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2010年、夏... 最も印象に残る... [overview]

2010年、夏の22タイトルを振り返る... 前編に続いての後編。地味だったかも... なんて、前編で書いたものの、かなり凝っていて、個性の際立つ、刺激的なアルバムもあった。ちょっと、マニアック過ぎ?なんて思ったりするものもあったけれど、それでも、間違いなくおもしろく(どれだけ、理解できていたかは疑問なんだけどね... )。何より、凝りに凝って興味深い世界を聴かせながら、すばらしい演奏があって、「マニアック」という内容を凌駕してしまう。そういうのって、クラシックの理想形かな... なんて、ふと思う。
今の時代、何でも分かり易いものが求められるわけだけれど、分かり易いばかりではダメなようにも思う。でもって、今の時代の閉塞感って、何でも分かり易いものが求められることに要因がある?ような、気もするし。そんな時代の空気感を打破するキーワードは、「マニアック」じゃないだろうか?もちろん、全てに言えることではないけれど、クラシックなんてものは、「マニアック」であることは、大いにスパイスであり、クラシックを、普段、聴かない人であっても、大いに刺激的なことのように感じる。ということで、まずは、そうしたアルバムから...

グローフェのアレンジで聴くガーシュウィン、ハーモニー・アンサンブル・ニューヨークの"GERSHWIN BY GROFÉ"。ガーシュウィンが活躍した時代、名曲、ラプソディー・イン・ブルーが生まれた頃、ガーシュウィンの作品はどんな風に演奏されていたのか... 近頃、ビッグ・バンド版によるガーシュウィンのアルバムは珍しくないわけだけれど、ハーモニー・アンサンブル・ニューヨークによる、スウィング・ジャズとしての生々しいサウンドは、刺激的。で、これって、ガーシュウィンにおける「ピリオド」なのかも?という仕上がりが、おもしろい!
それから、夏に聴いた22タイトル、最もマニアックだったのが、ピリオドの弦楽四重奏団、リンコントロによる"QUARTETTI FUGATI"。18世紀後半、ウィーンの古典派の弦楽四重奏曲にスポットを当てつつ、その時代、すでにオールド・ファッションとなっていただろう「フーガ」をテーマに編んだ1枚。いや、これこそマニアック... 練りに練られてよく作り込まれた構成に舌を巻きつつ、リンコントロのすばらしい演奏が、マニアックな構成と共鳴して、マジカル!そのマニアックなあたり、全てを理解できたかはあやしいのだけれど、古典派にしていつもの古典派にはない薫りを漂わすあたり、凄いのかも...
そして、メールラとグラスを並べてしまうという、恐るべき実験を試みた、ラウテン・カンパニーの"TIMELESS"も、おもしろかった。初期バロックのメールラ、ミニマル・ミュージックのグラス、対極をなすようで、実はその感覚、近いのかも?という発想の凄さと、時代を飛び越えて生み出される交感の刺激的なこと!それは、クラシックであることからもするりと抜け出て、まさに"TIMELESS"。それはとても新鮮な体験で、幻惑されつつ、心地良かった。こういうのも、新たなクラシックの視座だよなぁ~ なんて、感心させられてしまう。

