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第九の季節に、第九... [2009]

12月も半ばを過ぎて... また、第九の季節が巡ってきました。
ということで、第九を聴くことに。パーヴォ・ヤルヴィ率いるドイツ・カンマーフィル、ベートーヴェン・ツィクルス、完結編、第九(RCA RED SEAL/88697576062)。で、もうひとつベートーヴェンを... パトリシア・コパチンスカヤが弾く、ヴァイオリン協奏曲(naïve/V 5174)。
やはりこの季節、「ベートーヴェン」というのは、しっくりきてしまう。ような。年末に第九と聞けば、「またか... 」という思いが滲むのだけれど、それでも、なんとなく引き寄せられてしまうのは、第九に限らず、ベートーヴェンの音楽に存在する、ユニヴァーサルな魅力?どこか集大成的で、1年を締め括るのには最高のサウンドなのかもしれない... 第九、ヴァイオリン協奏曲を聴いて、そんな風に思う。


パーヴォ+ドイツ・カンマーフィルの、カジュアルな第九。

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2006年に、3番、「英雄」と、8番(RCA RED SEAL/88697 00655 2)でスタートした、パーヴォ+ドイツ・カンマーフィルによる、ベートーヴェンのツィクルス。その第1弾、モードに囚われることのない、一皮むけたベートーヴェンというのか、これまで体験したことのない、斬新な感覚に驚かされて。戸惑いつつも、その不思議な感触を持ったベートーヴェンに、魅了されることに...
続く、第2弾(RCA RED SEAL/88697129332)、第3弾(RCA RED SEAL/88697 33835 2)と、ツィクルスは、パーヴォ、独特の感性に貫かれ、異彩を放ってきた。が、貫かれつつも、試行錯誤やら、葛藤も見受けられ、ツィクルスとしての深化も興味深く... 前作、6番、「田園」(RCA RED SEAL/88697542542)では、歩む方向が見定まった観もあり、他では体験し得ない「田園」が、強く印象に残る。そして、完結編としての第九だ... まさに、到達点としての第九がそこにある。
どこか、気難しさが漂う1楽章。その気難しさに、聴きづらさのような、わかり難さのようなものを感じることがあるのだけれど... パーヴォは、いつもながら、全てを明晰に解析して、「伝統」という名の重力から解放してしまう。そして、その感覚、これまでのベートーヴェンの交響曲、どの曲よりも際立っていて、のっけから驚かせてくれる。無重力の中を、弾んで、弾んで、これまでの第九では飛んでゆきそうもない場所へまで、飛んでいってしまいそうな、ただならない弾力のある、軽快な1楽章。弾めば、弾むほど、気難しさは晴れて。そうして見えてくるものは、ツィクルスの歩み、そのもの?ベートーヴェンのそれまでの交響曲の匂いが、次から次へとこぼれ出し、1楽章にして、ダイジェストのように感じてしまうのが新鮮。2楽章は、"ピリオド"仕込みのドイツ・カンマーフィルのキレが炸裂!軽快で、スポーティー... けれど、ガツンともくるあたりは、ロック?一転、3楽章は、"ピリオド"よりの演奏にありがちな、せかせかした早足感はなく、ふんわりとリリカルな表情が広がって。とはいえ、前世紀の、ロマンティックな第九に比べれば、間違いなく快足なのだけれど...
そんな快足の第九、トータルで64分を切ってくる。かつて、CDの収録時間、74分は、第九が基準だったわけだが、10分も短くなってしまったことに、時代の流れを恐ろしく感じてしまう。
さて、第九といえば、歌だ。パーヴォ+ドイツ・カンマーフィルにばかり目がゆき、あまり気にしていなかったのだが、改めて歌手の名前を見れば... いや、なんとゴージャスな!エルツェ(ソプラノ)、ラング(アルト)、フォークト(テノール)、ゲルネ(バリトン)... まったく、こうもドイツ系の実力派を揃えられると、その名前が並んでいることが、まず、壮観!もちろん、名前ばかりでない。歌パートの口火を切るゲルネの、深く、説得力のある歌に、まず惹き込まれ... フォークトの少年のような歌声が持つ、無垢な表情が、独特の軽やかさを生み... そんなフォークトをキャスティングしたあたりに、パーヴォの、このツィクルスの方向性を見る思いも... そして、ドイツ室内合唱団のコーラスは、ドイツの室内合唱ならではのクリアさと、「室内」ならではの引き締まったパワフルさが印象的で、フィナーレに向けて大いに盛り上げてくれる。
そんな第九、一気に聴けてしまう。全体的なまとまりをしっかり感じつつ、なおかつツィクルスとしての集大成であるあたりも、気負うことなく、そこはかとなく描き込んで、見事。で、生まれたのが、これまでにない第九... それは、重力から切り離された、軽やかな第九。なんともカジュアルな第九。そのカジュアルさに面喰いもするのだが、揺るぎなく、堂に入った「カジュアル」さには、感心もさせられ... この、惑わされる感覚は、第1弾以来か?完結編にして、始まりの新鮮さを呼び覚ますパーヴォの意気込みに、感服される。

