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フィレンツェ、熾烈な競争が生んだ風雅、 [2008]

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オペラは大好き。けれど、その始まりについては、今一、把握し切れない。
と、どこかでもどかしい思いをして来たのだけれど、近頃は、その始まりにもスポットが当てられて... 昨年、ル・ポエム・アルモニークがリリースした"FIRENZE 1616"(Alpha/ALPHA 120)や、フオコ・エ・チェネレによるガリアーノの『ダフネ』(ARION/ARN 68776)が、オペラ誕生の地、フィレンツェの、オペラ誕生の頃を垣間見せて、興味深く、とても印象的だった(『ダフネ』は、マントヴァの宮廷による委嘱... )。が、さらに、核心へと迫るアルバムが登場!それは、現存最古のオペラの一端を捉える貴重な資料!
バリトン歌手として活躍しながら、チェンバロもリュートも弾く、驚くべき逸材、ニコラ・アクテン率いる、若い才能が結集した古楽アンサンブル、スケルツィ・ムジカーリによる、カッチーニのオペラ『エウリディーチェ』(RICERCAR/RIC 269)を聴く。

最初のオペラは、フィレンツェの貴族、コルシ伯のプランを、ペーリ(1561-1633)が引き継いで作曲した『ダフネ』(ca.1597)とされている。が、そのほとんどが残っていない。現存最古のオペラは、そのペーリと、ペーリのライヴァル、カッチーニ(ca.1545-1618)の音楽による『エウリディーチェ』(1600)とされる。フランス国王、アンリ4世と、トスカーナ大公女、マリア(マリ・ド・メディシス)の婚礼の出し物として上演されたことで知られる作品だ。場合によっては、この作品がオペラの始まりとされることもある。が、このコラボレーション、「コラボレーション」と言えるような、創造的なリレーションシップによって生み出されたものではなく、妥協の産物(カッチーニがペーリの音楽に割り込んだ形?)だった。フィレンツェ楽壇の巨匠、カッチーニらが発明したモノディ(単旋律)の革新的なテクニックを用い、若い世代のペーリらが生み出したオペラ... 旧世代なくしては生み出し得なかった新世代たちによるオペラに、旧世代が割って入って、主導権を奪おうとしたから事態は複雑。また、ブルボン家とメディチ家の婚礼という、国際的な晴れの舞台を巡って、貴族たちの権力闘争も絡み、当時のフィレンツェ楽壇の競争は熾烈さを極めた。その後、『エウリディーチェ』は、ペーリ、カッチーニ、それぞれ独自のオペラとして完成させ、2つの版が存在することとなった。が、2人による『エウリディーチェ』が初演された時点で、ペーリは、すでに独自の完全版を完成させており、現存最古のタイトルが与えられるのはペーリ版のよう... しかし、その楽譜の出版は、カッチーニに先を越されてしまい、世界で最初に出版されたオペラは、カッチーニ版となる。で、カッチーニ版を聴く...
そのカッチーニによる『エウリディーチェ』だが、その影響を受けて作曲された、オペラ黎明期の傑作、モンテヴェルディの『オルフェオ』(1607)を思い起こすと、いい具合にフラットで、まさに古雅な響きが印象的。婚礼のために用意された作品だけに、やわらかな雰囲気が広がり、エウリディーチェを失おうと、オルフェオが冥府に下ろうと、全体に明るい響きに包まれる。また、最後はハッピー・エンドに仕立て直されて、ドラマが際立つ音楽というよりは、どこか、ボッティチェッリの『プリマエヴェーラ』のように、画面の隅々まで花が咲き乱れ、アレゴリーが軽やかに舞うような、そんな春めく気分が快い。音楽のスタイルとしては、確かなモノディを用いて、新しい時代の音楽を明確に示すものの、モンテヴェルディのように突き詰めることをしないのがフィレンツェ流の風雅だろうか?どこかルネサンスの匂いを未だ留め、モノディによるレチタール・カンタンド(語りながら歌う... )でドラマが展開されるものの、初期バロックのコントラストのきついストイックなサウンドとは趣を異にし、明朗で美しい。
そうした明朗な美しさを丁寧に紡ぎ出すアクテン+スケルツィ・ムジカーリ... 歌手たちのやわらかな歌声と、その声に寄り添う小さな器楽アンサンブル(ディレクターを含めて5人!)が綾なす音楽は、得も言えず親密で、その親密さが、澄んだ響きを実現して、どの瞬間もキラキラと輝く。その輝きは、いわゆるオペラティックな押し出しの強さは見せないものの、楚々として古雅な気分を際立たせ、ギリシア神話の世界をやわらかに、花々しく彩って、魅了されずにいられない。スケルツィ・ムジカーリは、若い演奏家が結集しての、新しい古楽アンサンブルとのことだが、その若々しさと、「新しい」からこその初々しさが、オペラの始まりに思いの外はまるよう。で、驚くべきは、テオルボを弾きながら、オルフェオを歌う、ディレクター、アクテン!歌っても、弾いても、すばらしいパフォーマンスを見せて、まさに、オルフェウス的!

Giulio Caccini L'Euridice

カッチーニ : オペラ 『エウリディーチェ』

オルフェーオ : ニコラ・アクテン(バリトン)
エウリディーチェ : セリーヌ・ヴェスレ(ソプラノ)
トラジェディア/ダフネ : マジド・エル・ブシュラ(カウンター・テナー)
プルトーネ/ティルシ/アミンタ : オリヴィエ・ベルテン(バリトン)
アルチェトロ/カロンテ : レイナウト・ファン・メヘレン(テノール)
ヴェネーレ/ニンファ : マリー・ド・ロワ(ソプラノ)
プロセルピーナ/ニンファ : ローレンス・レンソン(メッゾ・ソプラノ)

ニコラ・アクテン/スケルツィ・ムジカーリ

RICERCAR/RIC 269




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