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色眼鏡を置いて、オペラの向こうに... マルトゥッチ。 [2009]

ムーティが90年代の初めに、レスピーギ抜きで、近代イタリアの音楽を取り上げたアルバムをリリースしていて... オペラではないオーケストラからの"イタリア"という切り口の斬新さに、大いに興味を掻き立てられたことを思い出す。のだけれど、なかなか「メジャー」には成り得ない近代イタリアの音楽。レスピーギで精一杯な現状。しかし、レスピーギばかりでないことは間違いなく...
今年は、近代イタリアの音楽のはじまり(レスピーギもその下で学んでいる... )とも言うべき存在、ムーティも取り上げていたマルトゥッチの没後100年。それはそれはマイナーな、密やかなメモリアルではあるが、だからこそ目を付けてくるNAXOS。フランチェスコ・ラ・ヴェッキア率いる、新しいオーケストラ、ローマ交響楽団の演奏で、マルトゥッチのシリーズを展開中。ということで、vol.1、1番の交響曲(NAXOS/8.570929)と、vol.2、2番の交響曲(NAXOS/8.570930)を聴いてみることに。


密やかなるメモリアル。マルトゥッチ... vol.1

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ジュゼッペ・マルトゥッチ(1856-1909)。
イタリア・オペラ全盛の、19世紀後半にありながら、オペラには背を向け、アカデミックな音楽の世界に没頭したイタリアの作曲家。もちろん、イタリアの作曲家としては特異な存在。一方で、指揮者としてはオーケストラ・ピットに入り、ワーグナー作品の、イタリアへの紹介に力を入れ、自身の作品では、ワーグナーはもちろん、独墺系、"クラシック"正統派の音楽に傾倒。その1番の交響曲(track1-4)は、まるで、ブラームスの交響曲のようで、ちょっとびっくりさせられる。が、「似非」というような感覚はまったくない... 独墺系、正統派の、古典的な構築感と、重厚さで、見事に交響曲を響かせる。一方で、そこかしこにワーグナー的なモチーフも聴こえ... どうも、そのあたりにイタリアっぽさも漂う?
ワーグナーの源流には、間違いなくイタリア・オペラからの流れがあって、ベッリーニをリスペクトしていたという話しも聞くわけだけれど。イタリアからドイツへと傾倒したマルトゥッチの交響曲を聴くと、ワーグナー作品の中にあるイタリア性を思い起こすような感覚もあって、興味深く。19世紀の音楽の、安易に割り切れない、有機的に影響し合うドイツとイタリアの姿が見えてくるよう。交響曲であることは極めてドイツ的... だけれど、ワーグナー越しにイタリアが滲む1番の交響曲は、なかなかおもしろいのかも。
さて、1番の交響曲をメインとしたvol.1だが、他にも、多彩なオーケストラ作品が並んでいて... まず、印象に残るのが、チェロとオーケストラによるアンダンテ(track.7)。チェロの、深くも瑞々しい音を活かして、美しくたゆたう感覚が、心地良く。それを奏でるアンドレア・ノフェリーニによるチェロも、夢見るように歌い、美しく、まさにイタリアな表情に、聴き入るばかり。
マルトゥッチの音楽というのは、どんなにドイツに傾倒したとしても、イタリアならではのセンスが、間違いなくあって、アンダンテのようなメローな音楽では、そうしたセンスが最大限に活かされてくる。そして、ドイツに傾倒したからこそのロマンティックさが、イタリアの歌謡性と共鳴し、さらに美しい音楽が紡がれていくよう。その白眉が、ノットゥルノ(track.8)。マルトゥッチというと、このノットゥルノのイメージがあるのだけれど... イタリアならではのメロディックさ、リリカルなあたりを惜しみなく展開して、ムーディーな夜の情景を描けば、マーラーのアダージェットあたりも見えてきそうで、なかなかおもしろい。

