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南アメリカの自由、北アメリカの洗練、 [2008]

ヨーロッパの非常にコアな近代音楽を聴いた前回から一転、海を渡り、南北アメリカ大陸における軽やかな近代音楽を聴いてみようかなと... で、思うのだけれど、何だろう?海を渡ると、憑き物が落ちたように軽くなるモダニズム!もちろん、一概に言えたものではないけれど、ヨーロッパのモダニズムには生みの苦しみが籠められており、改めて見つめると、そのインパクトは独特なのかもしれない。一方のアメリカは、「ナチュラル・ボーン・モダニスト」とでも言おうか、モダニズムを特別視していない?素っ気無いくらいに当たり前なことであって、モダニズムに対して、とてもドライに感じられる... いや、このドライな感覚こそ、モダニズムの真髄のように感じる。ヨーロッパからアメリカへ、モダニズムを追うことは、その成長、深化を追うことにもなる気がする。
ということで、アメリカにおけるモダニズム、諸相... まずは南から、注目の新鋭、ウィレム・ラチュウミアが弾く、南米のピアノ作品集、"impressões"(RCA RED SEAL/88697 373402)。そして、北へ、注目のマエストラ、マリン・オルソップと、昨シーズンまで彼女が率いていたボーンマス交響楽団の演奏による、コープランドの交響曲集(NAXOS/8.559359)を聴く。


モダニズムは、補強材、ラチュウミアが弾く、ラテン・アメリカの自由な音楽!

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ブラジルならではのサウダージ(ポルトガル語で、郷愁、憧憬、思慕など意味し、独特なセンチメンタルを含む、ブラジルならではの表現... )を効かせて、しっとりと始まる"impressões(印象)"。ヴィラ・ロボス(1887-1959)の4曲からなる『ブラジルの詩』(track.1-4)、本来は、その第2番となるようだけれど、最初に弾かれる「吟遊詩人の印象」、そこに漂うブラジルならではのサウダージに、まず、グイっと惹き込まれてしまう。それはもう、はぁ~ ラテン・アメリカに来たァ。という印象... そこから一転、リズムが弾ける「奥地の踊り」(track.2)の、クリアでアグレッシブな音楽にも魅了され... ブラジル流のモダニズムというのは、モダニズムが主体にならず、あくまでもブラジルの魅力を補強する術として用いられ、そういう向き合い方、なかなか新鮮。いや、だからこそ引き立つ音楽であり、「カボークロの苗植え」(track.3)の、右手が刻むミニマリスティックな動きに、左手が奏でるゆったりとしたメロディーが重なると、何とも味わい深く、絶妙なラテンとモダンの重なりに、ヨーロッパにはない屈託の無さを見出し、感心すらさせられる。続く、グアルニエリ(1907-93)のポンテイオ、第30番(track.5)は、よりブラジルらしさは深まり、第49番(track.6)では、激しく踊るようなエモーショナルさが、カーニヴァルの国、ブラジル!かと思うと、第50番(track.7)では、瑞々しい印象主義を繰り出して、ケクランに師事したという経歴に納得。で、ケクラン的なサウンドに、サウダージが滲むと、何と魅惑的な!続く、トッカータ(track.8)は、ヨーロッパからの対位法がラテンの血で踊り散らされてゆくような表情を見せ、モダニズムとしてもなかなか挑戦的。再び、ヴィラ・ロボスに戻って、この作曲家のピアノ作品としては、よく取り上げられる『赤ちゃんの一族』、第1集(track.9-16)を聴くのだけれど... 改めて聴いてみると、ドビュッシーとそう遠くない上質な印象主義的な音楽が繰り広げられ、何だか見直してしまう。ブラジルの瑞々しい感性というのは、印象主義と親和性があるのかもしれない。
という、ブラジルの後で、最後にアルゼンチンの作曲家も取り上げる"impressões"。同じラテン・アメリカとはいえ、そこには性格の違いが聴き取れて、興味深い... で、アルゼンチンといえば、やっぱりヒナステラ(1916-83)、そのアルゼンチン舞曲集(track.22-24)を聴くのだけれど、ブラジルに比べると、幾分、ドライで、それがプリミティヴにも感じられ、どこかバルトークに通じるものを見出す。そして、最後に、よりヨーロッパ的なグアスタビーノ(1912-2000)のバイレシート(track.25)が、センチメンタルに奏でられ... 完全にクラシックを逸脱してしまうライトさを響かせつつ、そんなアルゼンチン・タンゴを思わせるトーンが、東欧の国民楽派を思わせるトーンにいつの間にか結ばれもし、不思議。いや、何という諸相!飽きさせない...
そんな、ラテン・アメリカの20世紀のピアノ作品を弾いたラチュウミアのタッチが冴えまくっている!近現代のスペシャリストとして、頭角を現しつつあるわけだけれど、ウーン。始まりの「吟遊詩人の印象」の冒頭の、澄み切った音色を聴いた瞬間から、何だか空気が変わるような印象すら受ける。単に明晰なのではない、澄み切ったタッチに、「近現代」というようなステレオ・タイプはどこかへ吹き飛び、音楽そのものが、よりピュアに息衝き、美しい... だからこそ、活きる、ラテン・アメリカの20世紀のピアノ作品。下手にラテンに没入するのではない、しっかりとした自分を持った演奏は好感が持てる。何より、「美」そのものをすくい上げることに長けたその両手... 癖のあるはずの音楽をこうも美しく奏でるとは、感服。

impressões ・ Villa-Lobos ・ Guarminieri ・ Ginastera ・ Guastavino ・ Wilhem Latchoumia

