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ノスタルジーの向こう側に、「近代音楽」。 [2008]

"クラシック"というカテゴリーから、ニューエイジ的なセンスを孕む、現代音楽、あるいは古楽のレパートリーで、異彩を放ってきたECM NEW SERIES... その一方で、硬派な「近代音楽」のレパートリーでも、実に興味深いアルバムを世に送り出している。それがまた、ど真ん中ではない、渋いチョイスが、憎い... のだけれど、2008年、そんなECMからの気になる「近代音楽」のアルバムを2つ。
ドイツ、孤高の作曲家、ベルント・アロイス・ツィンマーマンの、ヴァイオリン協奏曲を中心とした作品集(ECM NEW SERIES/476 6885)と、スイスの作曲家、フランク・マルタンによる、ヴァイオリンが活躍するオーケストラ作品集(ECM NEW SERIES/173 3930)を聴く。


「近代音楽」、ツィンマーマンの場合...

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2008年、生誕90年のメモリアル、新国立劇場でのオペラ『軍人たち』の上演で、にわかに注目度を増しつつある?20世紀、ドイツ、孤高の作曲家、ベルント・アロイス・ツィンマーマン(1918-70)。本人は、自身の音楽が理解されないと、自殺を図り、この世を去ったとのことだが、世紀も新しくなり、その『軍人たち』の、初演(1965)のメンバーによる録音がCD化(WERGO/WER 66982)され、今度は、ECMから、ヴァイオリン協奏曲をメインとした管弦楽作品集がリリースされたりと、国際的に、その理解は進んでいる?何気に旬?
ということで、大いに注目したい、ECMからの新譜。ハインツ・ホリガーの指揮、WDRケルン放送交響楽団という、ドイツの、20世紀の音楽を回顧するには、最高の組み合わせで。ヴァイオリン協奏曲では、トーマス・ツェートマイアーがソロを弾くという、ある意味、ドリーム・チームによるツィンマーマンだ。そして、『軍人たち』以外の作品に触れることの少ない中(『軍人たち』ですら、難しいわけだけど... )で、ツィンマーマンという作曲家を、オーケストラから、しっかりと体験できることに、大きな手応えを感じずにはいられない。
で、そのサウンドだが... 鉄と、オイルと、そんな臭いがしてきそうな、これぞ「近代音楽」といったサウンド。それは、すでに"ゲンダイオンガク"とは切り離され、音楽史の中に、「近代音楽」として、きちっと収まったサウンドで。ヘヴィーで、バーバリスティックで、かつての、あの"アヴァンギャルド"な気分... そうしたものが充ち充ちている。そんなツィンマーマンの音楽世界を、21世紀という場所から聴けば、どこかノスタルジックな表情も見せ、印象的。
そのツィンマーマンの音楽を、ビターに仕上げてくるホリガーのセンスは、実にクール。また、錯綜していくようなツィンマーマン独特の音楽世界を、的確に捉えて、しっかりと鳴らしてくるWDRケルン放送響の演奏も、実に魅力的。ヴァイオリン協奏曲(track.1-3)での、ツェートマイアーのヴァイオリンは、この人ならではの鍛え抜かれた響きというのか、シャープさと力強さが、作品の持つ硬質さに、ただならない魅力を与え、「近代音楽」が、怪しげに黒光りしてくるよう。また、2曲目、カント・ディ・スペランツァ(track.4)の、トーマス・デメンガによるチェロも、「近代音楽」ならではの緊張感と、独特の艶っぽさを聴かせ、聴き入るばかり。3曲目、2人の語りと、バスの歌による「私は振り返り太陽の下で行われたすべての不正を見た」(track.5)の、特異なアンサンブルが聴かせる、モノトーンなドイツ語の、渋く迫り来る異様さ... いや、これは、カッコいいかもしれない... 時折、彼らの後ろで響く、エレクトリックな響きが、不思議なセンチメンタルを滲ませ... 最後は、バッハが、突如、高らかに響く、衝撃!なんとも、強烈。

