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21世紀、ダニエル劇。 [2008]

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明日は大晦日、2008年も、間もなく終わります。そして、今年の締め括りです。
で、振り返ると、もう何が何だか... ダムラウのブラブーラに始まって、中世から、現代まで、モダンも、ピリオドも、交響曲に、パーカッションのソロにと、節操無く、とにかく、突っ走って来たかなと... いや、改めてクラシックの広がりを思い知らされて、そんな2008年の最後に何を聴こうかと迷う。やっぱり、第九?は、ちょっと能が無いので、中世ヨーロッパ、クリスマスから年明けての公現祭に掛けて行われたという、愚者の祭り(お坊さんたちの忘年会の無礼講?みたいな、下級僧侶の馬鹿騒ぎ... )で上演されたという典礼劇。
イギリスの古楽アンサンブル、デュファイ・コレクティヴによる歌と演奏で、フランス、ボーヴェ大聖堂で生まれたという典礼劇、旧約聖書のダニエル書から、預言者ダニエルの数奇な運命を描く、『ダニエル劇』(harmonia mundi/HMU 907479)を聴く。

12世紀末、あるいは、13世紀初頭、ボーヴェ大聖堂付属の神学校の学生たちによって創作された典礼劇、『ダニエル劇』。そもそも典礼劇とは何か?その名の通り、ミサなどの典礼から発展し、聖書をより解り易く伝えるために、歌を伴う劇に仕立てられたもの... だが、ここで聴く『ダニエル劇』は、少し趣きを異にする。旧約聖書に題材を取っていることもあって、スペクタキュラー?というか、エンターテイメント?なぞ解きに、猛獣たちの登場と、思いの外、見どころ満載。ありがたい宗教劇というよりは、若い神学生さんたちのノリみたいなものが絶妙に効いていて、思いの外、表情豊かにドラマが繰り出され、まるで中世におけるオペラのよう... とはいえ、クリスマスに因んでの上演だっただけに、最後はイエスの降誕が告げられ、それを祝う賛歌が歌われて幕となる。で、その音楽なのだけれど、中世の音楽の特徴と言えるかもしれない、記譜されているのは、メロディー(単旋律)だけ... 一部、ト書きに、伴奏に用いる楽器について言及されているところもあるものの、音楽の全体像は、厳密にはわからなかったりする。裏を返せば、伴奏といった肉付けは、その時、その場の状況に応じて、最良の形で為せ、ということか?緻密に書かれたスコアに縛られる以前の、音楽の自由度こそ、中世の音楽の魅力なのかもしれない。そこにはまた、演奏する側の力量が試されるおもしろさもあって... その都度、その都度、大きく表情を変えていく可能性は、とても刺激的だったりする。そして、デュファイ・コレクティヴによる『ダニエル劇』は...
中世ならではのシンプルなメロディーを、どこか飄々と歌いつないで、いい具合にユルい!旧約聖書の堅苦しさはすっかり薄れ、ほのぼのとした味わいが、ズバリ、ツボ... いや、これが、当時の若い神学生さんたちの気分に迫れている気がする。ベルシャザール王の宮殿の壁に謎の言葉が浮かび上がる時の、ちょっとホラーちっくな囁き声(track.5)や、ダニエルがライオンの棲む穴に落された時の、迫力ある呻り声(track.26, 30)など、手作り感がいい感じ。それは、中世の写本の、どこかマンガっぽいような感覚(ジャケットのライオンに足を舐められているダニエルの姿のような... )を絶妙に表現するのか... そんな特徴あるシーンばかりでなく、全体から中世ならではのフォークロワとの近さ、だからこその人懐っこさ、素朴さを丁寧にすくい上げて、素敵。かと思うと、イエス降誕の預言がなされるフィナーレ、そこで歌われる賛歌(track.34)は、教会の鐘を背景に静謐さを響かせて、クリスマスの神秘を厳かに演出。典礼劇としての魅力も瑞々しく繰り出される。
一方、そうした歌声に彩りを添える、器楽アンサンブルの鮮やかさがとても印象的。プリミティヴだけれど、ひとつひとつが、思いの外、美しく響く中世の楽器... 古楽器の「古(イニシエ)」を強調することなく、中世という時代に立ち帰って、そこに響いたであろうヴィヴィットなサウンドを引き出すデュファイ・コレクティヴ。創設20周年を昨年迎えた中世音楽専門集団の、ベテランならではの「古」の楽器を知り尽くしたところから発せられる、時に大胆な洗練を感じさせる表現は、ニュー・エイジを思わせるところすらあって、そうしたサウンドが中世のキャッチーなメロディーを捉えれば、まるでアヴァン・ポップのようにも響き出す。古いのに、新しい... この不思議な感触!中世の典礼劇を活き活きと現代に蘇らせて、21世紀を魅了してしまうから凄い。で、それを可能としている、中世の、西洋音楽の形が定まる前の自由さ... デュファイ・コレクティヴの『ダニエル劇』を聴いていると、写本に残された単旋律の可能性は無限に思えて来る。

LUDUS DANIELIS The play of Daniel THE DUFAY COLLECTIVE

典礼劇 『ダニエル劇』

ダニエル : ジョン・ポッター(テノール)
ダリウス : ハーヴェイ・ブラフ(バリトン)
ベルシャザール : サイモン・グラント(バス)
王妃 : ヴィヴィアン・エリス(ソプラノ)
天使/プロローグ : クララ・サナブラス(ソプラノ)
貴族/太守/助言者 : トム・フィリップス(テノール)
貴族/太守/助言者 : サイモン・ウォール(テノール)
貴族/マギ/使者 : チャールズ・ポット(バリトン)
貴族/マギ/使者 : ロバート・ライス(バリトン)
ハバクク : ジャイルス・ルーウィン(テノール)
サウスウェル・ミンスター合唱団のメンバー
ウィリアム・ライオンズ/デュファィ・コレクティヴ

harmonia mundi/HMU 907479




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