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バロック的宮廷のギャラントな集い。 [2008]

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バロック的野外フェスな楽しみ... の次は、バロック的宮廷の集い?
ということで、ヘンデルと同時にリリースされた、ゼフィロによるファッシュ(deutsche harmonia mundi/88697367922)のアルバムも聴いてみることに。それにしても、野外録音(ヘンデル)の後に、屋内で録音されたゼフィロの演奏を聴くと、その演奏、変に力が入ることなく、無理なくスムーズ。チャレンジングな野外録音は、それはそれで、おもしろい。けれど、全てがクリアに、録りこぼしなく収録されて初めて、彼らの真のすばらしさに触れられる思いも。
さて、そのアルバムだが、ヘンデル同様、"ゼフィロ・バロック・オーケストラ"名義で、ゼフィロの主要メンバーをソリストに、ファッシュ親子の管楽器が活躍するコンチェルトを取り上げる。ソリストたちの妙技はもちろん、弦楽セクションのすばらしいサポートもあって、ファッシュ親子の音楽が、予想以上に魅力的に響き出し、ちょっと、驚かされる。

近頃、急速にその認知が広まりつつある、もう一人のドイツ・バロックの巨匠、ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ(1688-1758)。だが、ゼフィロは、その息子、カール・フリードリヒ・クリスティアン・ファシュ(1736-1800)まで取り上げて、実に興味深い。
まずは、そのカール・フリードリヒ・クリスティアン...
ハイドンの三つ年下で、バッハ家の末息子、ヨハン・クリスティアンの一つ下... といった世代。そして、バッハ家の二男、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)の後任として、フリードリヒ大王付きのチェンバリストを務めた人物とのこと。収録されている、トランペット、ヴァイオリン、オーボエ・ダモーレと通奏低音のための協奏曲(track.16-18)は、まさにカール・フィリップ・エマヌエル風。けれど、カール・フィリップ・エマヌエルに比べると、その響きは色彩に富み、よりギャラント。一方で、多感主義のコントラストのきつさは少しソフトになって、より華やか。ロココの、ふんわりとした、趣味のいいフリードリヒ大王の宮廷?を思わせる音楽。いや、かなり魅力的。また、トランペット、ヴァイオリン、オーボエ・ダモーレという、特殊な取り合わせを、ゼフィロの面々のすばらしい演奏で聴くと、さらに魅力的で。カッソーネのトランペット、ベルナルディーニのオーボエ・ダモーレが、クリアに、それでいてソフトに歌い上げ、独特のトーンを編み出す。そこに、スパダノのヴァイオリンがそっと寄り添って、幸福感に充ちた、不思議なハーモニーを聴かせてくる。バロックから古典派の、微妙な中間地点を、少しも濁らさずに、鮮やかに切り取ってくるソリストたちの演奏は、発見も多い。
という具合に、このファッシュ親子のアルバム、ゼフィロのソリストたちの妙技は、とにかく冴える渡る。特に印象的なのが、カッソーネ。1曲目、父ファッシュのトランペットの協奏曲(track.1-3)で聴かせる、まったく揺るぎない完璧さ。その中に、なんとも言えないやわらかさをほどこして、どこか天国的ですらあって、息を呑む。彼のトランペットを聴いているだけで、幸せな気分になってしまいそう。さらに、2曲目、ファゴットの協奏曲(track.4-6)のアルベルト・グラッツィ... 3曲目、オーボエの協奏曲(track.7-9)のパオロ・グラッツィ... このグラッツィ兄弟の演奏も的確で、それでいて何とも言えない味わいがあって、聴き入るばかり。
こうしたソリストたちを支えるゼフィロ・バロック・オーケストラの演奏も、またすばらしく。弦楽セクションの、清々しさに、ふわっとしたやわらかさも聴かせて、ソリストたちを絶妙にサポートしてくるあたりは、これまでのイタリアのピリオド・アンサンブルとは一味違い、極めてナチュラル。管楽器アンサンブルが基盤となるゼフィロ・バロック・オーケストラの性質からか、弦楽セクションのイメージも、どこか管楽器的なものがあって... 音楽そのものに、息を吹き込むような、ふんわりと響かせてくるあたりが、たまらなく心地よい。
そうしたゼフィロ・バロック・オーケストラの魅力は、父ファッシュの音楽でより活きて。ステレオ・タイプに陥りそうなドイツ・バロックのサウンドに、やわらかな色をいろいろ乗せ、ドイツ・バロックのストイックなイメージに、春の花々を咲かせるよう(まさに春を告げる西風=ゼフュロスか... )。また、4曲目の序曲(track.10-15)では、父ファッシュの音楽に、バロックからギャラントな気分に近づくようなところもあって、興味深く。そんな、ふんわり膨らんだ父ファッシュの音楽を聴き、その三つ年上、大バッハの組曲やコンチェルトを思い返すと、えらく渋く思えてくるから、おもしろい。

FASCH ・ CONCERTI & OUVERTURE ZEFIRO ・ CASSONE ・ SPADANO ・ GRAZZI ・ BERNARDINI

ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ : トランペット、2つのオーボエ、ファゴット、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ニ長調 *
ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ : ファゴット、2つのオーボエ、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ハ短調 *
ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ : オーボエ、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ト短調 *
ヨハン・フリードリヒ・ファッシュ : トランペット、2つのオーボエ、ファゴット、弦楽と通奏低音のための序曲 ニ長調
カール・フリードリヒ・クリスティアン・ファッシュ :
   トランペット、ヴァイオリン、オーボエ・ダ・モーレ、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ホ長調 ***

ガブリエーレ・カッソーネ(トランペット) *
アルベルト・グラッツィ(ファゴット) *
パオロ・グラッツィ(オーボエ) *
マッシモ・スパダノ(ヴァイオリン) *
アルフレード・ベルナルディーニ(オーボエ・ダモーレ) *

アルアレード・ベルナルディーニ/ゼフィロ・バロック・オーケストラ

deutsche harmonia mundi/88697367922


大バッハが活躍した商業都市、ライプツィヒと、父ファッシュの仕えたツェルプストの宮廷は、そう離れていないはずだが、印象は変わる。バロックの全体を見渡した時、大バッハの特殊性は顕著だが、父ファッシュの音楽を知れば、その特殊性に、地方性が多分に含まれていることも見えてくる。ドイツ・バロックの地方性。しかし、ゼフィロによる父ファッシュのサウンドは、そういう枠組みを越えて、耳当たりが良く、より心地よく聴けるのが興味深い。が、もし、ゼフィロがバッハを演奏したならば?そんな興味も、ふつふつと湧いてくる。




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