス
ランベール・クリマン(テノール)
ペドロ・エステバン(パーカッション)
シャビエ・ディアス・ラトーレ(5弦ギター)

Zig-Zag Territoires／ZZT 090301

タグ：バロック 17世紀 ギター スペイン ヴォーカル ピリオド ディアス・ラトーレ