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弦楽四重奏の、宇宙と、氾濫。 [2009]

以前は、どうも「弦楽四重奏」というのが苦手だった... そのストイックな編成に、地味なイメージがあり。一方で、4つの楽器が、目一杯、主張するようなところがあって、弦楽器、ひとつひとつの生々しい音に当てられるような感覚があった。ような。で、距離ができて。が、時間が経って、聴く側の感覚も変わるのか、今は、以前のような苦手意識はない。そこには、「弦楽四重奏」自体も、以前に比べて、変わってきているようにも思うのだが... どうなのだろう?
そんな「弦楽四重奏」を、改めて見つめる2タイトル(いや、かなりエキセントリックなチョイスだけれど... )。気になるピリオド・クァルテット、シュパンツィヒ四重奏団がスタートさせる、ハイドンのシリーズ、第1弾(ACCENT/ACC 24197)と、"FLOODPLAIN(氾濫原)"というタイトルが気になる、クロノス・クァルテットの最新盤(NONESUCH/518349-2)。18世紀、古典派、弦楽四重奏の始まりと、弦楽四重奏の進化の果て?"クラシック"すら飛び出してしまう「現代」の弦楽四重奏を聴いてみる。


シュパンツィヒ四重奏団が拓く、ハイドンの宇宙...

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最初の一音から、輝くばかりのサウンドに、ビビっと来てしまう!
そんなハイドンの弦楽四重奏曲を聴かせてくれるのは... ムジカ・アンティクワ・ケルンを率いたマエストロ、ラインハルト・ゲーベル門下で、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル、コンチェルト・ケルンのコンサート・マスターを務めた、ピリオド系ヴァイオリニスト、アントン・シュテックを中心に創設された、シュパンツィヒ四重奏団。彼らの新たなハイドンのシリーズは、そのスタートから、あまりにすばらしいもので、驚かされる。ハイドンの弦楽四重奏曲が、こうも美しく、輝きに充ちたものであったか?!と...
"ピリオド"ならではの魅力を、再確認するようなシュパンツィヒ四重奏団の演奏。当然ながらクリアで、活き活きとハイドンの時代を活写していく。が、"ピリオド"の、エッジが効き過ぎて、角が立つようなところはまったくなく、4つの楽器が放つ、全ての音が、ナチュラルに、ありのままに、キラキラと輝いて。つまらない... なんて思わせる隙がまったくない。ノン・ヴィブラートも、完璧なテクニックから繰り出されれば、まるで結晶。それはまた、"モダン"では到達し得ないクラリティであり。そうした結晶をプリズムにして、ハイドンの音楽を覗いてみれば、古典派の端正さと、開明さは、より鮮明となり、弦楽四重奏というストイックな編成から編み出される響きは、ユニヴァーサルな広がりを見せる。
"ピリオド"であることは、ハイドンへと立ち返ることだが、立ち返ったハイドンの作品には、ハイドンというスケールを超えた宇宙が籠められているよう。「交響曲の父」による弦楽四重奏曲は、圧縮された交響曲?弦楽四重奏という編成が、その軽やかさはそのままに、シンフォニックな可能性を垣間見せ、ハイドンの音楽性の深さに、感服させられる。今年、没後200年... その200年分の垢を、綺麗に拭い去ったシュパンツィヒ四重奏団のハイドンというのは、想像以上のハイドンで。ハイドンに迫れば迫るほど、"ピリオド"云々というレベルを遥かに超えた、まっさらなハイドンのイメージを見出し、他では味わえない、極めて純度の高い絶対音楽(49番は、「蛙」のタイトルがあるのだけれど... )が繰り広げられる。それがまた、たまらなく心地良く、これ以上ないほど幸福なサウンドに、充ち満ちている。
先日、イェルサレム四重奏団によるハイドン(harmonia mundi/HMX 2962030)の、すばらしい演奏を聴いたばかりだが、シュパンツィヒ四重奏団のハイドンは、まったく違うベクトルで、"ピリオド"である特性を最大限活かし切り、そのフレッシュさ、ピュアさで圧倒してくる。
そして、第2弾、第3弾と、予定されているのだけれど、今から待ちきれない!

Haydn / String Quartets ・ Schuppanzigh Quartet

ハイドン : 弦楽四重奏曲 第24番 イ長調 Op.9-6 Hob.III-24
ハイドン : 弦楽四重奏曲 第72番 ハ長調 Op.74-1 Hob.III-72
ハイドン : 弦楽四重奏曲 第49番 ニ長調 Op.50-6 「蛙」 Hob.III-49

シュパンツィヒ四重奏団
アントン・シュテック(ヴァイオリン)
フランク・ポールマン(ヴァイオリン)
クリスティアン・グーセンズ(ヴィオラ)
アンティエ・ゴイセン(チェロ)

ACCENT/ACC 24197




ワールド・ミュージック/クロノス・ワールドの、氾濫...

