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「今」と向き合う。現代音楽、諸相... [2010]

えー、現代モノが好きでして。コンテンポラリー・アートに、コンテンポラリー・ミュージック... コンテンポラリー・ダンス... コンテンポラリー... それらをきちっと理解できているかは、微妙なのだけれど、今、自分が生きている時代の空気の中で生み出されるある種の生々しさを持った作品に、大いに興味を掻き立てられる。それが、難解だろうが、何だろうが、とりあえず向き合ってみて、作品から自分なりに得たイマジネーションに、今の時代の空気を探る?それは、現代モノをどこかで鏡として捉えるような感覚。が、近頃の現代音楽というのは、「前衛」という言葉がノスタルジックに響き、難解である必要もなくなって、ステレオタイプは崩れつつある... そんなあたりに、時代の混沌っぷりを見る思いも。けど、音楽としては幅(?)が広がって、おもしろくなりつつあるのか。
ということで、現代音楽、諸相... フランスの作曲家、ティエリー・ペクの、エキゾティックな作品、ジャガー交響曲(harmonia mundi/HMC 905267)と、IRCAM仕込みの音響系、スペインの作曲家、ホセ・マヌエル・ロペス・ロペスの協奏曲集(KAIROS/0013022KAI)を聴く。


マヤから中国へ、異次元へと旅する音楽... ペク。

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アレクサンドル・タローが取り上げていて、何気に興味を持ったフランスの作曲家、ティエリー・ペク(b.1965)。またharmonia mundiからアルバムがリリースされて、何となく気になって... いや、やっぱり気になって手に取ってしまう。現代モノがまったくないわけではないけれど、ピリオド・シフトの老舗、harmonia mundiから、現存の作曲家の作品集というのは、間違いなく興味深い。
というペクのアルバム... マヤ文明にインスパイアされたジャガー交響曲(track.1-4)と、中国の画家、石濤(1642-1707)の作品にインスパイアされた「石の波」(track.5-8)を収録。生きることは旅であり、旅することは書くことであり、書くことは異次元への旅... と、タローのピアノによる前作(harmonia mundi/HMC 901974)がリリースされる時に紹介されたペクの言葉そのままに、フランスからは遠く、マヤと中国を旅するエキゾティックな音楽を展開する。で、これがおもしろい!
前作では、「現代」というより「近代」というトーンに、21世紀としての鋭さ、生々しさに欠けるようなところがあって、正直、物足りなさもあったのだが、今作の、現代音楽の中に織り込んだエキゾティシズムは、まさに、今、求められる、多文化主義的な流行りの感覚があって、キャッチー。特に、ジャガー交響曲の、ペクによるマヤ・サウンドは、21世紀版、センセマヤ(レブエルタスの傑作!)といった雰囲気もあって。5人の女声が加わっての特別編成の現代音楽アンサンブル、ゼリグ(ペク作品に欠かせない存在... )に、ロト+フランス放送フィルによる演奏は、その規模を自在に収縮させて、湿気をたっぷりと含んだジャングルを彷徨い、リアルなユカタン半島の音を拾い集めるようで、西洋を脱したサウンドが魅力的。またそれが謎めくマヤのイメージそのままに、摩訶不思議感をたっぷりと充満させ、まさに異次元への旅となる。このトリップ感は、魅力的...
そして、旅は、中国へと続く... 2曲目、清朝初頭に活躍した石濤の作品を音楽とした「石の波」(track.5-8)は、安易なシノワズリーに陥ることなく... というより、エキゾティシズムは影をひそめるのか、中国云々よりも、中国の奇岩、奇景を、オーケストラという西洋の筆を使い、大胆に描いてゆくような、そんな感覚。長い年月を掛け、雨風が大地に穿ったキュビスティクな形が、音楽として峻厳にそそり立つようなサウンドは、どこかアメリカのモダニスム(アイヴス、コープランドの先鋭的な部分と、ヴァレーズの炸裂感?)を思わせて、ヴィヴィッドかつダイナミック。ジャガー交響曲の湿度感とは好対照に、どこかドライに交響楽を展開してくるあたり、また違う異次元への旅を思わせて、楽しませてくれる。

