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音楽史回文、松平ワールド。 [2010]

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たっ、多重録音でコーラスですかっ?!
気鋭のバリトン、松平敬... たった独りで、コーラスしてしまう、不思議アルバム、"MONO=POLI"(Enzo Recordings/EZCD 10006)。
前号の"intoxicate"で、「衝撃的な1人電脳合唱作品」と紹介されて... ありそうで無かった?いや、クラシックというカテゴリーでは、許されない行為?というより、クラシックとして納まるのか?と、気になって仕方なかった1枚。「電脳合唱」と聞いてしまうと、エキセントリックに、エレクトリックに展開されるのか?と思いきや、これがまた、真正面からコーラスに挑んでいて、意外にクラシック... だけど、やっぱり何かが違う?というのは、凝りに凝った構成から来る感覚だろうか?音楽史の回文のような展開に、してやられてしまう1枚。
そんな、希有なアルバム、"MONO=POLI"を聴く。

まず、驚かされるのは、何から何までを、松平氏がこなしてしまっていること!録音、マスタリング、アート・ディレクション... もちろん、プロデュースも。やってしまう、やれてしまうことが凄い... それでいて、こうも凝ったアルバムに仕上がるのだから、本当に驚かされる。
というのが、先にも書いた通り、音楽史を回文してしまうこと!これが、本当におもしろい!中世から現代まで、丁寧に時代を下り... 自作(ということは、作曲家ですらある... )を折り返し地点に、そしてまた、現代から中世へと遡る。コーラスというスタイルで音楽史が貫かれることで、音楽史が如何にして進化し、発展して来たかが、手に取るように分かる。これは、なかなか他では体験し得ない感覚だ。
例えば、ゴシック期の朴訥とした音楽の後で、ルネサンス期の幕開けを告げるダンスタブル(track.5)の美しいポリフォニーが流れ出せば、そのなめらかさに驚かされる。その後で、ジェズアルド(track.6-8)ならではの不協和音を味わえば、爛熟し切って今にも崩れてしまいそうな「ルネサンス」が発酵して、甘い匂いを放つかのよう。同じ声で、時代を下ることで、余計に際立つそれぞれの時代の変化... そして、ゴツゴツしたサウンドと、なめらかなサウンドが交互にやって来る、音楽趣向の揺れ... 今さらながらに、音楽史を見つめ直す、最高の機会を与えてくれたようにすら感じてしまう。
なんて書くと、"MONO=POLI"は、アカデミックなアルバム?いや、けしてそうはならない松平氏の絶妙なバランス感覚、秀逸なセンスがあって... バッハの8声のカノン(track.9)なんて、ほとんどギャグ。2つのケージ作品(track.14, 20)は、ウケます。で、アルバムのタイトルにもなっている松平作品(track.16)が、また、ヘンテコでして... そんな作品が、要所要所で異彩を放ち、"音楽史回文"のおかしみ、妙を演出する。
それにしても、全ての声部を歌い切るという偉業(異形?)。やはり、このアルバムの目玉はこれだ。バリトンという、男声としては極めて平均的なパートを担ってきた歌手が、ファルセットを駆使して女声のソプラノまでをカヴァーしてしまうのだから。ま、多少、高音はきついかな?というところも、なくはないが、ある意味、そういう部分で、一切の加工無しで挑んだ、クラシック魂に脱帽してしまったり。「電脳合唱」と紹介されても、あくまで生声のコーラスに仕上がるこだわりが、見事。それも、たったひとりの声で紡がれるコーラスの純度の高さは、ただならない瞬間があって、リゲティの16声部におよぶルクス・エテルナ(track.15)は白眉!
という具合に、完全なる松平ワールドが繰り広げられる、その徹底ぶりは、ある意味、贅沢なのかも。

MONO=POLI Takashi Matsudaira

作者不詳(イギリス、1260年頃) : 夏のカノン
作者不詳(13世紀) : アレ (歌え) ルヤ
作者不詳(イギリス、14-15世紀) : ねんころりん、私は可愛らしい、上品な姿をみた
作者不詳(12-13世紀) : ローマは喜び歓喜の声をあげよ
ダンスタブル : 聖なるマリア
ジェズアルド : マドリガル曲集 第6巻 より
   麗しき人よ、あなたが去ってしまうのなら/ああ、なんとむなしく、私はため息をつくのか/私は、ただ呼吸する
J.S.バッハ : 8声のカノン BWV 1072
モーツァルト : 心より愛します K.348(382g)
グリーグ : めでたし、海の星
ストラヴィンスキー : アヴェ・マリア
シェーンベルク : 『3つの風刺』 より 分かれ道にて Op.28-1
ケージ : 『居間の音楽』 より 昔話
リゲティ : ルクス・エテルナ
松平敬 : モノ=ポリ
ブライアーズ : マドリガル集 第2巻 より
   私は、この地上に天使のような姿を見た/ おお、あてどない歩みよ、おお、うつろいやすく、しかし確固とした思いよ
ベリオ : もし私が魚なら
ケージ : 声のためのソロ 24ヴァージョン の 同時演奏
シェーンベルク : 千年を三度 Op.50A
ドビュッシー : シャルル・ドルレアンの3つの歌
ブラームス : おお、なんとなだらかに
パーセル : 主よ、わが祈りをききたまえ
パレストリーナ : 主よ、今こそあなたは
ジョスカン・デ・プレ : ミサ 「ダ・パーチェム」 より アニュス・デイ
作者不詳(スペイン、15-16世紀) : 3人のムーア娘
作者不詳(スペイン、15-16世紀) : 手に手をとって
マショー : 我が終わりは我が始まり

松平敬(ヴォーカル、パーカッション、他... )

Enzo Recordings/EZCD 10006




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