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ヒナステラについて... グロッセス。 [2010]

ゴリホフのマルコ受難曲を聴いて、ヒナステラを聴く...
ここのところ、すっかりラテンづく。いや、気温も上がってくれば、やっぱり陽気なものがいい!が、そうはいかないヒナステラ... クラシックにおける「ラテン・アメリカ」ともなれば、極めて狭い括りのようだが、実はかなり多様であることを思い知らされる。同じアルゼンチンの作曲家、ゴリホフ(b.1960)の後でのヒナステラ(1916-83)だと、またひと際... そして、ヒナステラという作曲家の多様性にも驚かされてみたり。
そんな、アルバムを2枚。近現代音楽のスペシャリスト、シュテファン・アズベリーとケルンWDR交響楽団による、プリミティヴが炸裂する「ポポル・ブー」(NEOS/NEOS 10918)と、ラテン・アメリカの音楽のスペシャリスト、ジセル・ベン・ドールとロンドン交響楽団による、パブロ・カザルスにオマージュを捧げたカザルスの主題によるグロッセス(NAXOS/8.572249)を聴く。


プリミティヴ、マヤ!

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まず、のっけから、そのプリミティヴさに、衝撃を受ける。ノリのいい『エスタンシア』のイメージでいると、余計に... そんなアルバム前半、「ポポル・ヴー」(track.1-7)。マヤ世界の創造... というサブ・タイトルの通り。ジャングルに呑み込まれてしまった、謎めく文明が蘇るような、ミステリアスさが炸裂する音楽。で、そんな音楽に、ちょっと中てられもして。オーケストラという極めてヨーロッパ的なメディアを駆使しての、生み出されるマヤ(ヒナステラなりの想像的マヤではあるのだけれど... )の生々しさというのか、そのギャップが凄い。
「ラテン・アメリカ」というと、ミックス・カルチャーのイメージがまずある。だから、クラシックにおける「ラテン・アメリカ」も、どこかでクラシックであるというヨーロッパ的なセンスと、多様なセンスの集合体である「ラテン・アメリカ」のカクテルを期待してしまう?となると、結局、エキゾティシズムから抜け出ない音楽になるか... しかし、そういう期待を見事に裏切って、炸裂する「ポポル・ヴー」。バーバリスティックなあたりは、ストラヴィンスキーの『春の祭典』の延長線上にある、まさに近代音楽。だが、そこに、ヨーロッパ的なセンスでは割り切れない、不可解さというか、ミステリアスさがじわじわと増幅し、異様にプリミティヴに盛り上がって見せる。これを聴いてしまうと、『エスタンシア』が実にあっさりとしたものに思えてしまうほど。また、そんな音楽を、アズベリー+ケルンWDR響の、ドイツ的、律儀さが捉えれば、作品の持つ、どこか露悪的な部分が如何無く発揮されるようで、その迫力はただならない。一方で、前面に押し出されたプリミティヴさの中に、複雑に織り込まれた音響のおもしろさがあって、ゾクゾクさせられるところも。そうしたあたりでは、露悪的な先に、洗練すら感じさせるアズベリーのセンスが見事。最初こそ中てられたものの、アズベリー+ケルンWDR響のすばらしい演奏もあって、ヒナステラの新表現主義、このサウンドには、ヤミツキになりそう。
そして、アルバム後半、魔術的アメリカに捧げるカンタータ(track.8-13)。ドラマティック・ソプラノとパーカッション・オーケストラによる... という編成が、また奇天烈でして。感覚としては、ストラヴィンスキーのバレエ『結婚』に似てもいるが、断然、ミステリアス... まさに魔術的(コミカルなところもあるのだけれど... )。一方で、アズベリーの指揮の下、アンサンブルS、ケルン音楽大学打楽器アンサンブルによるパーカッションが、才気溢れる演奏を繰り広げていて、ライアンヌ・デュプワ(ソプラノ)の濃厚な歌声と好対照。何気にブガッロ・ウィリアムズ・ピアノ・デュオが参加していたりで... 近現代作品にこなれた面々が揃っての演奏は、なかなかクール!

