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ブラームスの青春の記録... ピアノ四重奏曲... [2008]

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実は、ブラームスが苦手... 何と言うか、如何にもクラシックって感じで...
けど、ブラームスは、如何にもクラシックなのである。この人こそ、ミスター・クラシック!というのは... クラシックの核となる19世紀の作曲家で、ドイツ・ロマン主義の巨匠たちが出揃った後に満を持して登場。その姿勢はアカデミックで、常に古典を意識し、古典の継承者であることも自負しており、ロマン主義という19世紀を象徴するモードに染まり切ってしまうことなく、自らの音楽(古典とロマンの良いとこ取り!)を確立。一方で、フォークロワに関心を示し、国民楽派に先鞭を付け、その後の世代に大きな影響を与えた。つまり、ブラームスは、古い音楽(長い時間を経て至った18世紀の音楽... )と、新しい音楽(古典に対する革新として登場した若い潮流、ロマン主義... )の集大成であり、その先の音楽(19世紀後半をリードするローカリゼーション、国民楽派... )へと至る、結節点となる。まさに、ミスター・クラシック!よって、如何にもクラシックなのである。
そんなブラームスを、素直に聴いてみる。いや、素直に聴きたくなるアルバムに出会う。ヴァイオリンのルノー、チェロのゴーティエの、カピュソン兄弟を軸に、ジェラール・コセ(ヴィオラ)、ニコラス・アンジェリック(ピアノ)が加わっての、ブラームスのピアノ四重奏曲全曲集(Virgin CLASSICS/519310 2)。フランスの弦と、フランス仕込みピアノによる、新鮮なブラームス。

ブラームスには、3つのピアノ四重奏曲がある。どの作品も、20代の初めに作曲を始め、20代の終わりには完成させている。つまり、ブラームスにとってのピアノ四重奏曲は、青春を記録したアルバム?ミスター・クラシックには、巨匠然とした老大家のイメージが強いのだけれど、ここでは鮮烈なロマン主義が繰り広げられていて、何だか新鮮... そんな3つのピアノ四重奏曲で、興味深いのが、最初に書き始められた3番(disc.1, track.5-8)。楽譜が出版(1785)される際に、ブラームスの師、シューマン、その妻、クララへの密かな恋を、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』に重ねて、作曲者自身がほのめかしたことから、「ウェルテル四重奏曲」と呼ばれるのだけれど... いや、ブラームスにも、若く悩める頃があったわけだ。そんな記憶を留めながら、この作品は、長い時間、寝かされ(その間、1番、2番が作曲され、先に世に出たため、この作品が3番となった... )、改訂を経て、作曲家が40代となってから出版される。若さが迸るドラマティックな前半(disc.1, track.5, 6)に対し、改訂によるものだろう、より丁寧に紡がれる後半(disc.1, track.7, 8)では、若さが思い出の内に昇華されており、前半から後半へ、ひとつの作品の中に、時間の経過=成熟が聴き取れて、それがまたストーリーに感じられて、魅力的。
一方、1番(disc.1, track.1-4)と、2番(disc.2)では、粗削りの若さというのか、より直截的に音楽が繰り出され、まさにロマン主義!古典美を兼ね備え、アカデミックにしっかりと構築して来るのがブラームスの音楽の特徴だけれど、そういうものなしに奏でられる向こう見ずさは、思い掛けなく、爽快!シンプルに、エモーショナルに、だからこそ訴え掛けて来る音楽の雄弁さ!それは、どこかクラシック離れしたセンスも漂わせ、何か映画音楽でも聴くような鮮烈さもあるのか。ミスター・クラシックが、ミスター・クラシックとなる前の、興味深い柔軟性を見出し、刺激的。で、そうしたあたりを見抜いていたのが、1番にカラフルなオーケストレーションを施したシェーンベルクか... 20世紀の革命児の食指を動かすほどの可能性が、若きブラームスにはあるのかも... しかし、シェーンベルクに限らず魅了されずにいられない音楽!難しく考えることなく、内に溢れる楽想をそのまま書き綴ったような、瑞々しさと勢いは、若い芸術家の特権だなと。またそうした中に、希代のメロディー・メイカーでもあるブラームスの特性を見出し... 晩年には立派な展開によって、すばらしいテーマも気難しく感じてしまうわけだけれど、このピアノ四重奏曲では、存分にメロディーそのものを味わえる!才気溢れる1番(disc.1, track.1-4)、素直さから穏やかな音楽を紡ぎ出す2番(disc.2)、そこから流れて来るキャッチーなメロディーに、惹き込まれる。
そんなブラームスのピアノ四重奏曲を聴かせてくれるのが、Virgin CLASSICSの看板息子たち、カピュソン兄弟、ヴィオラのベテラン、コセ、独特な存在感を見せるピアニスト、アンジェリック... 実に多彩な面々が揃ってのピアノ四重奏は、思いの外、4人の性格が機能し、補い合い、相乗効果を生んで、豊かな音楽が広がる!カピュソン兄弟のスター性が生む花やぎ、コセのベテランならではの風合い、それらをきっちりとまとめて来るアンジェリックの手堅さ... そうして、しっかりと歌い、ブラームスのピアノ四重奏曲の核となる若さを、瑞々しく、率直に響かせ、際立たせる。常設のアンサンブルが聴かせる親密さこそ、薄くなる部分はあるものの、かえってこなれていないことが、作品のフレッシュさを引き立ててもいて、印象的。何より、そのフレッシュさが魅力的!そのフレッシュさに、ミスター・クラシックのイメージも変わりそう。いや、ブラームスの若かった頃を見つめる、絶好の機会を与えてくれた、すばらしいピアノ四重奏曲全集だった。

BRAHMS: PIANO QUARTETS 1-3 R. & G. CAPUÇON - ANGELICH - CAUSSÉ

ブラームス : ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25
ブラームス : ピアノ四重奏曲 第3番 ハ短調 Op.60
ブラームス : ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調 Op.26

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)
ジェラール・コセ(ヴィオラ)
ゴーティエ・カピュソン(チェロ)
ニコラス・アンジェリック(ピアノ)

Virgin CLASSICS/519310 2




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