MARTUCCI: Complete Orchestral Music 1

マルトゥッチ : 交響曲 第1番 ニ短調 Op.75
マルトゥッチ : ジーガ Op.61-3 〔管弦楽版〕
マルトゥッチ : カンツォネッタ Op.65-2 〔管弦楽版〕
マルトゥッチ : アンダンテ Op.69-2 〔チェロと管弦楽による版〕 *
マルトゥッチ : ノットゥルノ Op.70-1 〔管弦楽版〕

フランチェスコ・ラ・ヴェッキア/ローマ交響楽団
アンドレア・ノフェリーニ(チェロ) *

NAXOS/8.570929




密やかなるメモリアル。マルトゥッチ... vol.2

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そして、vol.2... 2番の交響曲(track1-4)。出だしはシューマン風?いや、やはりブラームスか?ちらちらとシューベルト、ベートーヴェンの欠片が聴こえてくる?が、そこはかとなしにマーラーの雰囲気も漂う。ような。その初期の交響曲や、それらに大きな影響を与えたハンス・ロットの交響曲のメロディックさ、瑞々しさを思わせて、印象的。で、独墺系、"クラシック"正統派の交響曲に、ウィーンの人懐っこい歌謡性がスパイスとなったのがマーラーならば、朗らかなイタリアの歌謡性がスパイスとなったのがマルトゥッチの2番の交響曲?とも言えそうなサウンドで。ドイツ、ロマン主義の交響曲の、集大成的な聴き応えがあって、ちょっと驚かされる。オペラばかりではないぞ?!イタリア... 交響曲だって、ドイツに引けを取らないかもしれない。シンフォニックさとロマンティックさで、大いに魅了してくれる。これは、普通にオーケストラのレパートリーに上がっていてもおかしくない、隠れた名曲かもしれない。
そして、vol.1同様に、気になるカップリングのオーケストラ作品は... ピアノとオーケストラによる主題と変奏(track.5)が、印象深く。ふと、思い起こすのは、フランクの交響的変奏曲。やはりドイツに傾倒して、フランスを再構築しようとしたフランクの音楽は、マルトゥッチの音楽と通じるものがあるようで、感覚的によく似ている。さらに、ピアニストでもあったマルトゥッチの、その時代を物語るヴィルトゥオーゾ的な華やかさも盛り込みつつ、ライトで、瑞々しく... ブリテンや、北欧の音楽を思わせるフレッシュさもあり、そんなセンスに驚かされたり。交響曲とはまた一味違って、楽しませてくれる。
さらに楽しませてくれるのは、イタリアの作曲家ならではか、タランテラ(track.7)。が、マルトゥッチのタランテラは、何ともシンフォニックに仕立て直されて、ヘヴィーでマッド。しかし、この感覚がなかなか素敵。毒蜘蛛に噛みつかれたなら、踊ってその毒を散らせ... というような逸話もある、タランチュラ=タランテラ。そんな、おどろおどろしさが、いい具合にデモーニッシュに拡張されて、なかなかカッコいいサウンドを聴かせてくれる。
さて、それらを演奏するラ・ヴェッキア+ローマ響だが、特に大きな問題点はないものの、やはり新しいオーケストラ。そのアンサンブルには、成長の余地ありか... このマルトゥッチのメモリアル、パッパーノ+サンタ・チェチーリア管あたりが手掛けていたら、どうだったろう?なんて考えてしまうのは、贅沢な欲求か?とはいえ、思いの外、たっぷりとマルトゥッチを味わってしまった。そして、イタリアはオペラ... という色眼鏡を掛けていては見えないものが、2つのアルバムにはしっかりとあったなと。

MARTUCCI: Complete Orchestral Music 2

マルトゥッチ : 交響曲 第2番 ヘ長調 Op.81
マルトゥッチ : 主題と変奏 Op.58 〔ピアノと管弦楽による版〕 *
マルトゥッチ : ガヴォット Op.55-2 〔管弦楽版〕
マルトゥッチ : タランテラ Op.44-6 〔管弦楽版〕

フランチェスコ・ラ・ヴェッキア/ローマ交響楽団
リア・デ・バルベリース(ピアノ) *

NAXOS/8.570930




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