BERND ALOIS ZIMMERMANN CANTO DI SPERANZA

ツィンマーマン : ヴァイオリン協奏曲 *
ツィンマーマン : カント・ディ・スペランツァ *
ツィンマーマン : 「私は振り返り太陽の下で行われたすべての不正を見た」 *

トーマス・ツェートマイアー(ヴァイオリン) *
トーマス・デメンガ(チェロ) *
ゲルト・ベックマン、ロベルト・ハンガー・ビューラー(語り) *
アンドレアス・シュミット(バス) *
ハインツ・ホリガー/WDRケルン放送交響楽団

ECM NEW SERIES/476 6885




「近代音楽」、マルタンの場合...

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スイスの作曲家、フランク・マルタン(1890-1974)。けしてメジャーとは言えないけれども、その音楽というのは、意外と聴く機会に恵まれているように思う。小協奏交響曲、7つの管楽器とティンパニのための協奏曲、『イェーダーマン』による6つのモノローグ... あたり?ま、それら、どれもマニアックではあるけれど... そんなマルタンも、ツィンマーマンのみならず、微妙に注目度を増しているのか?これまでとはまた一味違うレパートリーで、気になるリリースが増えてきているような...
そこに、ECMからの新譜。と言っても、リリースは春だったのだけれど... 『モリムール』(ECM NEW SERIES/461 895 2)、『リチェルカーレ』(ECM NEW SERIES/461 912 2)で、一躍、このレーベルの看板の一人となったクリストフ・ポッペンと、彼が率いる新しいオーケストラ、ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団によるマルタンの作品集。遅まきながら、聴いてみた。
1曲目、ポリプティーク(track.1-6)の、怜悧なサウンドを耳にした瞬間、独特なマルタン・ワールドに引き込まれる。それは、やはり「近代音楽」。そうした臭いが立ち込めるサウンド。だが、ツィンマーマンと違うのは、透明感。それと、冷めた抒情が、心地よく広がって... このあたりが、スイスとドイツの差か?何か、ミステリアスなフランス映画でも始まりそうな、そんな映画音楽を思わせるトーンが、センスよく...
(キリストの受難のシーンを描いているわけだから、ある意味、映画音楽的か... )
また、ソロを弾くミュリエル・カントレッギのヴァイオリンが、実に瑞々しく、クールで、透明な世界を走り抜けていくような、そんな感覚が魅力的。彼女のヴァイオリンは、2曲目、『マリア三部作』(track.7-9)でもすばらしい演奏を聴かせ、マリアにちなむ3つの歌を歌うユリアーネ・バンゼ(ソプラノ)の、力強く、深い声とのコントラストも印象的。で、バンゼのマリアは、どこか大地母神のような風格すら漂い、美しいヴァイオリン、透明なオーケストラが奏でるサウンドの中で、存在感を示す。
そして、そのオーケストラだが... スクロヴァチェフスキのオーケストラとしてお馴染だった、あのザールブリュッケン放送響と、カイザースラウテルンSWR放送管が再編され(オーケストラへの経済的プレッシャーは、ドイツでも強いのか?)、新しく誕生したオーケストラ。まだ、再編されて2シーズン目とのことだが、首席指揮者、ポッペンの下、繊細さと透明感が印象的で、マルタン独特の温度感を巧みに捉えて、マルタン・ワールドの魅力は、より深まるよう。

FRANK MARTIN TRIPTCHON

マルタン : ポリプティーク ― キリスト受難の6つの印象 〔ヴァイオリンと2つの弦楽オーケストラのための〕 *
マルタン : マリア三部作 〔ソプラノ、ヴァイオリンとオーケストラのための〕 **
マルタン : パッサカイユ 〔オ-ケストラのための〕

ミュリエル・カントレッギ(ヴァイオリン) *
ユリアーネ・バンゼ(ソプラノ) *
クリストフ・ポッペン/ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

ECM NEW SERIES/173 3930




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