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マグダラのマリア、 [2009]

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やっぱり、グランドゥラヴォワはただならない...
そういう期待を裏切らない、ビョルン・シュメルツァー率いる、ベルギーの古楽アンサンブル、グランドゥラヴォワの最新盤、"La Magdalene"(GLOSSA Platinum/GCD P32104)。13世紀のブラバント(GLOSSA/GCD P32103)の愛の諸相を歌って、圧倒的な「中世」の姿を見せつけた前作から、時代を下って、ルネサンス期、16世紀のマグダラのマリア信仰に迫る。が、そこに、ルネサンスならではの、美しいポリフォニーなど、存在しない。グランドゥラヴォワならではの、圧倒的なパワーが渦巻き、やっぱり、ただならない。

マグダラのマリアに捧げられた、ニコラ・シャンピオン(ca.1475-1533)によるミサに、グレゴリオ聖歌が挿まれての、祈りの歌による第1部と、クローダン・ドゥ・セルミジ(1490-1562)らの、マグダラのマリアを歌うシャンソンで綴る第2部... という2部構成。マグダラのマリアという、キリスト教にあって、特異な存在(娼婦か?もうひとりの使徒か?キリストの妻か?謎、多き、聖女... )を、聖(ミサ)、俗(シャンソン)、それぞれから、グランドゥラヴォワの特性を最大限に活かし切って、生々しく描き出す。
地中海の東から、海を渡って南仏にたどり着いた... そんな伝説のあるマグダラのマリアだけに、"La Magdalene"は、エキゾティックな気分が漂う。ルネサンスも深まる16世紀の音楽ではあっても、迷うことなく、東方的... というのか、地声が放つオーガニックさに圧倒され。そのオーガニックさをベースに紡がれるポリフォニーは、異彩を放つ。民俗音楽というフィールドから、古楽へ参入した、シュメルツァーならではのアプローチが、時として、冷たさも伴う、透明なルネサンスのポリフォニーに、アース・カラーで色彩を施し、熱っぽさすらあって、まったく違う表情を見せて来る。
まず、第1部、始まりのグレゴリオ聖歌、入祭唱から、凄い... どこか即興的ですらあって、きっちりと作り上げられた"クラシック"的な世界観とは一線を画し、フォークロワな感覚が濃密。ホモフォニーの誕生を今に続く「西洋音楽」の始まりとするならば、シュメルツァー+グランドゥラヴォワのモノフォニー(グレゴリオ聖歌)には、「西洋音楽」以前の、古楽の"純真"があるのかもしれない。躊躇することなく、こぶしを回すように歌われる昇階唱(track.4)、アレルヤ(track.5)、奉献唱(track.8)は、クレゴリオ聖歌の単声という性格もあって、まさしく民俗音楽。また、その歌い回しに、妙に懐かしさが滲み... どことなく、日本の民謡にも似て、親近感のようなものを味わってみたり。
そうした、グレゴリオ聖歌に導かれて歌われる、シャンピオンの聖マグダラのマリアのミサ(track.2, 3, 7, 9, 10)は、グランドゥラヴォワの地声ハーモニーから、思わぬ魅力を引き出され... 地声の不揃い感が、ポリフォニーが生む光のプリズムに屈折を与え、思わぬ色を発するかのよう。シャンピオン自身は、フランドルの出身、フランドル楽派の作曲家(カスティーリャ女王、フアナに仕えていたあたりは、なんとなしに象徴的?)だが、グランドゥラヴォワが歌えば、「南」を強く意識させられ、マグダラのマリアが流れ着いたであろう、南フランスの、日差しの強さのようなもの、乾いた土の色を思わせて、いつものルネサンスのポリフォニーではけして味わうことのできない大地に根差したパワフルさがある。
熱を帯びた祈りの後で、第2部、マグダラのマリアを歌うシャンソンは、肩の力が抜けて、一味違う。それまでの歌だけの世界から、器楽も加わり、やわらかさをもたらすよう。ピエール・ブロンドー(16世紀前半)によるラ・マグダレーナとバッセ・ダンス(track.13)では、器楽のみで奏でられ、軽やかにリズムを繰り出して来る。グランドゥラヴォワは、「声」のイメージが強いのだけれど、コーラスだけでなく、器楽アンサンブルもまたすばらしい。ひとつひとつの音を丁寧に紡ぎ出し、繊細でアルカイックに響かせてくるあたりは、その「声」と好対照。で、そんなコントラストが、またいい雰囲気を醸す。
そうして歌われるシャンソンの数々には、どこか気の置け無さを感じ、ミサのオーガニックさに対して、ナチュラルで、よりフォークロワな世界に近付き、いい具合に素朴。古楽の堅苦しさよりも、今へとつながるヴィヴィットなサウンドが広がるよう。すると、不思議と「古さ」を感じさせないようなところもあって、ポップにすら感じる瞬間も。ポリフォニックなルネサンスのサウンドに、そんなイメージを盛り込んでくるとは、やっぱり、グランドゥラヴォワはただならない...

LA MAGDALENE Graindelavoix / Björn Schmelzer

― 第1部 ミサ ―
グレゴリオ聖歌/アグリコラ : 入祭唱 「すべての者よ、主に向かいて喜ばん」
シャンピオン : キリエ 〔聖マグダラのマリアのミサ〕
シャンピオン : グローリア 〔聖マグダラのマリアのミサ〕
グレゴリオ聖歌 : 昇階唱 「真理のためなる」
グレゴリオ聖歌 : アレルヤ、主は復活し
グレゴリオ聖歌 : 散文 「マネ・プリマ・サバティ」
シャンピオン : クレド 〔聖マグダラのマリアのミサ〕
グレゴリオ聖歌 : 奉献唱 「お告げの祈り」
シャンピオン : サンクトゥス 〔聖マグダラのマリアのミサ〕
シャンピオン : アニュス・デイ 〔聖マグダラのマリアのミサ〕
グレゴリオ聖歌 : 聖体拝領唱 「御身が唇には慈しみが置かれぬ」

― 第2部 マグダレーナのシャンソン ―
作曲者不詳 : オ・ワルデ・モント
ピエール・ブロンドー : ラ・マグダレーナ、バッセ・ダンス
作曲者不詳 : モグレ・ダンジュ・ポンペラ・マドレーヌ
クローダン・ド・セルミジ : 喜びを与えん
作曲者不詳 : いとしい方を失ったら、トゥ・ノーブル・クール

ビョルン・シュメルツァー/グランドゥラヴォワ

GLOSSA Platinum/GCD P32104




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