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チープにも、リッチにも、 [2008]

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まず、ジャケットに目が引かれる。ミッド・センチュリーな雰囲気を放つ構図の中に3人の音楽家... 左から、ピエール・ブーレーズ、内田光子、クリスティアン・テツラフ... ヴィンテージ感を漂わせつつ、スタイリッシュに佇み、独特なのだけれど、この3人がこのアルバムで繰り広げる音楽がまた独特でおもしろい!
13の管楽器という編成がキーワードとなって、モーツァルトとベルクの作品を演奏する、実に興味深い1枚は、モーツァルトとベルクという組合せに、まず驚かされる。それから、ブーレーズがモーツァルトというのも、ちょっとびっくり。で、そのブーレーズの指揮で演奏する13の管楽器によるアンサンブルが、フランスの現代音楽のエキスパート集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランで... 近現代でないアンサンブル・アンテルコンタンポランというのもまたびっくり。一方、内田光子、テツラフを加えてのベルクは、ゴージャス!
という、ピエール・ブーレーズの指揮、アンサンブル・アンテルコンタンポランによる、モーツァルトの10番のセレナード「グラン・パルティータ」と、ベルクのピアノ、ヴァイオリン、13の管楽器のための室内協奏曲(DECCA/478 0316)という、刺激的な1枚を聴く。

18世紀モノは、ピリオドで... という癖が付いてしまって、「グラン・パルティータ」(track.1-7)を、モダンのアンサンブルで聴くことに、ちょっと抵抗感があるのかも。けれど、アンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏は、ノン・ヴィブラート?オリジナル主義寄りなのか?いや、現代音楽のエキスパート集団なればこその、アンチ・ロマンティック?なのだろう... さすがはブーレーズ、ロココの愉悦、云々、関係なく、ただ楽譜にあるだけの音を、淡々と吹かせて来る。こうなることは、何となく予測しつつも、少々、唐突なモーツァルトに、つんのめってしまうような思いに... 特に、モーツァルトの音楽の中でも、またさらに美しく、印象的な3楽章、アダージョ(track.3)は、鮮やかなほど素っ気ない。何しろ、特殊奏法だ、何だと、困難なミッションをこなす現代音楽のエキスパート集団だけに、素直そのものであるモーツァルトなどは朝飯前なのだろう。全ての音がかっちり、クリアに配置されて、自動演奏でも聴くかのように繰り広げられてしまう。けれど、そういうあたりがおもしろいのかもしれない。
終楽章(track.7)の、軽やかで、何となしにチープにも響くその音楽は、普段のモーツァルトとは一味違うお洒落さがあり、フレンチなイメージ?13の管(くだ)の生み出す正確なサウンドは、どこかバレル・オルガンを思わせるようで、そのあっけらかんとした屈託の無さ、快活さは、思い掛けなく魅力的。こういう面々で、モーツァルトを取り組むと、こうなりますかぁ。と、してやられた思いがする。正真正銘の古典派の音楽でありながら、"ゲンダイオンガク"というフライパンで、焦げない程度に転がして、さっぱりと水分を飛ばしてみれば、擬古典主義のように聴こえてしまうから、おもしろい。ブーレーズ+アンサンブル・アンテルコンタンポランのマジック!
そこから、ベルクの室内協奏曲(track.8-10)を聴いてみれば、いやぁー、何とロマンティックな!ロマン主義の崩れた先にあるはずの音楽が、こうも瑞々しく、いや、水も滴る... なんて言いたくなってしまう"良い"サウンドで。新ウィーン楽派、12音の世界に、匂い立つような気分を纏わせる。そして、バレル・オルガンの後に、こういうサウンドを持ってくるかと、膝を打ちつつ、酔わされてしまう。それは間違いなくベルクだし、12音なのかもしれないが、けして冷たい音楽になることなく、魅惑的であって。もちろん、そうした気分をサウンドに織り込んで来るのは、新ウィーン楽派に在ってベルクの特性でもあるけれど、それらは増幅されるようで、印象的。この作品の、ブーレーズの古い録音(30年前、バレンボイムのピアノ、ズーカーマンのヴァイオリンと、これもまたゴージャス!そして、13の管楽器は、やはりアンサンブル・アンテルコンタンポラン、創設、翌年の録音... )を引っ張り出して、聴き比べれば、やっぱり違う。ブーレーズの、新ウィーン楽派へのスタンスは変わったのか?このアルバムにあるのは、現代音楽としての生々しさではなく、音楽史に取り込まれた近代音楽のノスタルジック。
そうした中、特に印象に残るのが、内田光子のピアノ... 新ウィーン楽派だからと気負うことなく、真摯に音楽と向き合い、ナチュラルに響かせる。すると、ウィーン世紀末の残り香が、魅惑的に漂い、アンサンブル全体に、いい具合に湿り気を与える。そこに、テツラフのヴァイオリンが、艶やかに歌い。時に、ドビュッシーのような表情を見せ、時に、ジャジーにも響いて、不思議。いや、これこそ、20世紀の感覚であって、近代音楽ならではのものなのかも。時が経ち、ベルクの音楽も熟成されたのか、こういう風に、リッチに響くのは、21世紀だからこそなのかも... などと、いろいろと感じ入ってみる。

MOZART 13 BERG BOULEZ / TETZLAFF / UCHIDA

モーツァルト : セレナード 第10番 変ロ長調 K.361(370a) 「グラン・パルティータ」
ベルク : 室内協奏曲 〔ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための〕 *

ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
内田光子(ピアノ) *
クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン) *

DECCA/478 0316




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