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ハイドン、でもなく、モーツァルト、でもない... [2010]

『コンサートの文化史』という本を、ちょびりちょびり読んでいる...
で、コンサートという視点から、クラシックを捉え直すと、何だか眩暈を起こしそうになる。当たり前のように、残されたスコアで捉えて来たクラシック。けれど、そのスコアが、どういう環境で演奏されてきたのか?という視点に立てば、我々が捉えているクラシックのイメージは、あまりにも現代的なのかもしれない。
そうした中、聴く、18世紀後半、古典派の時代の音楽... 従来のクラシックであるならば、ハイドンとモーツァルトで簡単に説明されてしまうわけだが。スコアだけでなく、その時代、リアルな音楽シーンから見つめたならば、まったく違うものとして、浮かび上がるのかも。ということで、グナール・レツボール率いる、アルス・アンティクァ・オーストリアによる、コハウトをフィーチャーしたアルバム"Haydn's lute player"(Challenge Classics/CC 72323)と、トーマス・ファイ率いる、マンハイム・モーツァルト管弦楽団によるサリエリの序曲集のシリーズ、第2弾(hänssler/98.554)を聴く。


ハイドンのリュート奏者とは?カール・コハウト...

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"Haydn's lute player"というタイトルが、かなり気になるのだけれど... ハイドンが活躍した頃、ウィーンにて、リュートのヴィルトゥオーゾとして知られたカール・コウハト(1726-84)。当時のウィーンの楽壇にとって、重要な役割を担ったスヴィーテン男爵のサロン... そのあたりを通じて、ハイドンとも親交のあったようで。1曲目には、ハイドンによるリュート三重奏曲が取り上げられ、ハイドンとのつながりから始まる"Haydn's lute player"。だが、そうした、当時のウィーン古典派コネクション(21世紀の今から振り返ると、とんでもなく豪華な顔ぶれ!)への興味の一方で、18世紀も半ばを過ぎてのリュートという楽器の扱いが気になる...
リュートというと、ずばり古楽器。ルネサンスや、初期バロックのレパートリーで活躍する楽器というイメージがあるわけだが、そうしたアルカイックなイメージが強い中で、リュートは古典派の時代に、どんな風に響いていたのだろうか?イメージが沸き難いような気もする。が、古典派のサウンドと巧く渡り合い、意外にしっくりきてしまう。そんな古典派のリュート作品... ハイドンのリュート三重奏曲(track.1-3)、コハウトのディヴェルティメント(track.4-7)、リュート協奏曲(track.11-13)が取り上げられる。で、ボッケリーニのギターを用いる作品が、よりソフトになったような、そんな感覚?なんて言ってしまうのは、無謀かもしれないけれど... 古典派におけるリュートという存在も、間違いなく魅力的だ。で、リュートという楽器の新たな表情を見つけたようでもあり。またフーベルト・ホフマンによるリュートがすばらしく、実直なサウンドの中に、やさしげな表情がこぼれ、ルネサンスや、初期バロックのレパートリーでの密やかさとは一味違う、瑞々しさに、魅了される。
そして、「ハイドンのリュート奏者」ばかりではないコハウト... このアルバムの魅力は、コハウトの作曲家としての仕事ぶりを知ることにもある。特に、アルバムの締め、交響曲(track.14-16)は、聴き応え十分。カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ的な、弦楽5部という編成ではあるけれど、堂々とシンフォニック!何よりドラマティック!まさに疾風怒濤の時代を物語るサウンドに、ノックアウト気味。さらに、レツボール+アルス・アンティクァ・オーストリアがの演奏が、ピリオドならではの鋭さとアグレッシヴさで、圧巻!ハイドンの6つ年上、ハイドンともモーツァルト家とも親交のあった、ウィーン古典派、もうひとりの作曲家の音楽を、見事に伝えてくれている。

Karl Kohaut Haydn's Lute Player ARS ANTIQUA AUSTRIA

ハイドン : リュート三重奏曲 *
コハウト : 第1のディヴェルティメント 変ロ長調 *
コハウト : コントラバス協奏曲 ニ長調 *
コハウト : リュート協奏曲 変ロ長調 *
コハウト : 交響曲 ヘ長調

