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ドイツ・ロマン主義の海の中へ... さすらい人、カウフマン。 [2009]

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オペラ界の新たなスター?ドイツのテノール、ヨナス・カウフマン
以前、テレビで、ティート(モーツァルトの... )を歌う姿を見て、その艶やかな皇帝像に、とても新鮮な印象を受け、気になる存在に... すると、その存在感は、ますます大きくなって、昨年、DECCAからデビュー!が、そのアルバム(DECCA/4759966)、聴いてみたいと思いながらも、躊躇してしまう。
今時、珍しいくらいに、独、仏、伊、名アリア集という総花的構成が、どうもユルく感じられて... ジャケットのポートレートは、"クラシック"離れして、クール!だったけれど、やっぱり中身でして。そんな躊躇から一転、カウフマンの第2弾は、完全ドイツ・シフトのアリア集。そこに、アバド+マーラー室内管というゴージャスなサポートがあるとなれば、躊躇などしていられない!
モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、そしてワーグナーという、ドイツ・オペラの系譜、ドイツ・ロマン主義を存分に歌うアリア集(DECCA/4781463)、大いに期待しつつ、聴いてみることに。

まず、印象的なのは、やはりそのジャケット?いや、カウフマンのルックス云々ではなくて、その背景にまず目が行く。ドイツ・ロマン主義を代表する画家、フリードリヒ(1774-1840)の、『霧の海を眺めるさすらい人』(1818)を背景に用いたジャケットは、見事にこのアルバムのイメージを捉えていて。そんなチョイス、アート・ディレクションが、クール!清々しく、雄大な背景。凛と立つさすらい人、カウフマンの姿。アルバムの中身もまた、そうしたサウンドが展開されて、ドイツ・ロマン主義を堪能させてくれる。また、カウフマン、第2弾のアルバムは、歌の背景... 指揮者、オーケストラでも、最高のチョイスとなった。
クラヴディオ・アバドの指揮で、マーラー室内管弦楽団による演奏... なんとゴージャスな!それでいて、エッジの効いたサウンドを期待でき... この組合せでドイツ・オペラ、ドイツ・ロマン主義のすばらしいシーンの数々を聴けるということが、まず魅力だ。アバドに導かれ、「室内」という規模を忘れさせるマーラー室内管の演奏。雄弁でありながら、エキスパート集団であるあたりを存分に発揮して、当然、精緻でクリア。モーツァルトに至っては、ノン・ヴィブラートで攻めて来る器用さも。そんな、縦横無尽さから生まれる雄大さは、極めて瑞々しいもので、生気に溢れ、「ドイツ・ロマン主義」の背景を、見事に仕上げて来る。1曲目、『ローエングリン』から、輝きに満ち、その深い響きにも惹き込まれ、ワーグナーだって、何の遜色も無い。そうして奏でられるシーン、綾なす響きは、時にシンフォニックですらあり、勢いまかせのドラマ展開とは違う、丁寧に紡がれて行くあたりに、歌ばかりでないドイツ・オペラの魅力を、改めて感じ入ってみたり。
そうして導かれるカウフマンの歌声は、ドイツ・ロマン主義にして、また一味違うテイストを含むようで、興味深く... "ピリオド"のフィールドでも歌い、ドン・ホセ(『カルメン』)も、ピンカートン(『蝶々夫人』)も器用にこなすレパートリーの幅広さが、「マルチ・テノール」(ある意味、さすらい人か?)なんて呼ば方もされるようだけれど、このマルチ感が、ドイツ的な感覚とは違うイメージも加えて、何となく、ドミンゴ(やはりマルチ・テノールか?伊、仏はもちろん、ワーグナーも可... )が歌う姿を思い浮かべてみたり。端々が、ほのかに艶っぽく、透明感に溢れるアバド+マーラー室内管による背景の中で、どこか「さすらい人」のような感覚を生む?
例えば、彼の歌うローエングリン(track.1, 2)には、フランスや、イタリアを感じ... そうしたカウフマンだからこそ、よりオペラティックなシューベルトのアリア(track.5, 6)では力強く、表情がしっかりと描き出され。ドイツ的な透明感と、イタリア的なドラマティックさが交差する『フィデリオ』(track.7)では、さらにカウフマンのマルチぶりが活きるよう。そして、印象的なのが、『ローエングリン』の後で歌われる『魔笛』(track.3, 4)。ドイツのテノールであるということと、ティートでも感じた艶やかなあたりが、タミーノという天然系王子に、フレッシュさとともに、肉感的なイメージも与えるようで。ワーグナーの後でのモーツァルトは、無理がありそうだが、ローエングリンとタミーノに共通項を探るようでもあり、おもしろく。ドイツ・オペラの萌芽としての『魔笛』に、ドイツ・ロマン主義の萌芽も見出し、ロマンティックなタミーノというのも、また、魅力的。
ドイツ・オペラ、ドイツ・ロマン主義を余すことなく響かせる、アバド+マーラー室内管と、フランスものも、イタリアものもというカウフマンのさすらい人ぶりが、絶妙なコラヴォレーションを繰り広げるこのアルバム。単なるアリア集ではなく、それぞれのシーンで、見事なドラマを繰り広げて来る。それは、カウフマンばかりでない、アバド+マーラー室内管という存在があってこそ。最後の『パルジファル』(track.9, 10)などは、全曲盤で聴きたい!一方で、さすらい人とはいえ、やはりドイツのテノール、カウフマン。フランスものも、イタリアものも... というあたりから備わったであろうオペラの旨味成分で、ドイツ尽くしを料理すれば、間違いなく美味しいものに仕上がっていて、カウフマンという存在が、フルに活きてくる。のだが、そんな、ドイツ尽くしの中で、イタリアの合唱団を使ったのは、ナンデだ?

JONAS KAUFMANN
MAHLER CHAMBER ORCHESTRA ・ CLAUDIO ABBADO


ワーグナー : オペラ 『ローエングリン』 より 「遠い国に、あなたがたの近づき得ぬところに」
ワーグナー : オペラ 『ローエングリン』 より 「白鳥よ、ご苦労だった!」
モーツァルト : オペラ 『魔笛』 K.620 より 「何と美しい絵姿」
モーツァルト : オペラ 『魔笛』 K.620 より 「この少年たちの賢い教えを」 **
シューベルト : オペラ 『フィエラブラス』 D.796 より 「あなたは、どれほど私を苦しめるのですか... 海を動かされた胸で」
シューベルト : オペラ 『アルフォンソとエストレッラ』 D.732 より
   「もしも、それが既に運び始めるも... そして、その後の私の心が必要とするもの」
ベートーヴェン : オペラ 『フィデリオ』 より 「神よ!ここは何という暗さだ」
ワーグナー : 楽劇 『ワルキューレ』 より 「冬の嵐は去り」
ワーグナー : 楽劇 『パルジファル』 より 「アンフォルタス!あの傷!あの傷!」 *
ワーグナー : 楽劇 『パルジファル』 より 「その傷を閉すのに役立つ」 *

ヨナス・カウフマン(テノール)
マルガレーテ・ヨスヴィヒ(メッゾ・ソプラノ) *
ミヒャエル・ヴォレ(バス・バリトン) *
パルマ王立劇場合唱団 *
クラウディオ・アバド/マーラー室内管弦楽団

DECCA/4781463




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