The Deutsche Kammerphilharmonie Bremen paavo järvi beethoven 9

ベートーヴェン : 交響曲 第9番 ニ短調 Op.125 「合唱」

クリスティーナ・エルツェ(ソプラノ)
ペトラ・ラング(アルト)
クラウス・フローリアン・フォークト(テノール)
マティアス・ゲルネ(バリトン)
ドイツ室内合唱団
パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン

RCA RED SEAL/88697576062




全てを網羅... コパチンスカヤのベートーヴェン、ヴァイオリン協奏曲集。

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パトリシア・コパチンスカヤ(b.1977)、モルドヴァ出身の、naïveが売り出し中?話題のヴァイオリニスト... が、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾く!ということよりも、コパチンスカヤの後ろで、フィリップ・ヘレヴェッヘと、彼が率いるシャンゼリゼ管弦楽団が、naïveに登場する?!彼らのベートーヴェンが聴ける!ということが楽しみだったりして...
しかし、見事なヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれる、コパチンスカヤ。まず、完全なピリオド・オーケストラを相手に、きっちりと"ピリオド"に対応してみせる。が、完全なノン・ヴィブラート... というまでのストイックさには至らない。けれど、そのあたりが、かえって効果的にヴィブラートを用い、鮮やかな表情が付けられてゆくようでもあり、そのバランスが絶妙。不慣れなものを前に、変に硬くなったり、不安定になることなく、臆することなく挑んで、勢いのある、溌剌としたベートーヴェンを響かせる。それは、「三大ヴァイオリン協奏曲」なんていう、厳めしさよりも、この作品が持つ、瑞々しい表情をめいっぱい捉えて、初々しくすらある。
そして、ヘレヴェッヘ+シャンゼリゼ管... ブルックナーのツィクルスが進行中の彼らだが、その他も聴いてみたいと思っていたところでのベートーヴェン。どんな音楽を聴かせてくれるのだろうかと、大いに気になっていたのだが、すばらしい演奏を聴かせてくれる。「三大ヴァイオリン協奏曲」にあって、メンデルスゾーン、ブラームスに比べると、華やかさに欠けるような印象を持っていたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。いや、その渋さこそが魅力。と、感じていたのだけれど、渋いばかりでないおもしろさ、色彩感、繊細な表情、その全てを描き出して、アグレッシヴな音楽を紡ぎ出すヘレヴェッヘ+シャンゼリゼ管。メンバーひとりひとりの意識の高さが、何気ないところで輝きを生み、主役はコパチンスカヤではあるが、作品全体が呼吸を始めるようで、魅了されてしまう。もちろん、コパチンスカヤのヴァイオリンを好サポート... いや、最高のコラヴォレーションを繰り広げ、作品のイメージをより広げてみせる。
さて、コパチンスカヤのこのアルバム、有名なヴァイオリン協奏曲ばかりでなく、2つのロマンスも収録し、さらには、1楽章の途中で途切れてしまっているWoO.5のヴァイオリン協奏曲まで網羅しているあたり、なかなか興味深く。世紀が変わる前の、若い頃の作品だけに、古典主義的なトーンは強いが、なかなか魅力的で、ぶつりと途切れてしまうのがもったいない!それにしても、本当に「ぶつり」といった感じで、ちょっと驚かされる。が、そうした作品も含めての、完全なベートーヴェンのヴァイオリンとオーケストラのための作品集となっているあたり、売り出し中、話題のヴァイオリニストのアルバム... という鳴り物入りとは違う意気込みが籠められていて、聴き応え十二分。しっかりと楽しめてしまう。

BEETHOVEN Patricia Kopatchinskaja Orchestre des Champs-Elysées Philippe Herreweghe

ベートーヴェン : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
ベートーヴェン : ロマンス 第1番 ト長調 Op.40
ベートーヴェン : ロマンス 第2番 ヘ長調 Op.50
ベートーヴェン : ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 WoO.5 〔断片〕

パトリシア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団

naïve/V 5174




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