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回って、回って、東へ、西へ! [2009]

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"Confréries d'orient et d'occident"
"L'état de Transe ・ Laudes et Chants Soufis"
東洋と西洋の信心会... 恍惚状態、ラウダとスーフィーの歌... と、サブ・タイトルっぽく、フランス語で書かれているのだけれど。その文句のミステリアスなこと!何やら秘儀的で、どんなサウンドが流れ出すのかと、興味を掻き立てられる。というのは、ドゥニ・レザン・ダドル率いる、フランスの古楽アンサンブル、ドゥルス・メモワールの最新盤"Laudes"(Zig-Zag Territoires/ZZT 090901)。
いつも凝ったプログラムを届けてくれる彼らだが、今回は、大胆にも、16世紀、イタリアのラウダ(教会の典礼音楽とはまた違う、民衆に根差した中世イタリアの讃美歌... )と、スーフィー(イスラムの神秘主義... )の旋舞のための歌を、ひとつのディスクに盛り付けて、驚かせてくれる。直接的な関係性は無いはずの、地中海を挿んだ西と東の祈りの歌だが、並べてみれば、妙につながってしまって、共鳴するようなところもあって、刺激的。そんな、特異なアルバムを聴く。

「スーフィー」というと、トルコの、コマのようになって回る、優雅な旋舞のイメージがまずある。一方で、回ることによって、トランス状態に導き、神との対話を試みる、神秘主義だということも、なんとなくは知っていたのだけれど... そうしたあたりが、常に異端視され、またトルコ革命(1922)以後は、禁止すらされているのだとか。この"Laudes"をきっかけに、ちらりと調べてみれば(ま、wikiにて、なのですけれど... )、その世界、歴史は、なかなか興味深い。そして、托鉢修道会に端を発するラウダだが、こちらも、特殊な位置にある歌だ。教会(ラテン語)の外にある、民衆に根差した中世イタリアの讃美歌(イタリア語)、そんな感じだろうか、時として、土着的とも言えるオーガニックな響きを放つ... 「正統」からは少し離れた場所にある、東と西の祈りの歌には、ともに大地に根差した力強さがあって、それぞれ惹き込まれてしまう。大胆だが、ラウダとスーフィーの歌を並べようという、レザン・ダドルの視点は、間違いなくおもしろい。
で、アルバムの中身なのだが... まずは、スーフィズムを支えたメヴレヴィー教団の創始者、ルーミー(1207-73)の詩による歌で始まる。タギー・アフバリのペルシア語による歌、ナデル・アガーハニによるタール(西アジア版リュート?)で、一気にオリエンタルな世界へとトリップさせてくれる。そこに、レザン・ダドル+ドゥルス・メモワールの歌と演奏も加わり、艶やかなオリエンタリズムに、力強さが増して、クール!1曲目からして、かなりカッコいいサウンドが展開される。のだが、2曲目は、一転、ルネサンスの巨匠、オルランド・ディ・ラッソによる、質素なラウダが続く。
まず、ルネサンスの作曲家が、ラウダというジャンルを手掛けていたことが新鮮。ポリフォニーが持ち込まれ、随分と洗練された進化系のラウダが響く。土臭いラウダを期待していると、多少、肩透かしを喰らうようでもあるが、スーフィーの圧倒的なオリエンタル・サウンドの後では、ヨーロッパの透明感は強調され、印象的。他に、ヴィラールト(track.11)などのラウダも取り上げられ、なかなか興味深い。
そうしたルネサンス期のラウダの中で、"Libro primo delle laudi spirituali"に収められた"Io ti vengo, Giesu, drieto"(track.6)では、スーフィーとのコラヴォレーションのようなサウンドを響かせて、ワイルド!ラウダのオーガニックな魅力が引き出され、刺激的。"Libro primo delle laudi spirituali"からは、他に2つのラウダが取り上げられているのだが、これがまた、野趣に富むパーカションが打ち鳴らされて、スーフィーのオリエンタルなインパクトに負けじと、強いインパクトを残してくれる。アルバムの最後を飾る、アニムッチャの"Cor maligno e pien di fraude"(track.13)では、南米のバロック?なんて思わせるエスニックさも滲ませて、パワフルなあたりが圧巻!
それにしても、レザン・ダドル+ドゥルス・メモワールは、驚くほど器用に、東西を行き来する。清廉なルネサンスと、中世的な野趣を未だ孕むルネサンス... スーフィーのオリエンタルなあたりも、臆することなく挑んで、堂に入ったサウンドに仕上げてくる。何より、ひとつひとつの歌と丁寧に向き合い、それぞれに活き活きとした音楽を紡ぎ出し、かつ多彩な歌をひとつにまとめきったセンスは見事!そして、忘れてならないのが、スーフィーの歌で、ドゥルス・メモワールをリードした、タギー・アフバリの歌と、ナデル・アガーハニのタール。その独特の艶やかさ、屈託の無さは、ヨーロッパでは生み出し得ないセンスに裏打ちされて、魅惑的。東の自由闊達なサウンドに触れてしまうと、西のサウンドは、どうもハードで、ヘヴィーにすら感じてしまう... が、それがまた西の魅力となり... そんな魅力に軽やかに乗っかって繰り広げる、イランをルーツとするアフバリ、アガーハニの音楽は、西の厳格さに魔法を掛けて、より色彩的な音楽世界を出現させ、アルバム全体に化学変化をもたらす。この東西のバランスが、絶妙。
しかし、スーフィーの歌の、独特の軽やかさ、人懐っこいメロディ、すぐにでも口ずさめそうなあたりには、不思議な懐かしさが漂い、同じアジアとしての親近感を感じてしまう。で、つい、回ってしまう。どんなものかと... 当然、目は回るが、トランス状態へと導く、リズミカルな音楽は心地良く。さすがに恍惚状態とまではいかなくとも、"Laudes"、間違いなくエキサイティングな体験をもたらしてくれる。

Laudes | Doulce Mémoire | Denis Raisin Dadre

ルーミー : Djanam, Djanam...
オルランド・ディ・ラッソ : Poiche'l mio largo pianto
メストレ・ジャン・デ・フェッラーロ : Con doglia e con pieta
作曲者不詳 : Alma che scarca
ルーミー : Bia Bia deldareman, Ey yare man, Ey yare man...
作曲者不詳 : Io ti vengo, Giesu, drieto
作曲者不詳 : O pane del ciel
ルーミー : Ya Hou Ya man Hou
作曲者不詳 : Al pie del duro sasso
作曲者不詳 : Piangi ingrato core
アドリアン・ヴィラールト : Piangete egri mortali
作曲者不詳 : Dimmi dolce Maria
ジョヴァンニ・アニムッチャ : Cor maligno e pien di fraude

ドゥニ・レザン・ダドル/ドゥルス・メモワール
タギー・アフバリ(ヴォーカル)
ナデル・アガーハニ(タール)

Zig-Zag Territoires/ZZT 090901




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