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美しき、出口なき、悲劇。アンドロマク。 [2010]

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特大編成で驚かせてくれたヘンデルの『水上の音楽』(GLOSSA/GCD 921606)や、大胆に読み下し過ぎて賛否両論?なパーセルの『アーサー王』(GLOSSA/GVD 921619)で、その存在感、じわりじわりと高まりつつあるエルヴェ・ニケと、彼が率いるフランスのピリオド・アンサンブル、ル・コンセール・スピリチュエル。多少、落ち着いてしまった観もあるピリオドの世界にあって、まだまだ気を吐く彼らの暴れっぷりには、ワクワクさせられるばかり。一方で、フランス・バロックのレパートリーを、丁寧に紹介して来た彼らの仕事ぶりも忘れるわけにはいかない。そんな、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルが、バロックを飛び出して、なかなか聴く機会の少ない18世紀後半、グルック以後のフランス・オペラを取り上げる。グレトリのトラジェディ・リリク『アンドロマク』(GLOSSA/GCD 921620)を聴く。

薄っすらと、グレトリ・ルネサンス?そんな動きがあるような、ないような... ということを、以前、ちらりと書いたのだけれど... 「ルネサンス」とはいえ、マニアックな枠を脱することは無いにしろ、これからスポットを浴びそうな予感、フランスの作曲家(生まれはベルギーのフランス語圏... )、アンドレ・エルネスト・グレトリ(1741-1813)。リュリに始まって、ラモー、グルックでさらりと説明されて、次に出てくるのはベルリオーズ?どうも、おざなりに扱われがちなフランス・オペラにとって、グレトリのオペラを全曲盤で聴くことができるのは、かなり刺激的(なのは、マニアックの証明ね、きっと... )。で、そのトラジェディ・リリク『アンドロマク』。
トロイ陥落後、戦勝国ギリシアの愛憎を描く、古典オペラ、定番のストーリーは、ラシーヌの原作(ギリシア悲劇の翻案)を用い、フランス伝統の音楽悲劇(トラジェディ・リリク)のスタイルで作曲。となれば、18世紀、フランスの、音楽的エスプリを煮詰めたような、独特の濃さが印象的。ラモーの後継者としてフランスで大成功したグルックのオペラの進化系というのか、よりナンバー・オペラ的なスタイルからは離れ、ソロ、コーラスがより複雑に綾なして、全編がレチタティーヴォ・アッコンパニャート(伴奏付きレチタティーヴォ)のような、そんな印象すら受ける... 例えば、『アンドロマク』(1780)の翌年に初演されたモーツァルトの『イドメネオ』(1781)などと比べると、そのスタイルの違いにちょっと驚かされるほど。それでいて、次の時代の臭いがそこかしこに漂い始めていて、さらにその先、ベルリオーズのオペラの独特さの源を、グレトリの中に見つけたような... いや、ベルリオーズとの距離は、思ったほど遠くない?そして、フランス・オペラの流れを掴めたような、そんな手応えも。
そして、バロックを飛び出したニケ+ル・コンセール・スピリチュエルの演奏が新鮮!ボワモルティエの『ダフニスとクロエ』(GLOSSA/GCD921605)、デトゥシュの『カロリエ』(GLOSSA/GCD921612)、マレの『セメレ』(GLOSSA/GCD921614)と、フランス・バロックの知られざるオペラを取り上げて来た彼らだが、得意の範疇から踏み出すグルック後のオペラは、挑戦であったはず... が、さらりとギア・チェンジ。古典派の流麗な響きも丁寧に捉え、歌手たちを引き立て、すばらしい仕事ぶりを聴かせてくれる。そんな、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルの演奏に乗って、出口のない四角関係を演じる4人のソリストが、また、すばらしく... 4人が4人とも、ラシーヌの古典劇のクラッシーさと、古典派の時代の流麗さに見事にマッチした美しい歌声を響かせて、魅了されるばかり。かつ、トラジェディ・リリクならではの、「歌」より「ドラマ」なあたりをきっちり演じ切って、美しい音楽の中で、破綻に向けて突き進む4人が、独特のスリリングさを生み、惹き込まれる。
で、忘れてならないのが、全編に渡って大活躍のコーラス。オラトリオか?というほどコーラスがドラマを引っ張って、聴き所を作ってゆくのだけれど... ル・コンセール・スピリチュエルのコーラス部隊に、ヴェルサイユ・バロック音楽センター合唱団が加わり、これがパワフル!ドラマが進むにつれ、そのヴォルテージも上がり、フィナーレなどは圧巻。古典派的、長調で迎えるカタストロフィ、そのカタルシスは、ヤミツキになりそう。

Le Concert Spirituel - Hervé Niquet Andromaque Gréstry

グレトリ : オペラ 『アンドロマク』

アンドロマク : カリン・ドゥシェー(ソプラノ)
エルミオーヌ : マリア・リッカルダ・ウェッセリンク(メッゾ・ソプラノ)
ピュロス : セバスチャン・グーゼ(テノール)
オレスト : タシス・クリストヤニス(バリトン)

ヴェルサイユ・バロック音楽センター合唱団
エルヴェ・ニケ/ル・コンセール・スピリチュエル

GLOSSA/GCD 921620




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