初期？ヴィヴァルディ。

また、ヴィヴァルディなのだが... それも、ヘンデル、ファッシュと続いてくれば、多少、「バロック」に、飽きも来るかと... 思いきや、いやいや、おもしろい！というのは、フロリアン・ドイター(ヴァイオリン)率いるピリオド・アンサンブル、アルモニー・ウニヴェルセルの、ヴィヴァルディ、初期ヴァイオリン協奏曲集(ELOQUENTIA／EL 0815)。まず、夜のヴェネツィア、裏路地ならぬ、裏運河のうらぶれたというか、静かな表情を捉えたジャケットに惹かれ... ヴィヴィットなサウンドを誇るヴィヴァルディのアルバムに、こういうジャケットとは印象的。アート・ディレクションにも並々ならぬ力を入れてくるレーベル、ELOQUENTIAならではのセンスで、おもしろいものを見せてくれる。が、本題はその中身。
ヴィヴァルディ、初期ヴァイオリン協奏曲集？初期？

"初期"と聞いて、まったくピンとこない。ヴィヴァルディは間違いなく大好き... けど、その膨大なコンチェルトに対して、これまで"初期"などと、時系列で捉える感覚が無かったせいか、"初期"の言葉に驚いてみたり。何気なくヴィヴァルディを聴いていると、どれも同じに聴こえてしまう。とは先日も書いたが、それは、けしてつまらないという意味ではなく。どれが先で、どれが後に来るかなど意識することなく聴けてしまうのが、"ヴィヴァルディ・サウンド"。どれを聴いても、紛うことなき「ヴィヴァルディ」だから。が、これまであまりクローズアップされてこなかった、ヴィヴァルディにおける"初期"という言葉に、にわかに、この作曲家の変遷について、興味を持ってみたり。となると、ドイター+アルモニー・ウニヴェルセルによる初期ヴァイオリン協奏曲集は、かなり革新的なのかもしれない。
"初期"ヴァイオリン協奏曲を、丁寧に12曲拾い集めて、2枚組にまとめて。その内、9曲が世界初録音というから、まさに知られざるヴィヴァルディということになる。で、気になる"初期"のサウンドなのだが、その時代のバロックの空気感の中を漂いつつ、"ヴィヴァルディ・サウンド"を探し求めるようなところがあって、いつものヴィヴァルディとは雰囲気が少し違い、どこか初々しさがある。かと言って、習作的な感覚はまったくなく、作品のクウォリティはすでに十分。そこに、ヴィヴァルディにして、ヴィヴァルディに成りきらないあたりが新鮮でもあったり。もちろん、"初期"にして、しっかりと"ヴィヴァルディ・サウンド"を聴かせてくれるものもあり、予想以上に2枚組、フルに楽しませてくれる。
また、ドイター+アルモニー・ウニヴェルセルの演奏がすばらしく。ドイター(ヴァイオリン)のソロはもちろん、アンサンブルの一人一人が実に上手い... 癖なく、素直に音楽と向き合い、かつ完璧に弾きこなして、"初期"の作品群に丁寧にアプローチしてくる彼らの演奏は、十分にアグレッシヴでありながら、洗練されたハーモニーを響かせる。そこに、のびのびと、それでいて美麗であることを忘れないドイターのソロが加われば、ヴィヴァルディの"初期"は、さわやかな輝きに充たされ、聴き入るばかり...
非イタリアのピリオド・アンサンブルによるヴィヴァルディは、いい具合にヴィヴァルディの「濃さ」から距離を保っていて、その冷静な視点から"初期"を見つめることで、ヴィヴァルディ自体が、より魅力的に聴こえてくるよう。そんな新しい視点は、間違いなくクール！

VIVALDI　Concerti per violino

■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 RV Anh. 10
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 RV 381
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 RV 220
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ヘ長調 RV 291
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 RV 175 (Anh. 104)
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV 355 (Anh. 107)
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 イ長調 RV 338 (Anh. 65)
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 RV 274 (Anh. 106)
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 RV 176
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 RV 275
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 RV 377
■ ヴィヴァルディ : ヴァイオリン協奏曲 ヘ長調 RV Anh. 130

フロリアン・ドイター(ヴァイオリン)／アルモニー・ウニヴェルセル

ELOQUENTIA／EL 0815

タグ：バロック ヴィヴァルディ 協奏曲 ヴァイオリン ピリオド 18世紀