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マーラー、プレ・メモリアルの、8、9、10、 [2009]

ぐっと寒くなって、より「冬」が身近に感じられる今日この頃。すでに「年の瀬」感が漂い、必要以上にあたふたしているのだが、その向こうで、刻一刻と、2010年が迫って来てもいる。その2010年、マーラーの生誕150年のメモリアルだ。それも、2011年、没後100年のメモリアルへとつながる、マーラー・メモリアルの前編... そんな、スペシャルなメモリアルを前に、実は、すでに、かなりの盛り上がりを見せていたように感じる今年。ヘンデル、ハイドン、メンデルスゾーンの年でありつつ、すでにマーラーの年でもあったような...
そんな2009年のマーラー、デヴィッド・ジンマンケント・ナガノパーヴォ・ヤルヴィなど、それぞれに個性的で、多彩なアルバムが印象に残る。一方で、もっと早くに聴くつもりでいたが、あれやこれや聴いている内に、なんとなしに延び延びになっていたものを聴くことに... マイケル・ティルソン・トーマスと、彼が率いるサンフランシスコ交響楽団によるマーラー・ツィクルス、完結編、10番のアダージョと、8番、「千人の交響曲」(SAN FRANCISCO SYMPHONY/821936-0021-2)。ジョナサン・ノットと、彼が率いるバンベルク交響楽団によるマーラー・ツィクルス、第4弾、9番(TUDOR/TUDOR 7162)。


カリフォルニアから、マーラー...

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好評の内に展開してきた、マイケル・ティルソン・トーマス+サン・フランシスコ響によるマーラーのツィクルス。その最後を飾るのが、マーラー最大の交響曲、8番、「千人の交響曲」と、遺作、10番のアダージョ。ツィクルスを締め括るに相応しいカップリング。で、10番のアダージョが、「千人の交響曲」への前奏曲のように、2枚組、1枚目の1曲目として取り上げられる。その後、「千人の交響曲」、第1部。2枚目に、第2部を収録。そのあたり、マイケル・ティルソン・トーマス(以後、MTT)のセンスを感じさせる。いきなり、ど派手に千人で始まらないのが、なかなか魅力的。の前に、10番のアダージョがまた、独特で、魅力的。
MTT+サン・フランシスコ響が培ってきた、ウェスト・コースト・サウンド... というのか、明晰さと、ヴィヴィット感と、端々にこぼれる洒落た気分。ヨーロッパとはまた一味違うトーンで、洗練された音楽をさらりと響かせてくるわけだが。そうしたところから奏でられるマーラーの10番のアダージョというのは、多分に含まれたロマンティシズムを蒸留して、さらりと仕上げてくる。カリフォルニア的イージーさ?ポジティヴさ?は、死を前にしたマーラーの複雑な心地を、どこか達観した、浮世離れした雰囲気で包み、遺作でありながらも、これから何かが始まるような、期待感すら漂わせ、不思議。それでいて、どこかノスタルジック。ウィーン世紀末のトーンは、往年のハリウッドの映画音楽を思わせ、口当たりがよく。それこそ、往年のハリウッド映画の、導入部(序曲)を見るような、そんな気分にしてくれる。そうして、本編が始まるわけだ。
「千人の交響曲」(disc.1, track.2-5/disc.2)... 久々に聴くと、その派手さに中てられるような思いをしたのだが、やはりここでもMTT+サン・フランシスコ響によるウェスト・コースト・サウンドは活きて、巨大な音楽の隅々までが輝きに満ち、それでいてテンションは高く、長かったマーラーのツィクルスを締め括る、お祭りでもしているかのような、そんな気分。さらに、声楽陣のすばらしい歌があって... 特に、すっきりとしたコーラスは印象的。で、上手いこと乗せられて、第2部(disc.2)まで、あっという間。歴史をたっぷりと含んだヨーロッパのヘヴィーさとは違う、カリフォルニアのスカっとした空気感が生む鮮やかさと、屈託のないキラキラとした輝きが、「千人... 」という規模を忘れさせる、聴き易さを生み出しているよう。だが、その裏には、サン・フランシスコ響の確かなテクニックと、器用さと、それを活かしきるMTTならではの明晰さ、抜群のバランス感覚、センスの良さがあってこそ。さらりと楽しみながら、さらりと楽しめたことに、脱帽。

