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Hommage à BACH ? [2008]

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シューマンを弾きながら、バッハにオマージュを捧げる。こういう手の凝ったことをするのは、シュタイアーくらいなものだろう。もちろん、フォルテピアノで... というのは、鬼才、鍵盤楽器奏者、アンドレアス・シュタイアーがシューマンを弾く最新盤、"Hommage à BACH"(harmonia mundi/HMC 901989)。
しばらくチェンバロ・シフトだったものだから、ソロでピアノを弾くアルバムは久々。そして、とうとうシューマンを弾く(コンチェルト、歌曲はすでに弾いている... )わけで。シューベルトのソナタで、すばらしい演奏を聴かせてくれていたシュタイアーが、さらにさらにロマン主義へと踏み込むと、どんな響きが広がるのか?今や"ピリオド"の世界は、フランス印象主義や、ラフマニノフ、マーラーまでをその範疇にしつつある中で、フォルテピアノで聴くシューマンというのは、意外にも珍しいのかも... というところで、シュタイアーによるフォルテピアノでのシューマンには、大いに興味を掻き立てられる。

はずだったが、1曲目、『こどものためのアルバム』 からの4番、「コラール」が流れ出せば、そのシンプルな音楽に、ただただ癒されてしまう。"クラシック"を安易に「癒し」と捉える風潮、もの凄く抵抗を感じつつも、こういうサウンドに出会ってしまうと、その「癒し」に、抗し難いものを感じて。シューマンって、こんなにも優しい音楽を紡ぎ出すの?!と、変に驚いてみたり。フォルテピアノのならではの、やわらかで温かみに溢れる響きと、その特性を知り尽くしたシュタイアーだからこそ醸されてくるシューマン... アルバムの始まりに弾かれる、『こどものためのアルバム』からの8曲は、まさに、「こどものための... 」。ただただ邪気の無い、作為の無いピュアな音楽に、心打たれるばかり。

さて、"Hommage à BACH"という視点なのだが...
バッハの影響を強く受けたシューマンの音楽、ということで、シューマンの中のバッハが、巧みに掬い上げられ、シュタイアーならではの凝った趣向が、すばらしいスパイスとなって効いてくる。残響の抑えられた1837年製、エラールのピアノのトーンと、時折、チェンバロを弾くような感覚も漂わせるシュタイアーのタッチが、シューマンが自らに編み込んだ、バッハの形を捉えて。いつもだったら気にしないであろう、シューマンによる"Hommage à BACH"という視点が、さり気なく見え隠れするあたりのセンスは絶妙。また、『森の情景』を挿んで演奏される、フゲッタ形式の7つのピアノ曲(track.13-15/25-28)など、よりわかり易い形での"バッハ風"もあり。そこでは、シューマンが、またよくパッハを咀嚼していて、多少あるのかバッハの灰汁のようなものを抜いて、"バッハ風"を爽やかに響かせてくるのがおもしろい。

それにしても、シュタイアーによるフォルテピアノでのシューマン。やはり、ただならないものがある。例えば「トロイメライ」(track.35)... ステレオタイプにどうしようもなく汚されていたその姿を洗い流せば、驚くほど清新な姿が現れて、勿体ぶった甘さを断ち切ったシュタイアーの演奏には、真の意味での「ロマン主義」(ドロドロと煮詰まっていく前の、ロマン主義の「青春」の時代の... )とでも言うのか、人生における"甘さ"と"酸っぱさ"の、ない交ぜとなった様が描かれるようで、過剰なロマンちっくなムード・ミュージックの様相はまったくない。かと言って、そうしたステレオタイプを打ち壊していくことに、恣意的なものは一切なく、全てがナチュラルに、それでいて何気なく綴られてしまうあたりが、シュタイアーの魔法か。
そうして捉え直されていく『森の情景』や、「トロイメライ」だけでない『こどもの情景』の聴き馴染んだメロディも、どれもがいつもより愛らしく、初々しく、淡くキラキラしていて。どこか懐かしさすら漂い、なんとも心地よく。聴いていると心優しくなれてしまいそうな、そんな気分が充ちている。

SCHUMANN Hommage à BACH ANDREAS STAIER

シューマン : 『こどものためのアルバム』 Op.68 から
   第4番 「コラール」/第14番 「小練習曲」/第27番 「カノン風な歌」/第28番 「追憶」/第23番 「曲馬」/
   第30番 「無題」/第34番 「テーマ」/第42番 「装飾されたコラール」
シューマン : 4つのピアノ曲 Op.32
シューマン : フゲッタ形式の7つのピアノ曲 Op.126
シューマン : 『森の情景』 Op.82
シューマン : 『こどもの情景』 Op.15

アンドレアス・シュタイアー(ピアノ : 1837年製、エラール)

harmonia mundi/HMC 901989

"Hommage à BACH"、シュタイアーによるフォルテピアノでのシューマン... これを聴いていると、もっともっと、いろいろ聴いてみたくなってしまう。例えば、バッハそのものを、フォルテピアノで弾いたならばどうなるのだろう?かつてシューマンが弾いていたであろうように。あるいは、シューマンばかりでなく、時代をさらにさらに下って、シュタイアーがドビュッシーなんかを弾いたら、どんな風に響くのだろう?
このアルバムを聴いていると、いろいろ、想像してしまう。
それにしても凝っている... さすがはシュタイアーだ。で、忘れてならないのがジャケット!使われている紙が違う。古き良きロマン主義の時代をイメージさせる手触り?とでも言うのか... 凄い。




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