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ウィーンのカルダーラ。 [2010]

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個性派ソプラノ、ジモーネ・ケルメスの"Coroli d'Amore"(SONY CLASSICAL/88697789202)... 知性派テノール、イアン・ボストリッジの"THREE BAROQUE TENORS"(EMI/6 26864 2)... 近頃、気になるバロックのアリア集は、とにかくマニアック。だけれど、その当時の音楽ファンを熱狂させていたナンバーを丁寧に掘り起こして、当時の白熱したオペラハウスの様子を21世紀の今に蘇らせれば、エキサイティング!ついこの間まで、バロックのアリア集なんてのは、どれも似通ったものばかりだったことを振り返れば、驚くほど刺激的な状況だ。そして、もう1枚、刺激的なバロックのアリア集が登場!スーパー・カウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーの"CALDARA IN VIENNA"(Virgin CLASSICS/6419272)を聴く。
それにしても、ヨハン・クリスティアン・バッハのアリア集に続いてのアルバムが、カルダーラのアリア集とは!まったく、ジャルスキーという人は、さらにさらに誰も挑まないようなところへと挑んでゆく... いや、そんなスタンス、まったく以ってリスペクトせずにいられない!

ところで、カルダーラなのだけれど、どこか地味なイメージがある。バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディばかりではないバロック... 次から次へと様々な作曲家が掘り起こされて、ますます興味深く、刺激的なイメージが膨らむバロックに在って、「カルダーラ」という名前には、どうもインパクトを感じられなかった。というより、よく知らなかっただけか?ジャルスキーのおかげで、カルダーラを再発見することに...
アントニオ・カルダーラ(1670-1736)。
ヴァイオリニストを父に、ヴェネツィアに生まれたカルダーラ。レグレンツィが率いていたサン・マルコ大聖堂の聖歌隊に加わり、ヴェネツィア楽派の中心で音楽を学び成長。サン・マルコ大聖堂で経験を積んだ後、29歳の時、マントヴァ公、フェルディナンド・カルロの楽長に就任。が、18世紀初頭、西欧はスペイン継承戦争(1701-14)により、フランスとオーストリアの二大勢力に分かれ揺れており、マントヴァ公国はその荒波の中、公の失策もあってオーストリアに併合(1708)。公も亡くなり、フリーとなってしまったカルダーラは、当時、最も活気に充ちた音楽都市、ローマで、次のポストを窺っていたが、間もなく、スペイン継承戦争のオーストリア側の旗印、バルセロナ伯を名乗っていたハプスブルク家の皇子、カール(後の神聖ローマ皇帝、カール6世... )のいるバルセロナへと向かい、その婚礼のための音楽などを手掛け、後のカルダーラにとって重要なコネクションを築く。その後、ローマに戻り(1709)、ルスポリ公の楽長を務めるのだが、神聖ローマ皇帝、カール6世(在位 : 1711-40)が即位すると、ウィーンでのポストを狙い活動。そうして、1715年、ウィーンの宮廷楽長、ジアーニの死去を受け、副楽長、フックスが楽長に昇格、その後任に、カルダーラの就任が認められ、1716年、晴れてウィーンへ!で、ジャルスキーが歌うのは、"CALDARA IN VIENNA"... ウィーンのカルダーラのオペラに焦点を当てる。
バロック期のオペラの中心地と言えば、まずヴェネツィアが来て、やがてナポリが台頭し... となると、ウィーンなどは、イタリアからは遠く離れた辺境の地。だが、18世紀のオペラには欠かせない存在、台本作家、メタスタージオ(1698-1782)が宮廷詩人として活躍していた。で、このメタスタージオによる台本というのが、バロックに限らず、モーツァルトに至るまで、とにかくよく使われ、使い回され、18世紀のオペラのほとんどはメタスタージオの台本によると言っても過言ではないほど... "CALDARA IN VIENNA"も例外でなく、収録されている10作のオペラの内、7作がメタスタージオによる台本だったりする(残りの3作は、メタスタージオの前任者、ゼーノによる... )。が、それらはリヴァイヴァルではなく、カルダーラのためにメタスタージオが書き下ろした台本... となれば、18世紀のオペラにとって、最もポピュラーだった台本が、最もフレッシュな状態で音楽化されていることになるのか... オペラの伝統を踏まえて、ギリシア悲劇、古代を舞台とした史劇を得意としたメタスタージオの、よりクラシカルなテイストを活かした風格ある音楽は、オペラ誕生以来の集大成のような感覚すらある。一方で、同時代のオペラ、ヴィヴァルディのケレン味や、ナポリの流麗さを味わってしまうと、ウィーンのカルダーラは、地味?
いや、これがジャルスキーの無理のない素直な高音で捉えられると、そのクラシカルなテイストはキリっと締まって、オペラ・セリアの荘重で凛としたドラマティシズムが活きて来る!また、ジャルスキーならではのクリーミーなトーンは、カルダーラの「バロック」の中に、どこかロマンティックなものを響かせるようで興味深く、時折、見せる、物憂げな表情は味わい深く、ただならず魅惑的。カストラート全盛の時代の上質なオペラこそ、ジャルスキーの才能を輝かせる!そんなジャルスキーを見事にサポートする、アイムが指揮するコンチェルト・ケルン... ちょっと驚きの組合せなのだけれど、両者の音楽性が絶妙に響き合い、繊細にして雄弁!オペラ・セリアの古典美から切り出されるドラマをきっちりと描き上げる彼らの演奏も聴き所。そうして浮かび上がる、ヴィヴァルディのケレン味、ナポリ楽派の流麗さに負けない、ヴェネツィア楽派の上質さ!ウィーンの宮廷の洗練!
"CALDARA IN VIENNA"は、ルネサンス末からバロック前半に掛けて、ヨーロッパの音楽の主導的な役割を担ったヴェネツィア楽派を形成し、17世紀後半には、空前のオペラ・ブームを巻き起こした音楽都市、ヴェネツィアの伝統を、ウィーンで見事に昇華したカルダーラの音楽の結晶のようなアルバム... 単なるアリア集に留まらない、大きなスケールを聴かせる1枚。

PHILIPPE JAROUSSKY CALDARA IN VIENNA

カルダーラ : オペラ 『オリンピアーデ』 より "Lo seguitai felice"
カルダーラ : オペラ 『デモフォーンテ』 より "Misero pargoletto"
カルダーラ : オペラ 『皇帝ティートの慈悲』 より "Numi assistenza" "Opprimete I contumaci"
カルダーラ : オペラ 『オリンピアーデ』 より "Mentre dormi Amor fomenti"
カルダーラ : オペラ 『テミストークレ』 より "Non tremar vassallo indegno"
カルダーラ : オペラ 『皇帝ティートの慈悲』 より "Se mai senti spirarti sul volto"
カルダーラ : オペラ 『スパーニャのシピオーネ』 より "O mi rendi il bel ch'io spero"
カルダーラ : オペラ 『アウリーデのイフィゲニア』 より "Tutto fa nocchiero esperto"
カルダーラ : オペラ 『シリアのアドリアーノ』 より "Tutti nemici e rei"
カルダーラ : オペラ 『独裁官、ルチオ・パピリオ』 より "Son io Fabio" "Troppo e insoffribille fiero martir"
カルダーラ : オペラ 『テミストークレ』 より "Contrasto assai piu degno"
カルダーラ : オペラ 『エノーネ』 より "Vado o sposa"
カルダーラ : オペラ 『シーロのアキッレ』 より "Se un core annodi"

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
エマニュエル・アイム/コンチェルト・ケルン

Virgin CLASSICS/6419272




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