さて、マニアックなものばかり好んでいると、肝心なものを聴いたことがなかったりする。で、今頃になって初体験したのが、チャイコフスキーの『白鳥の湖』。もちろん、あちらこちらで、断片を聴かないことはないのだけれど、全曲盤を聴いたのは、プレトニョフ+ロシア・ナショナル管によるものが初めて。そして、そのカッコ良さに、びっくり。良くも悪くもドラァグなイメージが先行する演目だけれど、その音楽をつぶさに聴けば、新たなチャイコフスキー像を発見するよう。とはいえ、今さらの話しではあるのだけれど...
それから、もうひとつ、個人的な発見... ラフマニノフの聖ヨハネス・クュソストムスの典礼。この無伴奏のコーラスによる作品に、ニュー・エイジ的なセンスを見出して、びっくり。ラフマニノフという作曲家は、ロマンちっくなステレオタイプの一方で、現代に繋がるセンスを持つモダニストの一面もあり、侮れない存在だと思っているのだけれど、聖ヨハネス・クュソストムスの典礼を聴けば、またさらにそういうイメージを強くさせられる。
ところで、18世紀の音楽というのは、実に多様だ... と、常々、思う。バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディだけでないバロックから、ハイドン、モーツァルトばかりでない古典派まで、けして安易に整理されてはいけない、様々な感性が織り成す魅力的な時代だ。そうした時代を彩った作曲家のひとり... てか、兄弟なのだけれど、前々から聴いてみたかったベンダ兄弟の音楽もまた発見であった。何より、イル・ガルデリーノによる演奏が端正で、ベンダ兄弟の多感主義的なセンスと、絶妙のバランスを生んで、魅了されるばかり。それにしても、18世紀というのは、ちょっと追い切れないくらいに作曲家がひしめいていて、驚かされる。

最後に、この夏、最も印象に残るアルバムを3つチョイス。
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まずは... その最初の一声から息を飲んだ、アマコードによる『憩いなき恋』。男声ヴォーカル・アンサンブルによる、無伴奏のドイツ・リートの世界... その瑞々しさに、ただただ驚き、そして聴き入るばかり。いや、これこそロマン主義!というような、若いがゆえの青臭さというのか、爽やかさを伴う生々しさが絶妙。また、取り上げる作曲家も、シューマン、メンデルスゾーンを軸に、シュタインアッカー、ミューリンク、ツェルナー、マルシュナーなど、他では聴けない名前が並び興味深く、丁寧にドイツ・リートの系譜を追う。21世紀、この殺伐とした時代に、ゲーテの生きた時代の気分なんて、知る由もないわけだけれど、アマコードの歌には、そうした時代のリアルな空気感を見出すようで、ただならない。さらに、そうした時代を思わせるアートワークスも秀逸...
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そして、2つ目... ロマン派を新たに捉え直そうという意欲的な試み、ダウスゴー+スウェーデン室内管による"Opening Doors"のシリーズ、完結編(で、いいのだよね?)。シューベルトの「未完成」と「ザ・グレイト」。モダンとピリオドによるハイブリットによる、室内という規模から繰り広げられる圧巻のシューベルト!ダウスゴーというマエストロは、今一、ブレイクし切らないようなところがあるけれど、間違いなく希有な才能の持ち主。聴き知った名曲の、これまでとは違う表情を探り当てて、刺激的な音楽を繰り出すわけだが、シューベルトの代表作である2つの交響曲でもやはり... いや、"Opening Doors"の完結編ということで、より水際立った感性が煌めくようで。また、その煌めきを、見事に音にしてゆく、スウェーデン室内管。となれば、シューベルトは、カッコ良過ぎる!
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最後は、ベートーヴェン... ピリオド界の鬼才、スホーンデルヴルトのピアノによる試演版でのピアノ協奏曲、1番と2番。やはり、シリーズの完結編。ということで、気合が入ったか、スホーンデルヴルトが率いるピリオド・アンサンブル、クリストフォリがことのほか雄弁でして... 試演版のコンパクト編成(おまけに、弦と管の人数的バランスも悪い... )、全17人による演奏は、居直ったような腰の座り様で、試演版だからこその粗も、個性に変えて、たっぷりと聴かせてくれる。もちろん、スホーンデルヴルトのピアノもすばらしく、ピリオドのピアノだからこその独特の温かさが、何とも言えないセンチメンタルな表情を見せるようで、ずっと聴いていたくなるような、そんな気分に。近しい人たちだけで最新作を共有したであろう、試演版ならではの感覚なのだろうか?この感覚が素敵。




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