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追憶... 20世紀、ユダヤ的なる音楽。 [2009]

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サン・パウロ州立交響楽団を、今年の初めまで率いていた、ブラジルを代表するマエストロ、ジョン・ネシュリングが、アルノルト・シェーンベルクの孫?!と聞いて、驚いてしまう。って、今さらの話し?
ちなみに、シェーンベルク夫人は、ツェムリンスキーの妹で... となれば、ツェムリンスキーは大伯父にあたるわけで。さらに、アルノルトの弟の孫、『レ・ミゼラブル』のクロード・ミシェル・シェーンベルクは、はとこで... 世界に広がる親戚たち... ウルトラ・ロマンティシズムから12音技法へ、ウィーンからブラジルへ、『モーセとアロン』から『ミス・サイゴン』まで、20世紀の音楽史がそこに広がり、なかなか、おもしろい。それにしても、血脈というのか、何と言うのか、音楽の世界にもあるのだなぁ。なんて、改めて思う。
で、その、ネシュリングの最新盤は、すでに録音されていた、サン・パウロ州立響を指揮して、自身のもうひとつのルーツである、ユダヤの音楽に迫るアルバム、"REMEMBRANCE(追憶)"(BIS/BIS-CD-1650)。祖父、シェーンベルクの『コル・ニドレ』など、"クラシック"におけるユダヤの音楽を集めて、なかなか興味深く。そうした切り口、かなり斬新なかのかも... と、聴いてみることに...

ユダヤ系の音楽家(もちろん作曲家を含めて... )というのは、"クラシック"の世界では、とても多いように思う。一方で、"クラシック"におけるユダヤの音楽というのは、珍しいのかもしれない。やはり、ユダヤ系の人々というのは、ヨーロッパ社会において、マイノリティ。マーラーの交響曲に、ユダヤ的なものを感じ取ったとしても、国民楽派のように、独自のメロディ、リズムを、作品に取り込むようなことは、あまり見受けられず... そうした"クラシック"にあって、"ユダヤ"をテーマに、アルバムを編むというのは、なかなか興味深い。
そんな、アルバム、"REMEMBRANCE"。12音技法を発明したシェーンベルク(1874-51)。ユダヤ性をオープンにした最初の作曲家と言うべき?ブロッホ(1880-1959)。ナチスから逃れて、ハリウッドで活躍することになるオーストリアの作曲家、ツァイスル(1905-59)。そして、マルチなバーンスタイン(1918-90)。と、20世紀の多彩な4人のユダヤ系作曲家による、"ユダヤ"であることを強く打ち出した4つの作品。「コル・ニドレ」、「ハリル」、「バアル・シェム」といった、耳慣れない、ヘブライ語、独特の響きを持つタイトルには、ユダヤ的なサウンドを、期待してしまうのだが、4人、それぞれに、ユダヤ的なる濃度は、異なるよう。
12音技法からは距離を取り、過去へと回帰しながらも、ユダヤ的な色合いはさほど濃くない、シェーンベルクによるユダヤの宗教音楽、『コル・ニドレ』(track.1)。テキストはユダヤの典礼歌なのだけれど、傑作、『ワルシャワの生き残り』へとつながって行くであろう、語りとコーラスというスタイルが、まず印象に残り... そして、屈託無く、アメリカ的に"ユダヤ"を響かせるバーンスタインの「ハリル」(track.2)は、フルート(ヘブライ語でハリル... )のコンチェルト。で、ユダヤ的であるよりは、ジャジーで、まさにバーンスタイン的。そんな音楽に、ベザリーのフルートがぴったりはまり。彼女の小気味の良い響きが、ジャジーなバーンスタイン作品を、より魅力的なものに。一方、まさしくユダヤ的な音楽を聴かせてくれるのがブロッホ。「バアル・シェム」(track.3-5)は、ヴァイオリンのコンチェルトで... グルズマンのヴァイオリンがしっかりと歌い、ブロッホならではの弦楽器の歌わせ方が活き、そのユダヤ的エキゾティシズムは、たまらなく魅力的。
最後は、ツァイスルのヘブライのレクイエム(track.6)。オーストリアからハリウッドへと渡り、映画音楽(『郵便配達はニ度ベルを鳴らす』などを手掛ける... )に貢献したあたり、コルンゴルト(1897-1957)とよく似ている。そして、その音楽も、やはり、ロマン主義を煮詰めたウィーン世紀末の上質なサウンドがベースとなり、やがてハリウッドの礎を築くことになる、「大河ロマン」な気分も漂う。また、"ユダヤ"にして、キリスト教のレクイエムという形を借りているあたりが興味深く。最後の、コーラスによるフーガなどは、モーツァルト以来のオーストリアの伝統を見るようで、ユダヤの作曲家である以前にオーストリアの作曲家であることを印象付ける。もちろん、ヘブライの... と、ことわっているだけに、ヘブライ語で歌い、ユダヤ的な香り付けもしっかりされて、そうしたあたりも魅力的なのだけれど。
ということで、なかなか、おもしろいチョイス。ナチスの台頭で、"ユダヤ"を明確に意識するようになるユダヤ系の作曲家たちだが、"REMEMBRANCE"に収められた4つの作品を聴けば、それぞれにスタンスがあって... 特に興味深いのは、音楽におけるインターナショナル・スタイル(12音技法)を打ち立てたシェーンベルク。この作曲家が、"ユダヤ"を模索したあたりは、なんとも不思議な感覚がある。しかし、ホロコーストの悲劇を目の当たりにすれば、そうならざるを得なかったわけで。20世紀の激動が、"クラシック"にユダヤ的なるものを生み出したとするならば、感慨深い。
さて、その演奏だが... "ユダヤ"の作品を、ブラジルのオーケストラが?とも思うのだけれど、ブラジルのサウダーヂの感覚が、ユダヤの嘆きのメロディに共鳴するところもあるようで、いい具合にはまって来る。一方で、ネシュリング+サン・パウロ州立響がしっかりと培ってきた手堅さが、4人の作曲家の、それぞれに違う"ユダヤ"をしっかりと捉えて、多様な20世紀の音楽を器用に捌き、ジャジー(バーンスタイン)から、エキゾティック(ブロッホ)への切り替えしは、絶妙なアクセントにも。作品、それぞれのユダヤ性を、下手に誇張することなく、まろやかに表現しているあたりが、"REMEMBRANCE"の音楽的な幅の広さと魅力を、引き立てている。そして、『コル・ニドレ』(track.1)、ヘブライのレクイエム(track.6)で、見事な歌を聴かせてくれる、サン・パウロ州立響のコーラス部隊も、オーケストラに負けておらず... そんな充実したハーモニーを聴いてしまうと、ネシュリングのサン・パウロ州立響、芸術監督、解任が、残念でならない...

Remembrance ・ Bezaly / Gluzman / OSESP / Neschling

シェーンベルク : コル・ニドレ Op.39 **
バーンスタイン : ハリル 〔フルート、打楽器、ハープ、弦楽のための〕 *
ブロッホ : バアル・シェム 〔ヴァイオリンと管弦楽による版〕 *
ツァイスル : ヘブライのレクイエム *****

シャロン・ベザリー(フルート) *
ワジム・グルズマン(ヴァイオリン) *
ガブリエラ・パーチェ(ソプラノ) *
ルイザ・フランチェスコーニ(メッゾ・ソプラノ) *
ロドリーゴ・エステベス(バリトン) *
スティーヴン・ブロンク(バス・バリトン/語り) *
サン・パウロ州立交響楽団合唱団 *
ジョン・ネシュリング/サン・パウロ州立交響楽団

BIS/BIS-CD-1650




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