ヴィラ・ロボス : ブラジルの詩
グアルニエリ : ポンテイオ 第30番
グアルニエリ : ポンテイオ 第49番
グアルニエリ : ポンテイオ 第50番
グアルニエリ : トッカータ
ヴィラ・ロボス : 『赤ちゃんの一族』 第1集
ヴィラ・ロボス : トリストローザ
ヴィラ・ロボス : オリオンの3つの星
ヴィラ・ロボス : カボークロの伝説
ヒナステラ : アルゼンチン舞曲集
グアスタビーノ : バイレシート

ウィレム・ラチュウミア(ピアノ)

RCA RED SEAL/88697 373402




モダニズムの優等生、コープランド、フロンティア、アメリカを響かせる...

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さて、ラテン・アメリカから北上... アメリカン・モダニズムの本丸、コープランド(1900-90)を聴くのだけれど、さすがはコープランド、モダニズムがパリっと展開されて、何だか溜飲を下げる。もちろん、ラテン・アメリカの音楽がダメというわけではないのだけれど、手堅いモダニズムの安心感のようなものが、ラテン・アメリカの作曲家の後では、一層、引き立つのか... 一方で、折り目正しいモダニズムは、ラテン・アメリカの自由な気風からすると、スノッヴにも感じられ、堅苦しさがなくもないのだけれど、それでも、すっきりとしたサウンドに心地良さを覚えるのは、これが、ヨーロッパではなく、アメリカのモダニズムだからだろう。1921年、パリへと留学したコープランドは、名教師、ナディア・ブーランジェの忠実な生徒のひとりとなる。そういう手堅さが、コープランドの音楽の卒の無いモダニズムを象徴しているように感じる。ストラヴィンスキーといった、世間と格闘した世代とは違う素直さ、新しいスタイルを当たり前のように繰り出しての洗練、それは、1920年代当時の現代っ子のサウンドだったと言えるのかもしれない。さて、1924年に帰国して間もなく作曲されたのが、師、ブーランジェ、アメリカ招聘のために用意されたオルガンと管弦楽のための交響曲。ヨーロッパから訪れた高名な師によるオルガン(ブーランジェは、名教師というだけでなく、すでに筆は折っていたものの作曲家であり、オルガニストで、ピアニストで、指揮者でもあった... )もあってか、ニューヨークでの初演は大成功。コープランドは、アメリカ楽壇においてブレイクを果たす。という、オルガンと管弦楽のための交響曲を改稿したものが、ここで最初に聴く、1番の交響曲(track.1-3)。
オルガンと管弦楽のための交響曲の初演後に始まった改稿は、オルガン・ソロが外され、4年を経て1928年に完成。交響曲として、より洗練されたサウンドに至っており、またそこには、アメリカという土地、フロンティアに根差したモダニズムがすでに形作られており、コープランドらしいドライで明晰な音楽がとても魅力的。続く、2番の交響曲、「ショート・シンフォニー」(track.4-6)は、コープランドを代表する作品のひとつバレエ『アパラチアの春』の作曲が始まる前年、1933年に完成した作品。ということで、『アパラチア... 』へと至る道が示されていて、印象的。まさに、コープランドならではのスケールの大きさと、ヴィヴィットな音響が広がり、アメリカの大自然の雄大さをモダニズムからナチュラルに描き出す妙!終楽章(track.6)では、間もなく作曲が始まる「エル・サロン・メヒコ」のフレーズも聴こえ... そうしたあたりから、この交響曲は、コープランドにとって、出発点とも言える作品になのかもしれない。一方で、最後に取り上げられる舞踏交響曲(track.7-9)は、パリ時代に作曲が始められていたコープランドの最初のバレエ『グローグ』を交響曲に編み直した、1930年の作品。そこには、バレエ・リュスで上演されそうなファンタジーが感じられ、コープランドならではのドライさの中に、ヨーロッパのウィットの名残りを留め、先の2つの交響曲とは一味違うおもしろさ、若きコープランドの瑞々しい感性を見出すよう。
そんな、コープランドの若き頃を捉えた、オルソップ、ボーンマス響の演奏... オルソップは、程好いやわらかさを以ってスコアに向き合うのか、それにより、コープランド青年の若々しい素直さを巧みに引き出して、本当に嫌味の無いモダニズムを紡ぎ出す。ボーンマス響も、しなやかにオルソップに応え、ふんわりとポップな表情をコープランドの音楽に生み出し、素敵!

COPLAND: Dance Symphony

コープランド : 交響曲 第1番
コープランド : 交響曲 第2番 「短い交響曲」
コープランド : 舞踏交響曲

マリン・オルソップ/ボーンマス交響楽団

NAXOS/8.559359




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