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平衡を失った世界... の、行方は? [2009]

核の無い世界へ... 二酸化炭素排出量、25%削減...
できるのだろうか?と、懐疑的な視線が向けられる課題だが、目標は高く。ということ、なのだろう。けれど、21世紀の現状を振り返れば、切実な問題であり、間違いなく目指さなくてはならない目標なのだ。今や、グローバルに思考しなくてはならないのは、経済よりも、「平和」や「環境」なのかもしれない。そして、そんな時代だからこそ、注目したいアルバムもある?
ということで、実にタイムリーな2つのアルバム。核爆弾、誕生の歴史に迫る、ジョン・アダムズのドクター・アトミック・シンフォニー(Nonesuch/7559.799328)と、環境問題、近代文明社会への警鐘を描いたドキュメンタリー映画、『コヤニスカッツィ』、フィリップ・グラスによるサウンド・トラック、オリジナル完全版(orange mountain music/OMM 0058)を聴く。
21世紀に、強いメッセージを放ちつつ、魅力的なサウンドを聴かせる、アメリカの2つの作品。アメリカ、そして日本と、政治が大きく転換しようとする今こそ、聴いてみたくなり...


ドクター・アトミック、シンフォニーで、今こそ!

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2005年、サン・フランシスコ・オペラで初演されたジョン・アダムズのオペラ、『ドクター・アトミック』。オッペンハイマー博士の核開発を題材とした、ジョン・アダムズならではの、政治性、メッセージ性の強い作品。当然ながら、日本との関係も深い作品で。フィナーレでの、被爆した市民の日本語による「水をください... 」という台詞が話題に。また、ウォー・メモリアル・オペラとも呼ばれる、サン・フランシスコ講和条約(1951)が締結されたオペラ・ハウスで初演されたことも象徴的で...
そうしたオペラを、シンフォニーに編み直したのが、ドクター・アトミック・シンフォニー(2007)。そこには、オペラのようなダイレクトなメッセージはないものの、常に社会と向き合うとするジョン・アダムズの強い思いが滲む。1楽章、"THE LABORATORY"冒頭の、ブラスによる、ファンファーレなのか、警報のサイレンなのか、不安感を煽るようなサウンドに始まり、ただならず印象的。2楽章、"PANIC"(track.2)では、オッペンハイマー博士が核開発を進めていた頃(1940年代)の音楽?というのか、20世紀、アヴァンギャルドへのオマージュのようなテイストが興味深く。ショスタコーヴィチ?プロコフィエフ?オネゲル?ストラヴィンスキー?シェーンベルク?後半ではアイヴスの臭いも漂い、ノスタルジックでもある「モダン」なサウンドが、アグレッシヴにリズムを刻み、かつビターで、ヘヴィーで、ジョン・アダムズ流のシンフォニックな魅力を、たっぷり聴かせてくれる。一転、終楽章、"TRINITY"(track.3)は、トランペットが奏でるメローなメロディが耳に残り... その、映画音楽を思わせるトーンは、世界初の核実験(トリニティ実験)をタイトルにした楽章に、虚しさなのか、悔恨なのか、何とも言い難い味わいを残す。
オペラがベースとなったシンフォニーだけに、いつもの"ポスト・ミニマル"のテイストから、はみ出していくような感覚もあって、ジョン・アダムズによる管弦楽作品としては、よりエモーショナル。そうしたあたりを新鮮に感じ、濃い音楽に魅了されつつも、2曲目、"Guide to Strange Places"(track.4)を聴けば、いつもの"ポスト・ミニマル"なサウンドが、何とも心地よかったり。となれば、ヘヴィーなシンフォニーと、軽やかな"ポスト・ミニマル"のコントラストも、このアルバムの魅力に。
そして、近現代作品のスペシャリスト、デイヴィッド・ロバートソンに率いられたセント・ルイス交響楽団の演奏もまた、魅力的で... 力強く、エッジの効いたサウンドは、作品をよりパワフルに響かせるよう。彼らによる近現代作品、もっと聴いてみたくなる。

JOHN ADAMS DOCTOR ATOMIC SYMPHONY

ジョン・アダムズ : ドクター・アトミック・シンフォニー
ジョン・アダムズ : Guide to Strange Places

デイヴィッド・ロバートソン/セント・ルイス交響楽団

Nonesuch/7559.799328




コヤニスカッツィ、再び... いや、今こそ!

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ゴッドフリー・レッジョ監督と、フィリップ・グラスによる伝説のコラヴォレーション、映画『コヤニスカッツィ』(1983)。ナレーションも、字幕による解説も無い、ミニマルな映像と、それにシンクロしたミニマルな音楽とだけで綴るドキュメンタリー。環境破壊... その対岸で、オートメーション化された近代社会に生きる人々の営みをえぐり出す衝撃作にして、今や伝説。が、そんな映画が公開された頃、映画自体が遠い存在で... 思いっきり小学生だった、自分... というあたりからの、『コヤニスカッツィ』体験というのは、1998年にリリースされた、新録音版(Nonesuch/7559.79506)が最初。まずは、フィリップ・グラスによる音楽に魅了される。そして、2003年、すみだトリフォニーホールでの、フィリップ・グラス・アンサンブルによるライヴ演奏による上映に触れ、とうとう、その全容を知ることに... それはそれは、衝撃的でした。
で、その記憶を呼び起こすアルバム、『コヤニスカッツィ』、オリジナル完全版がリリース!
クウォリティならば、間違いなく新録音版の方が上かもしれない。が、『コヤニスカッツィ』という作品が訴え掛けてくる問題の重みは、オリジナル完全版でなくては味わえないのかもしれない。そんな聴き応えがある。新録音版/オリジナル完全版の差は、けして大きなものではない。しかし、より音楽的にまとまりの良い新録音版は、映像から離れて、フィリップ・グラスの音楽の魅力に貫かれている。それに対し、オリジナル完全版は、ゴッドフリー・レッジョ監督による映像、イメージが喚起されて、ズッシリくる。もちろん、その映像に触れたからこその感覚なのだろうけれど...
映画が放つメッセージ性は、まったく新しさを失っていないが、そこに綴られる光景は、80年代の空気感に包まれていて、世紀を越えてから、その80年代を体験すると、ただならない重みを感じる。まさにインダストリアル!すみだトリフォニーホールで受けた衝撃には、そういう部分もあったかもしれない... そして、オリジナル完全版は、そうした80年代の空気感を失わず、迫ってくる。
高度情報化社会... というものを実現した、現在の我々の空気感は、どこかで軽い。日々のニュースを見つめれば、軽い社会の危うげな姿を、常に思い知らされる。何気なく時は流れているようで、間違いなく世界は、社会は、大きく変貌を遂げている。『コヤニスカッツィ』、オリジナル完全版は、そうしたことも振り返させられるのか?それは、極めて、個人的な感覚かもしれないけれど、ゴッドフリー・レッジョ監督による映像から受けた衝撃を、追体験させられるようで、興味深い。

PHILIP GLASS KOYAANISQATSI

フィリップ・グラス : 『コヤニスカッツィ』 〔オリジナル完全版〕

マイケル・リースマン/フィリップ・グラス・アンサンブル

orange mountain music/OMM 0058




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