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遊泳する... [overview]

さて、2009年がスタートしたところで、再び2008年へと戻ってしまうのだけれど... 2008年のリリース、語り尽くせていない部分を、ざっと語る。いや、2008年は、本当におもしろいアルバムがいろいろあった!真正面からおもしろいものもあれば(そのあたりは、すでに語り済み... )、ちょっと斜め上からのおもしろいものなど、実に様々... で、その様々の極みにあるアルバムを拾ってみようかなと... 教科書的、A級な、ブリリアント感には欠けるものの、A級を遥かに越える強烈な個性や、凝ったカップリング、大胆過ぎるチャレンジなど、取り澄ましたクラシックにあって、B級な魅力を放つアルバム。などと言ってしまっては、大いに語弊があるかァ。いや、ここはひとつ、あえて、B級音楽の奨め!ブっ飛んだやつ...

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まずは、若い感性が光ったパーカッショニスト、ヨハネス・フィッシャーのデビュー・アルバム、"Percussion Gravity"。そこに収録された、グロボカールの"Toucher"が、めちゃくちゃおもしろかった!叩きながらしゃべる... ナレーター・パーカッショニストという役回りが生み出す、軽妙キテレツな音楽世界。台詞が、パーカッションによりリズムに置き換えられ、言葉に潜むユーモラスな抑揚を強調してみせる。これは音楽なのか?とも思うのだけれど、やり遂げたヨハネス・フィッシャーの音楽性に衝撃を受ける(他の作品でも、彼の才能は遺憾なく発揮されている!)。で、若い割に落ち着いた雰囲気を醸すフィッシャー(b.1981)の声も印象的。ブレヒトによる台詞を器用に演じてみせて、叩くばかりでない才能もあったり?そのあたり、気になったり...
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さて、パーカッションに続いては、機械仕掛けのピアノが繰り出すユーモラス... MDGが繰り広げるプレイヤー・ピアノのシリーズ、第6弾、"Piano Music without Limits"が凄かった!プレイヤー・ピアノに芸術性を吹きこんだナンカロウへ、オマージュを捧げるその中身... そこには、堅苦しさなど微塵も無く、中にはギャグか?なんて突っ込みを入れたくなるような作品も... 現代の作曲家たちが、ナンカロウに負けじと、プレイヤー・ピアノでおもいっきり遊んでしまうという、大胆なる1枚。で、こうなりますか?!という、各自、弾けっぷりが、おもしろい!一方で、ロンバルディ、シュライエルマッハー、アムランといった、21世紀のコンポーザー・ピアニストによる作品も含まれていて、彼らの、十本の指という制約から解放された先にあるピアノ像を垣間見られるのも、なかなか興味深く...
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ヘンデルの代表作です。これがB級?いや、B級的アプローチ!ベルナルディーニ+ゼフィロによる、ヘンデルの『王宮の花火の音楽』が、おもしろかった!おもしろいというより、凄かったが正しいか... で、何が凄いって、野外で録音してしまったこと!えーっ!?野外録音?あり得ない... となるのが、クラシックの健全な反応だと思う。が、彼らはやってしまった。何より、やり切ったから凄い!作品のディテールよりも、オープンなスペースでの、のびのびとした感覚、朗らかさが巧く拾い上げられていて、演奏も、明らかに野外なノリが感じられ、ピクニックに行ったような、そんなウキウキ感を味わえる『王宮の花火の音楽』。さすがに、花火の音まではなかったのだけれど... そこまでイったらやり過ぎか?いや、それくらいの遊びが、今のクラシックには必要な気がする。
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ゼフィロが野外に飛び出したなら、ロス・オトロスはメキシコに飛び込んで驚かされた!ファンダンゴのかつての姿を探ろうと、メキシコに伝わるウァバンゴ(ファンダンゴの原初の姿を留めている?)を訪ねる、"LA HACHA"。今に続く(と言わざるを得ない)文明の対立、そして(新大陸発見という)征服の歴史が、アルバムのタイトル、「斧」に象徴されて... いるのだけれど、そう深刻には捉えて来ない?ファンダンゴ(古楽=ロス・オトロス)とウァバンゴ(ワールド・ミュージック=テベンベ・アンサンブル・コンティヌオ)の"対バン"で展開し、やがて入り乱れて大いに盛り上がってしまう!文明は、対立するよりミックスされた方がおもしろくなる!そんなメッセージだろうか... 何より、ワールド・ミュージックの世界で、泥んこになることを恐れない古楽界のプリンセス、パールの大胆さに感激!
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で、ワールド・ミュージックつながり?まるでフォークロワのような古い歌に導かれて始まる、バロック・ヴァイオリンのマエストラ、バンキーニによるタルティーニ、"Sonate a violin solo | Aria del Tasso"。バロック期の無伴奏ヴァイオリンのためのソナタと、中世末、ルネサンス期にルーツを持つ古謡を並べるという大胆さ... そこには、作曲家がソナタに織り込んだ"詩"を読み解こうというチャレンジングな仕掛けがあるのだけれど、響いてくるサウンドは、そうした仕掛けを超越して、何か、この世のものとは思えない雰囲気に包まれている。そんなサウンドに触れていると、幽体離脱でもしてしまいそうな、そんなスピリチュアルさに、眩暈を起こしそう... こういう感覚、生半可のアーティストでは表現し得ないもの... 畏るべし、バンキーニ... で、これは、超弩級なのかも...

クラシックを丁寧に追ってみると、その多様さに、本当に驚かされる。音楽史とは、そのまま膨大なアーカイヴであり、当然と言えば、当然なのだけど... 音楽の一ジャンルでありながら、これだけの宇宙を抱え込むクラシックに、改めて、ただならなさを覚える。そんなクラシックを楽しむ=そんな宇宙を遊泳してきた2008年。けど、近頃、思う。そんな宇宙に、地平線を引き、そこからの距離で、良し悪しを図ろうとする... そんなクラシックの癖が、クラシックを委縮させていくような気がして... 21世紀、クラシックとは、どんな風に在ったらハッピーなのだろう?「近代」という価値観が、すでに過去のものになりつつある現状を前に、クラシックでも、あと少し、「チェンジ!」があったなら... クラシックの宇宙を、もっと自由に空間把握できたなら... とか、つぶやきつつ...
えーっと、2008年のリリースを巡って来て、まだ書き足らない!ということで、次回は2009年の新譜を取り上げて、その後で、この続きを...




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