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誰が為に「鐘」は鳴る? [2009]

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昨シーズン、最も話題を集めた"クラシック"の楽曲といえば、ハチャトゥリアンの『仮面舞踏会』。で、今シーズンは、ラフマニノフの前奏曲、「鐘」?となるのか...
そう、浅田真央選手の、バンクーバーへの勝負曲!なんて、ミーハーな心持ちで、フィギュア・スケートのシーズンが本格化する前に聴いてみようと、手に取ったのは、イギリスの気鋭のピアニスト、スティーヴン・オズボーンによるラフマニノフの24の前奏曲。で、この前奏曲集の前奏曲(1曲目)が、まさに、「鐘」。なんとも象徴的なはじまり。なのだが、その「鐘」自体も、ただならず象徴的に鐘(のようにピアノ)が鳴り響き... そんな音楽を改めて聴けば、タチアナったら、また、すんごい課題を、真央ちゃんに与えたものだ。と、つくづく感じてしまう。こりゃ、ピアノで弾くのだって、相当に難しいぞ... で、波に乗り切れなかった初戦。みんなの期待はプレッシャーに?波乱のシーズンの幕開けとなるのか?そんな気分、パリでは晴らしてくれるか?
ということはさて置き、このblogでの本題に戻りまして、今、最も期待を寄せたいピアニスト、スティーヴン・オズボーンによるラフマニノフの24の前奏曲(hyperion/CDA 67700)を聴く。

そのアルバム、見事な幕開けを飾る1曲目、前奏曲、「鐘」。単調なもの(あるいは、イロモノ?)になりかねない独特な音楽を、丁寧に、かつダイナミックに響かせて、早速、惹き込まれてしまう。さすがはスティーヴン、期待を裏切らない。そして、この人ならではの世界が広がる... 聴き知ったラフマニノフも、また一味違う表情をチラホラ見せて、印象深い。
ロマンティックなラフマニノフ... というステレオタイプなイメージの一方で、ラフマニノフ(1873-1943)は20世紀の作曲家(前奏曲「鐘」は、1892年の作品だが... )であり、その創作は、常に、「モダン」の感覚のすぐ隣にあったこと忘れるわけにはいかない。スクリャービン(1872-1915)がひとつ年上で、シェーンベルク(1874-1951)がひとつ年下、さらにそのすぐ下にラヴェル(1875-1937)、一回り下にはストラヴィンスキー(1882-1971)がいる。まさに、西洋音楽史の大きなターニング・ポイントを生きていたわけだ。となれば、そんな時代のモードも、ラフマニノフ作品には、じんわりと染み込んでいて、よくよく聴けば、実はモダンな感覚も... 前奏曲、「鐘」の、独特なテイストも、ある種、ミニマル・ミュージック?
スティーヴンのピアノは、この人ならではの明晰さで、まずはクリアな響きを指向し、そこから、丁寧にドラマを紡ぎ出す。それは、鐘の鳴らし方を知り尽くした演奏?というのか、ミニマル・ミュージック的なあたりから、最大限のドラマを引き出して、謎めきつつ、壮麗さもきっちりと響かせて、魅了されるばかり。ロシア的なヘヴィーさはもちろん、象徴主義のミステリアスさ、印象主義のようなヴィヴィットさも感じられて、ロマンティックなラフマニノフ... では終わらない、この作曲家の多様な表情をすくい上げる。これは、その後に並ぶ、10の前奏曲(track.2-11)、13の前奏曲(track.12-24)で、さらに活きて。ひとつひとつ、多彩な表情を見せる前奏曲と丁寧に向き合い、より魅力的な音楽を展開してくる。
確かなテクニック(時として、ハイパー・テクニック... )から繰り出されるクリアさは、現代的でスタイリッシュ... 何より繊細... だけれど、それだけに留まらない彼のサウンドは、明晰になってこそ浮かび上がるトーンを拾い集め、より豊かな世界を見せる。そして、あらゆる要素を含んで響くスティーヴンのピアノは、メローであることも、キャッチーであることも厭わず。ラフマニノフを解析的に捉えながら、ロマンティックなラフマニノフ... をも輝かせる。このバランス感覚は、ただならない。
それにしても、魅力的なラフマニノフの前奏曲の数々... 衣替えをして、秋の深まりにリアリティを感じつつの、若干センチメンタルな今日この頃には、ぴったりのアルバム。かもしれない。

RACHMANINOV PRELUDES
STEVEN OSBORNE piano


ラフマニノフ : 前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2 「鐘」
ラフマニノフ : 10の前奏曲 Op.23
ラフマニノフ : 13の前奏曲 Op.32

スティーヴン・オズボーン(ピアノ)

hyperion/CDA 67700




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