SSブログ

21世紀という空気感の中で燈される、マッチ売りの少女の、新たな火。 [2009]

HMU807496.jpgOS10.gifCMM01.gif
1010.gif
ずっと気になっていた作品... デイヴィッド・ラング(b.1957)の、2008年、ピュリッツァー賞(もちろん、作曲部門)、受賞作品、『マッチ売りの少女の受難曲』(2007)が、とうとうリリースされた(とはいえ、例の如く、リリースからは少し過ぎてしまったのだが... )。ラングのような作曲家が、ピュリッツァー賞を受賞した驚きとともに、それがどんな作品なのかと、とても気になり... が、幸いにして、受賞後、すぐにネットで聴くことができた『マッチ売りの少女の受難曲』。で、その感触に、現代音楽もこういうセンスを許容するようになったかと、実に感慨深いものがあって... そんな思いを再び噛み締める、ポール・ヒリアー率いる気鋭のヴォーカル・アンサンブル、シアター・オブ・ヴォイセズらによる、デイヴィッド・ラングのアルバム(harmonia mundi/HMU 807496)を聴く。

まず、ラングのセンスに、してやられてしまう。アンデルセンの童話『マッチ売りの少女』の物語に、「受難」を見出すラング... 受難曲として、『マッチ売りの少女』(track.1-15)を紡ぎ出す。その取り合わせが、おもしろい。そこには、イエスの奇跡に飾られた本来の「受難」より、よっぽど現代に訴えてくるものがあって。21世紀、世界経済の危機的状況を見渡せば、貧しい19世紀の少女の物語に、妙なリアリティが滲む。で、その編成もまた、この経済状況を反映してか、より経済的?
4人の歌手(ソプラノ、アルト、テノール、バス)と、それぞれが手にした楽器(グロッケンシュピール、チューブラー・ベルなどのパーカッション... )。ストイックに切り詰められたサウンド、ミニマルとも一味違うシンプルさが、どこか寒々しとした感覚すらある、徹底した透明感を生み出して。その透明感が、より悲痛な表情を深め、不思議なヘヴィーさを醸す。またそこには、ルネサンスのポリフォニックな作曲家と重なるスタイルを見出すようでもあり、ベルを鳴らしながら歌う姿は、どこかゴシック期のオルガヌムのような雰囲気も漂わせ、シンプルでありながら、そこに編み込まれたイメージは、より多層的なのかもしれない。気難しく、音楽史の先端であろうとすることなく、極めて現代的な、ある種のユーモアとも言えるアイディアを以って綴られる受難曲は、現代音楽というカテゴリーにあって、まったく独特だ。
その独特の音楽世界を、美しく響かせるヒリアー+シアター・オブ・ヴォイセズ... 当然ながら、ロマンティックに濃くなることなく、かと言って古楽風に、変にアルカイックに染まるでもない、楚々としつつも、現代的な感覚から遠くない、そのトーンが印象的。また、密やかなアンサンブルが生み出す、そのトーンだからこそ、『マッチ売りの少女』の儚げなシーンに、鮮烈な「切なさ」を刻み込んでゆく。中世から現代まで、器用に歌いこなす彼らならではの魅力が、これ以上無いほどに、作品とぴたりとはまり、シンプルなサウンドの一方で、生み出されるインパクトは、かなり大きい...

さて、アルバムの後半は、ヒリアーが首席指揮者を務めるデンマークの合唱団、アルス・ノヴァ・コペンハーゲンによる、ラングの合唱作品。4人のヴォーカル・アンサンブルから、コーラスに拡大されてのラングの響きは、より広がりを見せ、やはり独特のトーンを生み出していて、その瑞々しさに惹き込まれる。そして、その瑞々しさは、"クラシック"の堅苦しさを突き抜けて、ニューエイジ的... "I lie"(track.17)の女声コーラスは、何気にアディエマスちっくだったり... そんなラングのサウンドも、興味深いのだが、そういうサウンドを、現代音楽に捉えるに至ったシーンの変化こそが、興味深く...
一時は、凝り固まってしまったように感じた"ゲンダイオンガク"。今また、21世紀のリアルな空気感の中で呼吸し始め、新たな、「現代」にフィットする、現代音楽を生み出そうとする動きが、エキサイティングに感じられてならない。そうした中で、デイヴィッド・ラングという存在からは、目が離せない。2月に聴いたラングの作品集(NAXOS/8.559615)では、ルー・リードすら大胆に取り込み、現代っ子ならではの、権威主義などあっさりと断ち切ってくる、フレキシブルな感性が印象に残る。が、そんな作曲家が、現代音楽から、さらに"クラシック"という世界で、どのように存在感を増していくのか、シーンの変化も含めて、楽しみだ。

DAVID LANG The Little Match Girl Passion Theatre of Voices – P. Hillier

デイヴィッド・ラング : マッチ売りの少女の受難曲 *
デイヴィッド・ラング : for love is strong *
デイヴィッド・ラング : I lie *
デイヴィッド・ラング : evening morning day *
デイヴィッド・ラング : again(after ecclesiastes) *

ポール・ヒリアー/シアター・オブ・ヴォイセズ *
ポール・ヒリアー/アルス・ノヴァ・コペンハーゲン *

harmonia mundi/HMU 807496




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。