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清々しさの先に... あるもの。 [2010]

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台風一過... その、清々しいこと!何だか、ほっと一息つけそうな、そんな気分。
で、そんな気分で聴く、シュフのシューマン。ロマン主義が管を巻く前の、爽やかなサウンドが、夏バテの身体には心地良く。が、気鋭のピアニスト、ヘルベルト・シュフ。いつも何にかおもしろいこと(時に衝撃的なことも... )をしてくれるわけで... だから、彼のリリースからは目が離せない。で、最新盤も、やっぱりおもしろい。シューマンのメモリアルならではというのか、シューマンにとっての憧れ、シューベルト、そのワルツをフィーチャーする、シューマンと同時代の作曲家たちの、華やかなピアノ作品を集めた2枚組、『憧れのワルツ』(OEHMS CLASSICS/OC 754)。シューベルトのスケッチのような小さなワルツから、シューマンへ... さらに、ツェルニー、ウェーバーまで、軽やかに、華麗に、円舞が広がる。が、その先にあるものは...

シューベルト(1797-1828)という存在を発掘したのは、シューマン(1810-56)... シューマンがいたからこそ、「ザ・グレイト」が聴けたりするわけで... となれば、シューベルトの影響を受けていないはずのないシューマン。そこでシュフは、まず、シューベルトの主題による「憧れのワルツの変奏曲」(disc 1, track.1-11)を取り上げる。この作品は、完成には至らず、シュフが弾くのはアンドレアス・ボイドによる補筆されたものだが... シューマンは、この未完の作品を素材に、蝶々(disc 1, track.12-24)や、謝肉祭(disc 1, track.31-51)を作曲したとのこと。で、まさに!聴き覚えのあるメロディがこぼれ出す変奏曲... シューベルトへの憧れが、シューマンの初期の代表作に息づいていたことを知り、興味深い。また、シューベルトという視点に立ってシューマンを捉え直すと、シューマンがまた違って聴こえてくる?思いの外、清々しい印象を受ける。
一音一音、研ぎ澄まされたタッチを見せるシュフ。「シューマン」という、ステレオタイプなフィルターを通すことのない、ピュアなサウンドを響かせて、ロマン主義の、まだまだ若々しい気分と、シューマン青年のひた向きさを漂わせ、軽やかに作品を運ぶ。そうして生まれる、湿度、低めの、さらりとしたサウンドが、とにかく心地良い。また、心地良さの中に、時折、重くならないメランコリーがひそんでいて、聴く者をちらりとセンチメンタルにもし、「シューマン」特有の翳をスパイスに、さらりとしたサウンドに絶妙のアクセントを施す。が、謝肉祭、9曲目、スフィンクス(disc 1, track.39)で、衝撃が走る!
1分にも満たないスフィンクス、その謎めく音楽は、どこかドビュッシーのような雰囲気もあって興味深いのだけれど... シュフは、それまでの、心地良く、キラキラと輝くシューマンからは想像できないような、猟奇的なサウンドで、スフィンクスに斬り込んでゆく。プリペアード・ピアノ?いや、ラッヘンマン?それまでの音楽を断ち切るような、それが本当に謝肉祭の1曲なのか?とすら思えるタッチでスフィンクスを捉え、驚かされる。さらに、続く、蝶々(disc 1, track.40)では、何事も無かったようにキラキラと輝くシューマンが戻ってくるから、余計に、その一瞬の異常さが際立ち、衝撃的。で、その衝撃を味わってからの、キラキラと輝くシューマンは、スフィンクス以前のように、屈託なく聴くことはできない... 華麗な終曲、ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進(disc 1, track.51)も、華麗であればあるほど、その裏にある真実(シューマンの行き着く先?)が、どす黒くとぐろを巻いて待ち構えているようで。シュフの、クリアで心地良いタッチであることが、返ってヘヴィーなものをイメージさせる。これこそが、ただならないシュフの音楽性か... 改めて、凄いものに出くわした観すらある。
そんな1枚目を聴き終えての2枚目は、ほっとさせられる。シューマンのインスピレーションの基になったシューベルトのワルツに、ツェルニー、ウェーバーのワルツが彩りを添えるのだけれど、その純朴さに心休まる。特に、シューベルトのワルツ、レントラーの、何気なさや、親密な感じが素敵で... ロマン主義の初期における、まだまだ田舎風であった頃のウィーンの舞曲の興味深い姿を見るよう。だからこそ、1枚目のシューマンの、やがて壊れゆく繊細さ、キラキラと輝く様に、何か感じ入ってしまう。

Sehnsuchtswalzer: Schumann, Schubert, Weber & Czerny
Herbert Schuch


シューマン : シューベルトの主題による変奏曲 「憧れのワルツの変奏曲」 〔アンドレアス・ボイデ補完〕
シューマン : 蝶々 Op.2
シューマン : 6つの間奏曲 Op.4
シューマン : 謝肉祭 Op.9
ツェルニー : お気に入りの悲しいワルツによる変奏曲 Op.12
シューベルト : ドイツ舞曲 第15番 〔ドイツ舞曲 D.783 より〕
シューベルト : レントラー 第11番 〔レントラー D.790 より〕
シューベルト : ワルツ 第6番 〔最初のワルツ D.365 より〕
シューベルト : ワルツ 第14番 〔最初のワルツ D.365 より〕
シューベルト : ワルツ 第22番 〔最初のワルツ D.365 より〕
シューベルト : レントラー 第14番 〔ウィーンの貴婦人のレントラー D.734 より〕
シューベルト : ワルツ 第13番 〔感傷的なワルツ D.779 より〕
ウェーバー : 舞踏への勧誘 変ニ長調 Op.65, J.260

ヘルベルト・シュフ(ピアノ)

OEHMS CLASSICS/OC 754




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