MAHLER SYMPHONY NO. 8 IN E-FLAT MAJOR
ADAGIO FROM SYMPHONY NO. 10
SAN FRANCISCO SYMPHONY
MICHAEL TILSON THOMAS


マーラー : アダージョ 〔未完の交響曲 第10番 嬰ヘ長調 より 1楽章〕
マーラー : 交響曲 第8番 変ホ長調 「千人の交響曲」 *

罪深き女 : エリン・ウォール(ソプラノ) *
懺悔する女 : エルザ・ファン・デン・ヘーヴァー(ソプラノ)
栄光の聖母 : ラウラ・クレイコム(ソプラノ) *
サマリアの女 : カタリーナ・カルネウス(メゾ・ソプラノ) *
エジプトのマリア : イヴォンヌ・ナエフ(メゾ・ソプラノ) *
マリア崇拝の博士 : アンソニー・ディーン・グリフィー(テノール) *
法悦の教父 : クイン・ケルシー(バリトン) *
瞑想する教父 : ジェイムズ・モリス(バス・バリトン) *
サン・フランシスコ交響合唱団、パシフィック少年合唱団、サン・フランシスコ少女合唱団 *
マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

SAN FRANCISCO SYMPHONY/821936-0021-2




生きている、マーラー...

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ブーレーズの創設、現代音楽のスペシャリスト集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を務めたジョナサン・ノット... というだけで、明晰な指揮をする人... という印象を持ってしまう。が、彼のキャリアを振り返れば、エリートというより、叩き上げだ。オペラのコレペティトゥアからスタートとして、ドイツのオペラハウスで修業した職人肌でもある。しかし、アンサンブル・アンテルコンタンポランのポストは、間違いなく勲章だ。で、その「勲章」と「叩き上げ」が紡ぎ出す音楽性というのは、また独特で... 明晰でありながら、他の指揮者とはどこか違う視点で作品と向き合うような感覚があって、いつも興味深い。
そこに、彼が率いるバンベルク響の響きが加わる。歴史(それは、また特殊な歴史で... )のある、伝統(その歴史もあって、「ドイツ」を煮詰めたような... )のオーケストラだ。が、21世紀となった現在、時として「伝統」は曲者にも成り得る。しかし、ノット+バンベルク響という組合せは、独特で曲者で、見事に他を超越して、予想外の音楽を生み出してみせる。
5番(TUDOR/TUDOR 7126)、1番、「巨人」(TUDOR/TUDOR 7147)、4番(TUDOR/TUDOR 7151)と、じっくりと、かつ、確実に、興味深く、印象深いマーラーを聴かせてくれたノット+バンベルク響による、マーラーのツィクルス。その最新盤、9番。やはり、独特で曲者で、期待を裏切らない、すばらしい演奏... というより、さらにさらに魅力的だ!9番ということで、これまで以上に音楽も複雑、一筋縄にはいかないわけだが、ノットの明晰さで、見事に一筋の縄として聴かせてしまう離れ業。あまりにナチュラルに、音楽が流れてゆくのに驚かされる。そんな姿に、9番のイメージすら変わりそうだ。
しかし、それは、現代的なわかり易いクリアさとは一味違う。間違いなく聴き易い一方で、機能性に流されるようなところが一切ない。あるのは、不思議な温度感。一音一音に生命反応を感じる?なんて言いたくなってしまう、生きている音楽がそこにある。この有機的な感覚が、ただならない。呼吸や、脈動を、常に感じるようで、そのあたりが、妙に耳に馴染み、興味深く、不思議な心地にしてくれる。そうして、ふと気がつくことは、いつもより、音楽そのものに、深いレベルで共感している自分自身?そんな状態で、終楽章(disc.2, track.2)の、あのメローなあたりを聴かされてしまうと、どうしようもなく切なくなって、訳もなく胸が締め付けられてしまう。沸き上がる、このやりきれない感情こそ、晩年のマーラーそのものか?そして、それを呼び覚ますノット+バンベルク響の演奏に、脱帽。

GUSTAV MAHLER: SYMPHONIE NO. 9

マーラー : 交響曲 第9番 ニ長調

ジョナサン・ノット/バンベルク交響楽団

TUDOR/TUDOR 7162




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サンフランシスコ人

2/29 サンフランシスコ響が来シーズンの日程を発表....

http://www.mercurynews.com/entertainment/ci_29577188/san-francisco-symphony-will-perform-works-by-john
by サンフランシスコ人 (2016-03-01 09:01) 

サンフランシスコ人

カタログ版

http://www.sfsymphony.org/SanFranciscoSymphony/media/Library/PDFs/16-17/1648-15_Brochure_1617season.pdf
by サンフランシスコ人 (2016-03-09 04:01) 

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