フーベルト・ホフマン(リュート) *
ヤン・クリゴフスキー(コントラバス) *
グナール・レツボール/アルス・アンティクァ・オーストリア

Challenge Classics/CC 72323




モーツァルトの敵役?いや、その先を走る人物... アントニオ・サリエリ。

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2008年に、第1弾(hänssler/98.506)がリリースされた、ファイ+マンハイム・モーツァルト管による、サリエリの序曲集のシリーズ。ゆっくりと進められているハイドンの交響曲のシリーズ、昨年のメモリアルに間に合ったメンデルスゾーンの交響曲のシリーズの一方で、リリースが随分と開いてしまったサリエリ... シリーズとは謳っているけれど、やっぱり続かないのかな?なんて思っていたところに、第2弾。近頃、どこのレーベルも大変なわけでして... ましてやサリエリ... 向こう見ずなことをしでかしてくれる、ファイ。だが、取り上げる以上は間違いなくおもしろいものに仕上げてくるのがファイ。第1弾では、ファイ+マンハイム・モーツァルト管のエンターテイメント性に溢れる演奏で、十二分に楽しませてくれた。そして、第2弾。さらにエンターテイメント性は強まっている?より堂に入って、アカデミックなクラシック... とは、またひと味違う(?)、音楽の楽しさそのものをぶつけてくるよう。
モダン/ピリオドのハイブリットとしてのハイデルベルク響があって、完全なピリオド仕様となると「マンハイム・モーツァルト管弦楽団」名義になるわけだが、そうしたスタイルを越えた、音楽そのものの魅力が印象に残る、サリエリ、第2弾。当時のサウンドを再現する「ピリオド」というよりも、18世紀後半のオペラハウスの賑わいを再現する「ピリオド」なのが、ファイ+マンハイム・モーツァルト管によるサリエリなのかもしれない。モーツァルトの敵役として知られるサリエリだが、常にウィーンの音楽シーンを牽引していた存在だけに、このアルバムで展開されるサウンドというのが、当時のウィーンのリアルな最新モード。ベートーヴェンのような響きの厚さと、ロッシーニのような軽快さ、メロディックなあたりは、古典派の次の時代を垣間見せて、第1弾でも感じた、モーツァルトよりも先を走っていたサリエリの姿を、再確認させられる。
ハイドン、そしてモーツァルト... と、教科書的に説明される古典派像とは一味違う、当時のオペラハウスを沸かした音楽としてのサリエリの序曲集のシリーズ。活き活きと、粋なあたりを聴かせるファイ+マンハイム・モーツァルト管の演奏は、ただただ楽しませてくれる。そんな、彼らによる、屈託の無いサリエリの魅力を味わってしまえば、モーツァルトすら気難しく感じられる?で、このシリーズ、どこまで続くのだろうか?序曲のみならず、オペラ本編も聴きたくなってしまうのだけれど...

aNtoNio saLieRi Ouvertures & Stage music

サリエリ : オペラ 『あべこべの世界』 序曲
サリエリ : オペラ 『タラール』 序曲
サリエリ : オペラ 『オルムスの王、アクスル』 小シンフォニア
サリエリ : オペラ 『ペルシャの女王パルミーラ』 序曲
サリエリ : オペラ 『黒人』 序曲
サリエリ : オペラ 『黒人』 小シンフォニア
サリエリ : オペラ 『トロフォーニオの洞窟』 序曲
サリエリ : オペラ 『魅惑の女』 シンフォニア
サリエリ : オペラ 『ダリーゾとデルミータ』 イントラーダ
サリエリ : オペラ 『ダリーゾとデルミータ』 ロッタ
サリエリ : 『ナウムブルクの前のフス教徒』 のための 序曲、間奏曲 1、間奏曲 2、間奏曲 3、間奏曲 4
サリエリ : オペラ 『アンジョリーナ、あるいはざわめき結婚』 序曲

トーマス・ファイ/マンハイム・モーツァルト管弦楽団

hänssler/98.554




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