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バック氏とロンドンを歩く。 [selection]

さて、前回、取り上げた"THREE BAROQUE TENORS"(EMI/6 26864 2)の話しから続くのだけれど... ボロジーニ、ファブリ、ビアード、バロック三大テノールの活躍を追うと、ロンドンという存在が浮かび上がり、興味深い。イギリス人のビアードはともかく、イタリア出身で、ヨーロッパ各地で活躍したボロジーニ、ファブリが、それぞれロンドンを訪れ、活躍している。また、ボロジーニ、ファブリの後で、伝説のカストラート、ファリネッリも、ロンドンで一世を風靡(映画『ファリネッリ・イル・カストラート』に描かれている通り... )したわけだ。
18世紀、ヨーロッパ中から音楽家を集めた国際音楽都市、ロンドン。21世紀、「音楽の都」というと、すぐにウィーンという名前が挙げられるわけだが、18世紀の音楽ファンにとっての「音楽の都」は、どこだったろう?なんて考えると、おもしろい。そしてロンドンは、間違いなく刺激的な街であったはず... ということで、そんなロンドンを探るセレクション。ハンデル氏とロンドンを歩き、南から、北から... ロンドンを歩いて、バロックから古典派の時代、今度はロンドンのバッハと歩いてみる。

ヨハン・クリスティアン・バッハ(1735-82)。
大バッハの末っ子... だが、18世紀当時、大バッハ(1685-1750)よりもその名は国際的に広く知られていた。なんて聞かされると、本当に驚かされる。が、それが史実。音楽史の蓄積を通して18世紀を見つめる現代のクラシック・ファンと、直に18世紀の音楽に触れていた当時の音楽ファンのギャップというのは、本当におもしろい。そんなヨハン・クリスティアン... 父亡き後、次兄、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)に引き取られ、音楽を学ぶものの、家出するようにイタリアへと留学。多くの作曲家がその下で学んだマルティーニ神父(1706-84)に師事し、18世紀当時、最先端にあったイタリアの音楽を吸収し、やがて、そのイタリアで成功。ヨハン・クリスティアンのインターナショナルな活躍が始まる。そして、1762年、ロンドンへ... ヘンデルが逝って間もない頃、イタリアの最新モードを身につけた作曲家、ヨハン・クリスティアンは、ヘンデルの後継者的な存在に。「ジョン・クリスティアン・バック」として、ロンドンの音楽シーンの顔となる。
ということで、ジョン・クリスティアン・バック、ロンドンのバッハのアルバムを聴きつないでみたならば、ヘンデル以後のロンドンの音楽シーンが見えてくる?

さて、ジョン・クリスティアンの話しに入る前に、ハンデル(ここは、英語風に... )の話しから...
本場イタリアから強力なライバルが現れ、さらにバラッド・オペラに人気をさらわれ窮地に立ったオペラ作曲家、ハンデル。オラトリオという新たなジャンルに活路を見出し、再起を果たしたわけだが... ロンドンでは、ハンデル以後、オペラは上演されなかったのか?というと、そうでもないようでして... ジョン・クリスティアンのロンドン進出の切っ掛けは、オペラだったりする。
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18世紀のオペラを主導したナポリ楽派的センスを持ち、すでに古典派的なサウンドを響かせたジョン・クリスティアンのオペラは、ロンドンでも人気を博した。で、その一端を聴かせてくれるのが、フランスが誇るスーパー・カウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーが歌うジョン・クリスティアンのアリア集、"La dolce Fiamma"(Virgin CLASSICS/6945640)。"La dolce Fiamma"=「甘い炎」というだけに、18世紀後半のロンドンを酔わしたであろう、バロックを脱したスウィートさが魅惑的。何より、ジャルスキーのクリーミーな歌声が、ジョン・クリスティアンのスウィートさにぴったり!センチメンタルで、メランコリックで、たっぷりと聴かせてくれる美しいアリアの数々... しかし、ジョン・クリスティアンもまた、ハンデル同様にオペラでは苦しめられたよう。
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ジョン・クリスティアンは、オペラのみならず、あらゆる分野で活躍している。イタリア時代、ミラノでは教会のオルガニストを務め... ロンドンに渡ってからは、王妃の音楽教師に、王の伴奏もこなした... そして、プロデューサーとしてもその手腕を発揮。やはり、ドイツからの帰化作曲家、アーベル(1723-87)と組み、バッハ・アーベル・コンサートを主催。ポスト・バロック、古典派の、当時、最先端の器楽作品を取り上げ、ロンドンの音楽シーンの注目の的に... という、バッハ・アーベル・コンサートを再現した興味深いアルバム、気鋭のピリオド・アンサンブル、イル・ガルデリーノによるジョン・クリスティアンとアーベルの室内楽作品集(ACCENT/ACC 24221)は、18世紀後半のロンドンの音楽ファンの趣味を知る絶好の1枚。イル・ガルデリーノの演奏も、いつもながら、見事!

ところで、「古典派」というと、今となっては「古い」ものように感じるわけだが、その当時は最先端... その担い手のひとりとなったジョン・クリスティアンは、ロンドンのみならず、国際的に注目を集める存在に。モーツァルト親子もロンドンにジョン・クリスティアンを訪ね、やがて、古典派、全盛期を彩ることになる少年モーツァルトは、この古典派の先駆者から、大きな影響を受けたわけだ。が、ジョン・クリスティアンは、その音楽スタイルのみならず、楽器に関しても新しもの好き。世界で最初にクラリネットを用いた作品を書いたのはジョン・クリスティアンだったとか... また、チェンバロに替わる新たな鍵盤楽器として、ピアノにも大いに関心を示し、作品を残している。
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そんな、ジョン・クリスティアンによるピアノ協奏曲を聴く興味深いアルバムが、デイヴィッド・オーウェン・ノリスのピアノ(ツンぺによるスクエア・ピアノ)による"The World's First Piano Concertos"(AVIE/AV 0014)。タイトルの通り、世界初のピアノ協奏曲がどんな感じだったのか?を体験できる、貴重な1枚。で、ジョン・クリスティアンの他に、アーベルはもちろん、当時のイギリスで活躍していた作曲家、ヘイズ、フックも取り上げられ... 特に、フックのものは、その終楽章でスコットランド風でキャッチー!以前にも触れたが、18世紀、スコットランド・ブームを垣間見ることに。さらに、ジョン・クリスティアンのピアノ・ソナタを少年モーツァルトがピアノ協奏曲にアレンジした作品も収録され、古典派の先駆者と、古典派のアイドルの交流も垣間見ることに... 1枚で、相当に興味深い...
さて、ノリスが弾くピアノなのだが... 世界初のピア協奏曲が作曲されていた頃の、ピリオドのピアノとなるわけで。その、当時、人気を集めたというツンぺによるスクエア・ピアノのサウンドに、びっくり。まるでツィターのよう... ピアノ黎明期とはいえ、モダンのピアノはずっと遠いところにある。

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Chapter. 1 ハンデル氏とロンドンを歩く。
18世紀前半、ロンドンを彩る、ヘンデルとライヴァルたちを巡って...
Chapter. 2 南から、北から... ロンドンを歩く。
多様なロンドン... 最新のイタリアン・モードに、スコティッシュ・ブーム。
Chapter. 3 バック氏とロンドンを歩く。
18世紀後半、"ロンドンのバッハ"を中心に、古典派のロンドン...




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