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闇が生む輝き... 音楽への"SACRIFICIUM"。 [2009]

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"OPERA PROIBITA(禁断のオペラ)"(DECCA/475 6924)というタイトルも衝撃的だったが、メッゾ・ソプラノの大御所、チェチーリア・バルトリの最新盤は、"SACRIFICIUM(犠牲=供物)"と、またさらに衝撃的で... バロック期の闇を切り取るそのアルバムは、真正面からカストラートに迫って。バロック期の輝かしい、圧倒的なカストラートの「歌」を、21世紀に垣間見せる興味深い1枚(+BONUS CD)。
多くのスター・カストラートを育てたナポリ楽派のアリアを中心に、バルトリの至芸が炸裂。さらに、ヴィヴァルディのアリア集(DECCA/466 569-2)でのコラヴォレーションが、鮮烈な記憶として残る、バロック・ロックの火付け役、ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコが、再びバルトリの下に結集。そんな刺激的なサウンドを伴って、バルトリならではの大胆さ、こだわりが生み出したアルバム、"SACRIFICIUM"(DECCA/478 1521)を聴く。

カストラートをフィーチャーしたアルバムというと、ヴィヴィカ・ジュノー(メッゾ・ソプラノ)によるファリネッリ(harmonia mundi FRANCE/HMC 901778)、アンドレアス・ショル(カウンターテナー)によるセネジーノ(DECCA/475 6569)、フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)によるカレスティーニ(Virgin CLASSICS/3 95242 2)と、伝説の歌手たちに迫る、充実したラインナップがすでにあるのだけれど、バルトリは、「カストラート」そのものに迫ってゆくのか。いつもながらの研究成果を、しっかりとしたブック形式のアルバムにまとめ、バルトリの歌ばかりではない興味深い世界を、丁寧に解説(英語、苦手な子には、読むのがつらい... )し、視覚的にも展開して、手術器具のみならず、その当時の手術図のイラストまで... バルトリ姐さんも気合入ってます。
そして、もちろん、歌でも、演奏でも、気合は十分で... 1曲目、ポルポラの『シファーチェ』からのアリアから、軽やかで、アグレッシヴな、アントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏に乗って、見事なコロラトゥーラを繰り広げてくれる。そっれにしても、まったく隙の無い驚異のテクニック... 超絶技巧を競った時代の、世界的なスターが歌ったアリアなのだから、けして簡単に歌えるものではないはずだけれど、いとも軽々と歌いこなしてしまうバルトリ。その完璧なあたりに、悦に入るような、何も言えない表情を漂わせ、自信たっぷりでもあり、そんな姿がまた神々しくもあって... これが、カストラートが醸した世界なのかも?それは、カストラートのリアリティを覗かせて、今となってはあり得ない世界に、ゾクっときてしまう。
さて、ジモーネ・ケルメスのナポリ楽派のアリア集"LAVA"(deutsche harmonia mundi/88697 54121 2)を聴いての、チェチーリア・バルトリの"SACRIFICIUM"体験は、なかなか興味深い... まず、2つのアルバムのコントラストに驚かされる。同じナポリ楽派を歌いながらも、自由闊達に歌いまくるデュオニッソス的なケルメスに対して、きちっと、端正な音楽を築き上げるアポロ的なバルトリ。音楽史においては、どこか堕落した音楽として扱われがちなナポリ楽派であり、忘れ去られて当然のような扱いでもあったわけだが。その「堕落」の魅惑的なあたりを掬い上げたのがケルメスならば、そうしたステレオ・タイプを払拭するのがバルトリか。オペラ・セリアの神々しさと、確かなドラマティシズムを、きっちりと描き切って、魅了されずにいられない。そして、そこに、歌の国、オペラの国の地力を見せつけられ、ナポリ楽派の生半可ではない伝統と音楽性を、思い知らされる。ロッシーニも、ヴェルディも、プッチーニも、ナポリ楽派のこどもであり、孫であり、みなイタリア・オペラの一族なのだ... ヘンデルがどんなに美しいアリアを書いたとしても、バッハがどんなに深い受難曲を書いたとしても、感情をやすやすと歌に昇華してみせるイタリア人、ナポリ楽派のDNAには敵わないのかもしれない(とはいえ、ナポリ楽派には、ドイツからの留学生も多いのだけれど... )。「歌」に全てを捧げた音楽の、突き抜けた姿は、"SACRIFICIUM"の中で、神々しく輝く。そして、音楽に捧げられた犠牲=カストラートは、その象徴的な存在。バロックの闇へと降りてゆき、そこに生まれるただならない輝きを探るバルトリ... この人の、音楽史と真摯に向き合う姿には、ただただ感服させられる。

さて、BONUS CDに収録されたナンバーが、また魅力的でして... ジェラール・コルビオ監督の映画『カストラート』でも印象的に歌われた、ファリネッリの兄、ブロスキの『アルタセルセ』からのアリア(BONUS CD, track.1)では、見事にバルトリが独りで歌い切って、圧巻!映画では、レイギン(カウンターテナー)と、ゴドレフスカ(ソプラノ)の声をIRCAMが合成してファリネッリの声を創り上げたことを思えば、やはり、バルトリという存在はただならない... 何より、深い低音から軽やかな高音へと飛翔する悦楽!そこに、アントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコのノリに乗ったサウンドが展開されて... エキサイティングであることこの上なし!さらには、ヘンデルのオンブラ・マイ・フ(BONUS CD, track.2)まで... こだわりを突き詰めるだけではない、バルトリのサービス精神も魅力。
それにしても、ナポリ楽派のサウンドというのは、多彩だ。聴衆を楽しませることに事欠かない。

SACRIFICIUM
CECILIA BARTOLI


ポルポラ : オペラ 『シファーチェ』 から 「波の真っ直中の船のように」
カルダーラ : オラトリオ 『セデチーア』 から 「予言よ、私のことを告げたもうた」
アラーイア : オペラ 『ベレニーチェ』 から 「私は落ちるだろう、まるで見るように」
ポルポラ : オペラ 『ゲルマニアのジェルマニコ』 から 「私は出立する、君をおいて、愛しの人よ」
ポルポラ : オペラ 『シファーチェ』 から 「不幸な夜鳴きウグイスは」
グラウン : オペラ 『デモフォーンテ』 から 「哀れな幼子」
ポルポラ : オペラ 『身分の知れたセミラーミデ』 から 「無数の激怒に襲われて」
レオ : オペラ 『パルミーラのツェノービア』 から 「恋をしている喋々のように」
ポルポラ : オペラ 『アデライデ』 から 「気高い水は」
グラウン : オペラ 『シリアのアドリアーノ』 から 「どうか、おんみ、麗しき愛の神よ」
ヴィンチ : オペラ 『ファルナーチェ』 から 「誰が支配神なるジョーヴェを恐れるだろう」
カルダーラ : オラトリオ 『我らの贖い主たる姿を見せるアベルの死』 から 「私はこのような良き牧人です」

BONUS CD
ブロスキ : オペラ 『アルタセルセ』 から 「私は振り乱される船のようだ」
ヘンデル : オペラ 『セルセ』 から 「影はこれまでなかった」 "オンブラ・マイ・フ"
ジャコメッリ : オペラ 『メロペ』 から 「妻よ、わたしが分からぬか... 」

チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
ジョヴァンニ・アントニーニ/イル・ジャルディーノ・アルモニコ

DECCA/478 1521




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