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ジャンルを超えてオーラを放つ、鬼才、弦楽四重奏団、クロノス・クァルテット
ロマの音楽文化の広がりを追う"KRONOS CARAVAN"(NONESUCH/7559.79490)... メキシコ文化にディープに浸りまくる"NUEVO"(NONESUCH/7559.79649)... インド映画界、ボリウッドを大胆にフィーチャーした"YOU'VE STOLEN MY HEART"(NONESUCH/79856-2)など、"クラシック"どころか、現代音楽すら乗り越えて、ワールド・ミュージックに深く分け入って、驚かしてくれる。のだが、最新盤は、また凄い... それは、ハイドンの絶対音楽の対極にあるサウンドで、もはや、「クロノス・クァルテット」というジャンルが存在しているのではないか?というほど、彼らならではのセンスで貫かれた音楽世界が広がる。
そのタイトル、"FLOODPLAIN(氾濫原)"。なかなか、意味深なタイトル... で、中近東を中心に、北はカザフから、南はエチオピアまで。西はセルビアから、東はインドまで、幅広く音楽を集めて、1枚のアルバムに綴ってしまう。大河の氾濫原は、文明、揺籃の地... が、その豊かさゆえの、恵みを巡る係争の地となり、今に続く、文明、衝突の地に... そんな背景も盛り込みつつ、文明の十字路を、文化の、音楽の氾濫原と捉えるような、圧巻のミックス・カルチャー・サウンド!それは、まさに、氾濫なのかもしれない... そして、いつもながら、弦楽四重奏という編成からも氾濫を起こして... 絶妙に挿み込まれるサンプリング、エスニックなパーカッション、民俗楽器のアンサンブルまで、多彩なサウンドに彩られての"FLOODPLAIN"。
圧巻なのが、アゼルバイジャンのカシモフ父娘が歌う二重唱、"Getme, Getme"(track.4)。力強いパパ・カシモフと、その透明感が印象的な、美しくも、やはり力強い、娘カシモフ... この親子の歌声が、強烈に響く。それは、"魂"そのもの。というのか、「先進国」という名の希薄な世界にあっては、生み出されようがない、訴えかけてくるパワーに、ただただ圧倒されるばかり... また、クロノス・クァルテットら、演奏陣が、2人に見事に応えていて、大いに心を揺さぶられる音楽が紡がれる。もちろん、そればかりでない... エレキ・シタールのサウンドが悩ましげに広がり、サイケデリックに瞑想的な"Raga Mishra Bhairavi: Alap"(track.5)や、サンプリングの銃声が、ドラムのように展開して、アラベスクにロックしてしまう"Oh Mother, the Handsome Man Tortures Me"(track.6)など、刺激的な音楽が、次から次へと展開される。
しかし、そうして見えてくるものは何か?グーロバリズムに覆われた地球そのものが、氾濫原となって行く姿か?雑じり合い、刺激に満ちた、新たな文化が生み出される一方で、グーロバリズムに呑み込まれた氾濫原は、欲望、渦巻く、収奪の地へと堕ちて行く... ような、恐ろしさが孕む。カシモフ父娘の魂の歌声は、氾濫原からの救難信号のようにも聴こえ、魅力的なミックス・カルチャー・サウンドの一方で、深く考えさせられる。一筋縄ではいかない、1枚だ。

KRONOS QUARTET FLOODPLAIN

Midhat Assem : Ya Habibi Ta'ala 〔アレンジ : O. Golijov & Kronos〕
ラマラのアンダーグラウンド・ミュージック : Tashweesh 〔アレンジ : Kronos & J. Garchik〕
レバノンの伝統歌 : Wa Habibi 〔アレンジ : S. Prutsman〕
Said Rustamov : Getme, Getme 〔アレンジ : A. Qasimov, J. Garchik〕
Ram Narayan : Raga Mishra Bhairavi: Alap 〔アレンジ : Kronos, transc. Ljova〕
作曲者不詳 : Oh Mother, the Handsome Man Tortures Me 〔アレンジ : Ljova & Kronos〕
Rahman Asadollahi : Mugam Beyati Shiraz 〔アレンジ : Kronos, transc. Ljova〕
イラン、南海岸の伝統歌 : Lullaby 〔アレンジ : Kronos & J. Garchik〕
Tanburi Cemil Bey : Nihavent Sirto 〔アレンジ : S. Prutsman〕
Kuat Shildebaev : Kara Kemir 〔アレンジ : Kronos〕
Alèmu Aga : Tèw semagn hagèré 〔アレンジ : J. Garchik〕
Aleksandra Vrebalov : ...hold me, neighbor, in this storm...

クロノス・クァルテット
デイヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)
ジョン・シャーバ(ヴァイオリン)
ハンク・ダット(ヴィオラ)
ジェフリー・ジーグラー(チェロ)

アリム・カシモフ・アンサンブル、他...

NONESUCH/518349-2




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