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花咲ける、ルクレール!南北、新旧を結んで... [2008]

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イタリア・バロックのヴァイオリンの名手に続いての、フランス・バロックのヴァイオリンの名手... タルティーニ(1692-1770)の5つ年下になる、ルクレール(1697-1764)を聴いてみようと思うのだけれど、バロックの、同世代の、2人のヴァイオリニストによる音楽となると、似通ったものになる?いやいやいや、タルティーニの後で聴く、ルクレールの音楽は、その新鮮さが際立っていて... 前回、聴いた、タルティーニが、アルカイックさを強調した演奏であったこともあるのだろうけれど、ちょっと同時代の音楽には思えないくらい。イタリアとフランスの違い、バロックの幅に、今さらながら驚かされる。定番のバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディから、ちょっと視線を外すだけで、こうも広がりを感じることができるバロックの本当の魅力にワクワクしてみる!
ということで、もの凄く気になっているピリオド・アンサンブル、アルモニー・ウニヴェルセルから、フロリアン・ドイターとモニカ・ワイスマンのヴァイオリンで、ルクレールの2つのヴァイオリンのためのソナタ集、Op.3(ELOQUENTIA/EL 0711)を聴く。

ジャン・マリ・ルクレール(1697-1764)。
フランス、リヨンで生まれたルクレールの経歴が、なかなかおもしろい。ヴァイオリンはもちろん、舞踏、レース編み(商工業が盛んだったリヨンは、レースの産地で、父がレース職人だったとのこと... )の技術まで取得していたというから、マルチ... いや、器用だったのだろう。で、舞踏に関しては、リヨンのオペラで踊っていたという記録もあり、19歳の時には、その同僚ダンサーと結婚している。そんなルクレールの作曲家として仕事が残る最も古い例が、1721年のイタリアとフランスの作曲家によるヴァイオリン・ソナタを集めた手稿譜... この手稿譜は、パリで制作されていることから、当時、すでに、パリに出ていたことが予想される。その後、トリノの宮廷で舞踏教師などをして活動した後、1723年、パリへ... Op.1のヴァイオリン・ソナタ集が出版され、評判を呼び、やがてパリを代表するオーケストラ、コンセール・スピリチュエルのコンサートにもデビュー(1728)を果たし、1733年には、ルイ15世に仕え、ヴェルサイユでも活躍。が、ライヴァル、ギニョンとオーケストラの監督権を巡り争い、結局、1737年に宮廷を辞し、オランダ総督、オラニエ家の宮廷から招かれ、ハーグへと移る。しばらく、オランダで活躍した後、1743年、パリへと戻ると、オペラに挑戦したり、精力的に活動。1748年には、グラモン公の楽団の音楽監督に就任。が、1758年頃、2度目の妻(1730年、最初の妻に先立たれ後、彫版師のルイーズ・ルセルと再婚... )と離婚。これを切っ掛けにその人生は暗転、1764年、離婚を機に移った治安の悪い地区の自宅で他殺体として発見される。元妻、甥らに容疑が掛けられるも犯人は捕まらず、事件は未解決のまま迷宮入りとなる。
なんて最期をクローズアップしてしまうと、暗くなってしまうのだけれど、ここで聴く2つのヴァイオリンのためのソナタ集は、春を思わせる朗らかさに包まれて、厳めしいリュリの時代が完全に過去となったフランス・バロックの明朗さを存分に味わえる!で、気になるのは、"2つの"ヴァイオリンのためのソナタであること... ルクレールは、1729年に、ドイツ、ヘッセン・カッセル方伯の宮廷に立ち寄り、ロカテッリ(1695-1764)と競演しているのだけれど、フランスのヴィルトゥオーゾと、イタリアのヴィルトゥオーゾの対決は、その個性がぶつかり合い、天使のようなルクレールに対して、悪魔のようなロカテッリと評され、その対決自体がエンターテイメントとなって大いに評判を呼んだ。となると、2人は、一時期、ユニットを組んでいた?そんな、ルクレールが、パリに戻って間もなく、1730年に出版されたのが、この"2つの"ヴァイオリンのためのソナタ。ロカテッリとの共演の経験が、"2つの"に活きているように感じられて... 活き活きと綾なす2つのヴァイオリンから繰り出される音楽の豊かな表情に惹き込まれる... かと思うと、フランスらしい明朗さ、牧歌的な中に、時折、ドラマティックな楽想が現れ、ハっとさせられて、イタリアを思わせるところも多分にあって... 3番(track.7-9)などは、さらにロカッテリ調。で、2楽章(track.8)の、深く哀切漂う旋律などは、まさに!フランスの中にイタリアが現れ、ロココの気分にバロックの構築性がしっかりと存在し、南北、新旧、見事なバランスで、魅力的な音楽を奏でるそのセンス!かなり素敵です。
そんなルクレールの2つのヴァイオリンのためのソナタを聴かせてくれるのが、アルモニー・ウニヴェルセルの中核メンバー、フロリアン・ドイターとモニカ・ワイスマン。ピリオド・アプローチによる素直なサウンドが、瑞々しくルクレールの音を捉えて、そこに籠められた南北、新旧のセンスを丁寧に響かせ、魅了されずにいられない。何より、2人の息の合ったデュオ!2つのヴァイオリンが綾なして生まれる豊かな... まるで、弦楽オーケストラを聴くような音の広がりに驚かされる。それは、ちょっと不思議な感触... ふわっとしたやわらかさがありながら、構造をくっきりと浮かび上がらせて、そこはかとなしに雄弁に音楽を繰り出すからだろうか?けど、絶対に重くはならない。そよ風のように心地良く、全6曲を吹き抜ける。

LECLAIR 6 Sonatas for Two Violins, op. 3

ルクレール : 2つのヴァイオリンのためのソナタ集 Op.3

フロリアン・ドイター(ヴァイオリン)
モニカ・ワイスマン(ヴァイオリン)

ELOQUENTIA/EL 0711




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