分別と多感と... [2010]
ちょっと、ワクワクさせられるニュース...
【8月5日 AFP】 オーストリアの作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)が弾いたと思われる初期のピアノ「フォルテピアノ」が、ドイツで見つかった。本物であれば数百万ユーロ(数億円)の価値があるという。ドイツ公共ラジオ放送SWRが4日伝えた。
パリからの帰途、ストラスブールに立ち寄ったモーツァルトが弾いたかもしれないピアノ。となると、後の名ソナタ、名コンチェルトが生まれる以前になるわけで... まだまだ、ピアノが真新しい楽器だった頃のピアノ。どんな音がしていたのだろう?ひとつひとつの個性が際立つ18世紀のピアノだけに、モーツァルトが弾き、聴いた響きというものを、是非、体験してみたい。が、一方で、「音」よりも「金」で捉える報道の世知辛さに、21世紀の無粋を痛感させられたり(そりゃ、貴重なピアノだろうけれどさ... )。
さて、再び18世紀へと戻りまして、寺神戸亮氏も参加するベルギーのピリオド・アンサンブル、イル・ガルデリーノによるベンダ兄弟の協奏曲集(ACCENT/ACC 24215)を聴く。
チェコ出身の音楽家一族、ベンダ家... バロックから古典派に掛けて、各地の宮廷で活躍したわけだけれど、その中心となる存在が、フランツ・ベンダ(1709-86)と、ゲオルグ・アントン・ベンダ(1722-95)の兄弟。イル・ガルデリーノは、その、ヴァイオリンの名手、兄、フランツと、モーツァルトにも影響を与えたという、弟、ゲオルグ・アントンの、フルート、ヴァイオリン、チェンバロによる協奏曲を取り上げる。
ということで、ベンダ兄弟、ちゃんと聴いたのは初めて... で、その第一印象、ちょうど、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)と、ヨハン・クリスティアン(1735-82)の、バッハ家の兄弟に似ているなと... 兄は多感主義のモードの中で作曲(フランツは、フリードリヒ大王に仕えており、カール・フィリップ・エマヌエルは同僚でもあった... )し、弟は、そこから古典派へと手を伸ばしつつあって(ヨハン・クリスティアンほどではないが... )。イル・ガルデリーノは、兄弟の作品を交互に並べ、18世紀のうつろうモードをさり気なく押さえ、そのうつろうからこその儚げな表情を捉え、バロックの、古典派の「亜流」と切り捨てることのできない、過渡期ならではの美しさを見出す。
1曲目、兄、フランツのフルート協奏曲(track.1-3)での、何ともエアリーな、ヤン・デ・ウィンネのフラウト・トラヴェルソ... そのやわらかで軽やかなサウンドと、18世紀の「短調」が絶妙で... ロココの淡いトーンの中に、短調のドラマティシズムが溶け入る感覚が、何とも言えず瑞々しく。3曲目、ヴァイオリンの名手、フランツ(フリードリヒ大王の宮廷のコンサート・マスターを務めていたとのこと... )によるヴァイオリン協奏曲(track.7-9)では、寺神戸亮の伸びやかな美音がセンチメンタルに歌い、艶っぽさもあって、たっぷりと聴かせてくれる。
そして、弟、ゲオルグ・アントンのチェンバロ協奏曲... シャレフ・アル・エドのチェンバロが、軽快で、何より明快で、兄の優雅さとはまた一味違う、弟の活き活きとした音楽を楽しませてくれる。特に印象的なのは、まるでアンコールのようにアルバムを締める括る、ト長調のチェンバロ協奏曲からのアレグロ・スケルツァンド(track.13)。イル・ガルデリーノのリズミックな伴奏の上を、華やかに掻き鳴らされるチェンバロは、エレクトリカル・パレード?その愛らしさとポップさは、ちょっと擬古典主義(20世紀の近代音楽としての... )のような感覚すらあって、クール。
そんな、ベンダ兄弟の音楽、ソリストを絶妙にサポートするイル・ガルデリーノの演奏は、ギリギリのところをスリリングに突っ走る演奏ではなく、余裕を以って豊かに響かせて。ベネルクスのピリオド・アンサンブルならではの、分別のあるもの... だからこそ、音楽は活きて、多感主義は、その多感であるたりをより繊細に響かせ、ベンダ兄弟の音楽は予想以上に輝く!
Franz & Georg Anton Benda ・ Concerti
■ フランツ・ベンダ : フルート協奏曲 ホ短調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ロ短調 *
■ フランツ・ベンダ : ヴァイオリン協奏曲 変ホ長調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ヘ短調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ト長調 より アレグロ・スケルツァンド *
ヤン・デ・ウィンネ(フラウト・トラヴェルソ) *
寺神戸 亮(ヴァイオリン) *
シャレフ・アル・エド(チェンバロ) *
イル・ガルデリーノ
ACCENT/ACC 24215
■ フランツ・ベンダ : フルート協奏曲 ホ短調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ロ短調 *
■ フランツ・ベンダ : ヴァイオリン協奏曲 変ホ長調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ヘ短調 *
■ ゲオルク・アントン・ベンダ : チェンバロ協奏曲 ト長調 より アレグロ・スケルツァンド *
ヤン・デ・ウィンネ(フラウト・トラヴェルソ) *
寺神戸 亮(ヴァイオリン) *
シャレフ・アル・エド(チェンバロ) *
イル・ガルデリーノ
ACCENT/ACC 24215
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