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ブルックナー、プリズム、ヤングの場合、パーヴォの場合、 [2008]

シューマンブラームスを聴いて、ブルックナーを聴いてみる。
今、改めて、ドイツ・ロマン主義の系譜を追ってみると、普段、当たり前のように認識している「ロマン主義」というイメージが、もの凄く狭く感じられる。クラシックというジャンルにおいて、圧倒的な存在感を誇るドイツ・ロマン主義... その圧倒的なあたりに囚われて、どうも大きな視野を持ち得ていないのかも... そんなことをふと思う。典型的にロマンティックだけれど、ロマン主義の先にあるものが呼び起こされるようなシューマン。ロマン主義に古典主義をリヴァイヴァルさせたブラームス。ワン・パターンに陥ることなく、見事なほどの成長を見せ、驚くほどヴァラエティに富んでいるのがドイツ・ロマン主義の凄いところのように思う。そして、ブルックナー... それはロマン主義なのだろうか?いや、誰よりもロマンを感じさせるサウンドだけれど... この人の存在は、極めて正統的なドイツ・ロマン主義において、どこか逸脱するようであり、慣れないところも...
そんなブルックナーと改めて向き合う。シモーネ・ヤング率いるハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の、初稿にこだわったブルックナーのツィクルスから、4番、「ロマンティック」(OEHMS CLASSICS/OC 629)、パーヴォ・ヤルヴィ率いるhr交響楽団の、新たなブルックナーのツィクルス、第1弾、7番の交響曲(RCA RED SEAL/88697389972)を聴く。


大地母神?ヤング... 武骨をしっかり捉えて、神気を漂わせる、4番。

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ブルックナーの音楽の慣れないところは、武骨なところ。場合よっては、その武骨さが、非音楽的にすら感じられることもあって... ドイツ・ロマン主義の初期に目を向けると、民謡を取り込んで、それまでの古典主義にはあり得ないようなキャッチーさを生み出すのだけれど、ブルックナーはキャッチーだろうか?その交響曲を織り成す旋律は多分にキャッチーではある。が、それらはあくまでパーツであって、全体としては、やっぱり取っ付き難い... そこに、ヤング+ハンブルク・フィルによるブルックナーのツィクルス。女性の指揮者がブルックナー?!なんて驚くのは、21世紀を生きる者として、ダメなのかも... しかし、マチズモ渦巻くブルックナーの世界、やっぱり驚かされる。が、そういう中へと飛び込むヤングだけに、中途半端さがない。というより、これまでのどの指揮者よりも、強い覚悟で以ってブルックナーの交響曲と向き合っているように感じられるヤング+ハンブルク・フィルの演奏。そういう姿勢を解り易く表しているのが、初稿の採用か... ブルックナー自身も、自らの音楽性を信じ、真っ向勝負に出た、そういう勢いを感じるヴァージョン... 「ロマンティック」というタイトルの通り、ブルックナーにして、どこか聴き易さを感じていた4番だけれど、初稿はどことなしにプリミティヴ。「ロマンティック」なんて悠長なことを言ってはいられないパワーが掘り起こされ、刺激的。特に3楽章(track.3)などは、何だか笑ってしまうほど、違う曲... で、もの凄く新鮮!素材が活きている荒々しさというか、時にそれは錯綜すらしている印象を受けるのだけれど、そういう部分にこそ力強さが生まれ、聴く者の予定調和を掻き乱し、圧倒して来る。すると、生のブルックナーに触れられたような、そんな感覚もあるのかも... そして、その感覚に魅了される... 強く惹き付けられてしまう...
ブルックナーの武骨さを、しっかり捉えるヤング。そうして、思いの外、大きな音楽を響かせて、彼女の広げたスケールに呑み込まれてしまう。呑み込まれてしまうと、ブルックナーの音楽に慣れない... なんてことを忘れてしまう。いや、ヤングのブルックナーは、ナチュラルなのだと思う。隅々まで鳴らし切りながら、ブルックナー特有の武骨さがぶつかって来ない。ブルックナーの構築的な音楽を、魔法を掛けるようにオーガニックなものに変換し、大地が鳴動するような交響楽を展開する。それは、大地母神によるブルックナー?解り易い女性らしさではなく、根源的な女性らしさへと降りて放たれる音楽の驚くべき説得力!そういう音楽を前に、安っぽいマチズモなどは雲散し、これまでの殻を破って、秘めていた神気を漂わせるかのよう... いや、何て深く、何と神々しいのだろう。何だか、音楽であることを忘れてしまうくらいに...