Ginastera Popol Vuh ・ Cantata para América Mágica

ヒナステラ : ポポル・ヴー Op.44 (マヤ世界の創造) *
ヒナステラ : 魔術的アメリカに捧げるカンタータ 〔ドラマティック・ソプラノとパーカッション・オーケストラのための〕 ***

ステファン・アズベリー/ケルンWDR交響楽団 *
ライアンヌ・デュプワ(ソプラノ) *
ステファン・アズベリー/アンサンブルS、ケルン音楽大学打楽器アンサンブル *
ブガッロ&ウィリアムズ・ピアノ・デュオ(ピアノ) *

NEOS/NEOS 10918




カザルス、ノスタルジア。

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ウルグアイ出身の女性指揮者、ジセル・ベン・ドール(b.1955)。「ラテン・アメリカ」のスペシャリストとして、ヒナステラのバレエ『エスタンシア』の、組曲ではなく全曲を世界初録音したりと、前世紀末、注目を集めたわけだが... そんな彼女のかつての録音が、ちらほらとNAXOSから再リリースされ、気になってしまう。そんな1枚、KOCH Schwannからリリースされていた、パブロ・カザルスの主題によるグロッセス... 未体験のヒナステラ作品ということで、早速、聴いてみることに。
さて、この作品、カザルス(1876-1973)の生誕100年を記念して作曲(1976)されたとのこと。また、弦楽五重奏と弦楽オーケストラのための... というオリジナル(Op.46)を、ワシントン・ナショナル響が取り上げるにあたって、シンフォニックにヴァージョン・アップ(Op.48)。で、このアルバムには、その2つのヴァージョンを収録。そんな並列が実に興味深く。弦楽オンリーから、シンフォニックにヴァージョン・アップされたところに、ヒナステラのオーケストレーションの妙を見る思い。オリジナルもすばらしいが、シンフォニック・ヴァージョンの多彩で、一筋縄にはいかない響きは、見事!ヒナステラという作曲家を改めて見直してしまう。
そして、この"glosses(なんて訳すのだろう?解説集?)"というのが、おもしろい!カザルスに因んだ音楽のコラージュ?とでもいうのか、聴いたことのあるメロディ(例えば、カザルスの代名詞、「鳥の歌」など... )、聴いたことのないメロディ(けど、どこか懐かしい... )、あらゆる要素が綾成して、アイヴスのような感覚もあったりで。聴けば聴くほど、味が出てくる。そして、このコラージュされた感覚が、何とも切なげで、カザルスとの思い出が、ぼぉっと幻影となって立ち上るような、不思議な感覚がある。「ポポル・ヴー」、魔術的アメリカに捧げるカンタータと同じ、新表現主義の時代の作品ではあるが、また一味違うテイストで、魅了される。
一方、2つのパブロ・カザルスの主題によるグロッセスに挟まれて、取り上げられる協奏的変奏曲(track.6-17)。「ラテン・アメリカ」の、モダニスト・ヒナステラのイメージそのままに、分かり易く楽しませてくれる作品。だが、強烈なプリミティヴさと、見事に織り上げられたカザルスへの思い出に触れてしまうと、どこか物足りなく感じる?いや、聴き馴染んだヒナステラのテイスト、十分に魅力的なのだが。
それにしても、ヒナステラはおもしろい!第1期、バレエ『エスタンシア』が作曲された、客観的民族主義(1934-48)。第2期、1番の弦楽四重奏曲や、ハープ協奏曲が作曲された、主観的民族主義(1948-58)。第3期、「ポポル・ヴー」が作曲された、新表現主義(1958-83)。ヒナステラの創作活動は、3つに分けられ、そして、進化していったわけだが、その進化が生んだ多様さに、改めて驚かされる。
そうそう、忘れてならないベン・ドール。やはり、スペシャリストだ... ヒナステラ・サウンドの持つドライさと、ヴィヴィットさを、きっちり引き出して、パワフルかつクリアな音楽を展開。ロンドン響(パブロ・カザルスの主題によるグロッセス)、イスラエル室内管(協奏的変奏曲)ともに、彼女に応え、好演。作品の魅力をより際立たせている。

GINASTERA: Glosses on Themes of Pablo Casals

ヒナステラ : パブロ・カザルスの主題によるグロッセス Op.48 〔オーケストラのための〕 *
ヒナステラ : 協奏的変奏曲 Op.23 *
ヒナステラ : パブロ・カザルスの主題によるグロッセス Op.46 〔弦楽五重奏と弦楽オーケストラのための〕 *

ジセル・ベン・ドール/ロンドン交響楽団 *
ジゼル・ベン・ドール/イスラエル室内管弦楽団 *

NAXOS/8.572249




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