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阿片の夢想。危うい世界の妙なる美。 [2009]

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フィリップ・ジャルスキー、昨年の、初来日公演では、ピアノを横に、歌曲が披露され...
しかし、彼ならば、やっぱりピリオド・アンサンブルと、バリバリのバロックを聴かせて欲しかった。カウンターテナーとしての本業というのか、そんなレパートリーを、まずは披露して欲しいなと... が、歌曲だって、さらりと歌って、十分に聴かせてしまうのだから、このカウンターテナーはただならない。ということで、驚異のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーの最新盤、フランス歌曲集"OPIUM(阿片)"(Virgin CLASSICS/216621 2)を聴いてみる。
それにしても、阿片... とは、また刺激的。

ジャルスキーのアルバムというのは、毎回、どこか危うげ... というか、怪しげで、おもしろい。例えば、前作、伝説のカストラート、カレスティーニをフィーチャーしたアルバム(Virgin CLASSICS/3 95242 2)では、まさしく怪しげな仮面をつけてのジャケット写真。前々作、アクロバティックなコロラトゥーラが炸裂するヴィヴァルディのアルバム(Virgin CLASSICS/363414 2)では、フ女子向け(?)なアートワークス。
それら、他の"クラシック"系アーティストでは、かなり難しいことだが、ジャルスキーならば、様になってしまうから、おもしろい。で、"OPIUM"... 薄っすら化粧をして、シャルリュス男爵でも気取るかのような、そんな雰囲気?アルバムのタイトルは、サン・サーンスの歌曲"Songe d'opium(阿片の夢想)"(track.15)から... そして、アルバムの始まりと終わりにアーンの歌曲... そのアーン、最後は「恍惚の時」(track.24)で、ヴェルレーヌの詩とくれば、プルーストな世界?その怪しげさは、パッケージばかりでなく、音楽自体にも漂うあたりが、前作、前々作とは違って、なかなか興味深い。
カウンターテナーが、本来のレパートリーからズレたところで仕事をすると、どうもイロモノに見えてしまう。が、"OPIUM"でのジャルスキーは、そうしたところに陥らない。とはいえ、フランス歌曲の持つ、いつもの雰囲気とは明らかに違う感覚があって、1曲目、極めて美しい(!)、アーンの「クロリスへ」から、幻惑させられてしまう。バロックから離れたジャルスキーの声は、よりやわらかく、やさしげで、より軽く、ナチュラルに響く。どこか、ボーイ・ソプラノのよう?その瑞々しさと透明感に、ゾクっときてしまう。
フランス歌曲というと、ドイツ歌曲に比べ、サロンのイメージが濃いというか、より大人のイメージ(=プルーストな世界?)がある。が、その大人のイメージを、純真無垢な声がなぞると、どうしようもなく危うげで。そういう少年のようなあたりから歌われる"OPIUM"は、ちょっと他では味わえない感覚。2曲目、シャミナードの「ソンブレロ」(track.2)では、軽やかで屈託のない明るい世界が広がり、悪戯っぽく... フランス歌曲に漂う、大人の艶っぽさとは距離を取りながら、大人たちを翻弄する艶っぽさを響かせる?とはいえ、ジャルスキーもいい大人ではあるのだけれど...
そんなジャルスキーの歌に、花を添えるソリストたちが、また豪華!ルノーのヴァイオリンに、ゴーティエのチェロの、カピュソン兄弟に、フルートのエマニュエル・パユ。まさに、チーム・フランスによるフランス歌曲集なわけだ。そして、特に印象的なのが、カプレの「ほら、目には見えないけれども、笛の音、ひとすじ」(track.11)、その笛... パユのフルート!ほんの小品、ではあっても、その美しさ、存在感は、さすが。そして、忘れてならないデュクロのピアノ。繊細なジャルスキーの歌の世界を、クリアなタッチで丁寧に包んで、時によりエスプリを効かせて、程好くサロンの気分も味合わせてくれる。
それにしても、ただならないバランスの上に成り立っているアルバム。フランス歌曲のアルバムなら、いくらだってあるだろうけれど(ま、ドイツ歌曲に比べれば、断然、少ないか... )、まったく独特な1枚に仕上がっているのは、フィリップ・ジャルスキーという稀有な存在の音楽性を、きちっと見据えた、絶妙の選曲があってこそ。それはまた、フランス歌曲のすばらしいカタログにもなっていて、見事。だが、最後、アーンの名曲、「恍惚の時」(track.24)では、さすがに高音が苦しかったか?しかし、そのギリギリ感も、絵にしてしまい...
浮世離れした声で、淡くもヴィヴィッドに彩色していくフランス歌曲は、改めてその美しさにはっとさせられ。また、バロックではないジャルスキーの目新しさもあり。かつ、バロックでないからかこそ、見えてくる、この歌い手のすばらしさもあって... フィリップ・ジャルスキー、再発見の1枚かもしれない。

OPIUM Mélodies Françaises Philippe Jaroussky

アーン : クロリスへ
シャミナード : ソンブレロ
マスネ : エレジー *
フォーレ : ネル Op.18-1
ショーソン : 蜂雀 Op.2-7
フォーレ : 秋 Op.18-3
シャミナード : ミニョン
アーン : はなやかな宴 (マンドリン)
ショーソン : リラの花咲く頃
ショーソン : 蝶々 Op.2-3
カプレ : ほら、目には見えないけれども、笛の音、ひとすじ *
ショーソン : 時の女神 Op.27-1
アーン : 離れ家に閉じ込められたとき
アーン : 捧げ物
サン・サーンス : 渦巻き "阿片の夢想" Op.26-6 〔『ペルシャの歌』 より〕
ドビュッシー : ロマンス 〔『2つのロマンス』 より〕
デュカス : ロンサールのソネット
マスネ : スペインの夜
ルクー : 墓にて 〔『3つの詩』 より〕
サン・サーンス : 夕べのヴァイオリン *
フランク : 夜想曲
デュポン : セレナードを弾く男たち (マンドリン)
ダンディ : 海の歌 Op.43
アーン : 恍惚の時 〔『灰色の歌』 より〕

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
ジェローム・デュクロ(ピアノ)

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン) *
ゴーティエ・カピュソン(チェロ) *
エマニュエル・パユ(フルート) *

Virgin CLASSICS/216621 2




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bonnjour

genepro6109様:

はじめまして、bonnjourと申します。
こちらのブログ、かねてからよく訪問させていただき、エキサイティングな記事をいつも楽しみに拝見しておりました。

突然ですが、当方もこのディスク「Opium」について3月18日に自分のブログに感想を書いております。そこで、トラックバックさせていただければと思います。差し支えなければご承認をよろしくお願いいたします。

そうそう、シャルリュス男爵の例えにはニヤリとしてしまいました。
それでは今後とも、よろしくお願いいたします。

by bonnjour (2009-04-14 04:05) 

genepro6109

はじめまして、bonnjourさん。そして、コメント、ありがとうございます。

それにしても、エキサイティングですか... うわぁお!ちょっと、うれしい。けど、拙過ぎな文章(ヤッツケ仕事、多いかも... )でして、赤面でもあります。

さて、bonnjourさんのblogも、早速、読ませていただきました。
冒頭のオピウムの写真が素敵ですね(「よいこ」なので、マネしません... )。

ということで、今後とも、どうぞよろしくお願いします。

by genepro6109 (2009-04-14 21:54) 

bonnjour

genepro6109さん、早速トラックバックの承認をありがとうございました。
これからも、こちらにちょくちょく遊びに来させていただきますね!
by bonnjour (2009-04-15 19:28) 

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