Anton Bruckner: Symphony No. 4
Simone Young ・ Philharmoniker Hamburg


ブルックナー : 交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 〔1874年、第1稿〕

シモーネ・ヤング/ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団

OEHMS CLASSICS/OC 629




ステレオタイプを外れて、パーヴォ... ファンタジーに充ち満ちた、7番!

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パーヴォが紡ぎ出す音楽というのは、独特... 何か、肩透かしに遭うようなところもあって、その第一印象に、戸惑うことすらある。が、そんなパーヴォと呼吸を合わせてみると、一気に視界は広がり、これまで聴き馴染んだものとは一味違う、クリアで、しなやかな音楽世界が拓け、驚かされ、深く、深く、感動することになる。そして、今、新たなツィクルスが始動する。パーヴォ+hr響による、ブルックナー、その第1弾、7番... あの印象的な1楽章の出だし、原始霧から流れ出すロマンティックなメロディー!もうね、溜息しか出ません。で、溜息をついていると、時が引き延ばされてゆくような感覚があって、美しい瞬間は止まり、残響に包まれ、音響の中をたゆたうような... パーヴォによる、ゆっくりとしたペースが、ブルックナーのサウンドを裏漉ししたように滑らかにし、思いもよらない広がりを見せ始める。そんな、アレグロ・モデラートであることを忘れさせる1楽章から、2楽章、アダージョ(track.2)へ... 繊細で、柔らかい響きが続き、ブルックナーのロマンティックな部分、その情緒的なものをより響かせて、オーケストラは歌い、時折、甘い匂いすら漂わせ、その芳しさに酔わされる。そして、感動が溢れ出す。
一転、3楽章、スケルツォ(track.3)は、軽快!軽やかにリズムが爆ぜて、楽しげな気分に包まれる。ある意味、ブルックナーらしさが炸裂するスケルツォだと感じて来たのだけれど、そういう部分を強調しないパーヴォ... パーヴォらしく、ステレオタイプをひょいと外れて、飄々と「スケルツォ」というダンスを踊るかのよう。そこに、ふわぁーっと光が差す4楽章(track.4)!輝かしい音楽を、勿体ぶって壮麗に響かせるのではなく、もっと素直にキラキラとさせて、朗らかな明るさで充たし... 「ブルックナー」というと、構築的で、やっぱりマッチョで、それこそが魅力でもあるのだけれど、パーヴォのブルックナーは、とにかくナチュラル。ナチュラルであることで、音を澄ませ、澄んだ音を流るるままに流し、大きな音楽を創り出す。すると、「ブルックナー」以上のイメージが喚起されるのか、より豊かな表情が掘り起こされて... おもしろいのは、そこにワーグナーの楽劇を見出すこと...
もちろん、ワーグナーにインスパイアされたブルックナーならではのものだけど、もっとダイレクトにワーグナーの楽劇の世界へと迷い込むような感覚があり、今にも歌手が歌い出しそうな、そんな劇的な緊張感すら感じられるところも... 交響曲というより、ドラマを感じてしまうパーヴォのブルックナー... 何だろう、この7番にはファンタジーが充ち満ちている!1楽章からスーっと見えない物語に導かれ、惹き込まれ、終楽章へと至る頃には、ワクワクしている。この不思議さ!何て魅惑的なのだろう。

PAAVO JÄRVI | BRUCKNER SINFONIE NR. 7

ブルックナー : 交響曲 第7番 ホ長調 〔ノヴァーク版〕

パーヴォ・ヤルヴィ/hr交響楽団

RCA RED SEAL/88697389972




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