THIERRY PÉCOU Symphonie Du Jaguar ENSEMBLE ZELLIG

ティエリー・ペク : ジャガー交響曲 **
ティエリー・ペク : 石の波 *

アンサンブル・ゼリグ *
フランソワ・グザヴィエ・ロト/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 *
ジョナサン・ストックハマー/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 *

harmonia mundi/HMC 905267




音響の海に漂う、21世紀型、ヴィルトゥオージティ... ロペス・ロペス。

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パーカッショニスト、ヨハネス・フィッシャーの"Perccusion Gravity"(OEHMS CLASSICS/OC 716)で、初めてその作品(ヴィブラフォンによる"Calculo secreto"... その、どこか冷えた中で、鮮やかな色彩を織り成す感覚がクール!)に触れて以来、何となく気になっていたスペインの作曲家、ホセ・マヌエル・ロペス・ロペス(b.1956)。IRCAM仕込みの音響系、スペクトル楽派の作曲家。だが、この音響系が以前は苦手だった。やま無し、おち無し... なんて言ってしまったら怒られそう?だけれど、まさしく音の織物の掴みどころの無さというのか、そうしたありたがどうも苦手で... しかし、慣れとは驚くべきもの。掴みどころの無いものに、無理して掴まるのではなく、その音響の海に漂う悦びを見出してみたり。で、ロペス・ロペスの協奏曲集は...
ピアノとオーケストラのための協奏曲(track.1)、ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲(track.2)、2台のピアノとオーケストラのための断章(track.3)の3曲を収録。もちろん音響系の協奏曲だけあって、「コンチェルト」の華麗さは微塵も無し... ソリストのヴィルトゥオージティを21世紀に求めるのは愚の骨頂?かもしれないけれど、多少、そのあたり、寂しさも。しかし、冴える不思議サウンド... 1曲目、ピアノとオーケストラのための協奏曲の冒頭、弦のピチカートに導かれて、特殊奏法のピアノが奏でるパルスは、雨音のようで、おもしろく。嵐が迫る中、家の中から、風が吹き抜ける庭の様子に耳をそばだてるような、そんな感覚?壁越しのスリリングさ... というのか、妙なワクワク感を抱かせるサウンドに、イマジネーションが刺激される。そして、2曲目、ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲(track.2)。音響系と協奏曲は相容れないような、そんな印象もあるのだけれど、オーケストラが生む音響の中に、エルンスト・コヴァチッチの奏でる雄弁なヴァイオリンが浮かび上がり、見事!華麗なヴィルトゥオージティとは違う、ハードでビターなヴィルトゥオージティがクール!で、ソロとオーケストラが対峙して、うねる!そのダイナミズムにノックアウト気味。
という2曲の後で響く、3曲目、2台のピアノとオーケストラのための断章(track.3)は、そのリズミックな出だしが印象的... 音響系というよりは、どこかバルトークちっく?「コンテンポラリー」というよりも「モダン」なテイストで。そんなリズム感が、音響を楽しんだ2曲の後だけに、より際立っていて、新鮮。ロペス・ロペスによる音響系協奏曲集には、いい具合にアクセントとなり、楽しませてくれる。また、そうしたモダン・テイストに、ロペス・ロペスならではというのか、ところどころ、キラキラとした響きが加わって、独特の美しさを見せ、魅了される。

JOSÉ MANUEL LÓPEZ LÓPEZ Conciertos

ホセ・マヌエル・ロペス・ロペス : ピアノとオーケストラのための協奏曲 *
ホセ・マヌエル・ロペス・ロペス : ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲 *
ホセ・マヌエル・ロペス・ロペス : 2台のピアノとオーケストラのための断章 **

アルベルト・ロサド(ピアノ) *
エルンスト・コヴァチッチ(ヴァイオリン) *
ファン・カルロス・ガルバヨ(ピアノ) *
ヨハネス・カリツケ/ベルリン・ドイツ交響楽団

KAIROS/0013022 KAI




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