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シェーンベルクの沸点前、沸点後。 [2008]

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シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」が、どうも苦手。ドビュッシーや、シベリウスのなら、好きなのだけれど。あのむせ返るような、ウルトラ・ロマンティシズムが、きつい。けして、難解な音楽(シェーンベルクにしては... )ではないのだけれど、あの濃密さが、全体像を捉えづらくするようで、かえってわかりにくく感じてしまうパラドックス。ま、リヒャルト・シュトラウスの交響詩に慣れるまで、少し時間を要したロートルな耳だけに、そう感じてしまうのかもしれない。が、一度、しっかり向き合って聴いてみたく...
そこに、NAXOSの、ロバート・クラフト・コレクション、シェーンベルクのラインから、交響詩「ペレアスとメリザンド」(NAXOS/8.557527)がリリースされ。早速、手に取って見る。

近代音楽のスペシャリスト、ロバート・クラフトによるシェーンベルクは、第8弾になるのか、ストラヴィンスキー同様、丁寧に作品を網羅してくれるのが、とてもありがたく... で、その第8弾は、クラフト指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、交響詩「ペレアスとメリザンド」と、アニヤ・シリヤ(ソプラノ)を迎えての、モノドラマ『期待』という組み合わせ。沸点に達しようとする"ロマンティシズム"と、そのロマンティシズムが沸騰し、気体となって形を失った"無調"の作品が並べられているあたり、なかなかおもしろく。
ということで、まずは苦手な「ペレアス... 」。
やはり、クラフトならではのトーンというものがあって、実に興味深く、何より、するするっと聴けてしまう。

シェーンベルク芸術の沸点間近の作品は、極めてロマンティックな音楽だが、すでにかなりの水蒸気を発していて、そのもくもくとした水蒸気に隠れて、全体像がよく見えないあたりがもどかしく、ロマンティックに身を任せてしまうと(そういう指揮者が一般的かもしれないが... )、ますます勢いよく煮えたぎって、ペレアスの物語なのか、なんなのか、まったくわからなくなってしまうような。大体、ペレアスは、ミステリアス(象徴主義)な物語で、ウルトラ・ロマンティシズムには向かない題材のようにも感じるのだが。あるいは、ドビュッシーの『ペレアス... 』のイメージが強過ぎるのか?
クラフト+フィルハーモニア管による「ペレアス... 」(track.1-8)では、作品の温度感を下げて、水蒸気を払って、改めて物語の流れをなぞっていくような感覚があって、その冷静沈着な音楽は、なかなか印象深い。クラフトならではの冷めた視点が、かえって物語を浮き彫りにし、シェーンベルクによって、ロマンティックに飾られた「ペレアス... 」ではあっても、元来の象徴主義の、ミステリアスさが、ちらりちらり薫ってくるところも。何より、ウルトラ・ロマンティシズムの過剰さに中てられることなく、物語を、音楽を、じっくり味わえるあたりがすばらしく。そうして聴こえてくるのは、ウィーンの気分(ゴージャスで、シュトラウスのオペレッタの系譜?そんなメロドラマちっくな... )だったりして、おもしろく。作品のイメージが変わるよう。
そして、シェーンベルクが独自の道へと踏み出した『期待』(track.8-11)。おもしろいのは、しっかりとウルトラ・ロマンティシズムを味わったからか、無調の世界に足を踏み入れると、妙な安堵感のようなものを感じてしまう(って、自身の感覚、相当、狂っているのか?)。クラフトによって描かれていく無調のオペラは、不思議な安定感があって、その佇まいは、ロマンティックな作品よりも、地に足が付いているかのよう。また、この稀有な指揮者の、冷めた温度感が、このオペラに付き物の、あからさまに強調される、表現主義的なあたりを抑えて、不可解なドラマを、ミステリアスに彩る。何より、伝説の大ベテラン、アニヤ・シリヤ(ソプラノ)というキャスティングが光って... この人の放つ、不思議な透明感、独特のフレッシュさ(そういう年齢ではないところが、凄い!)が、安易な表現主義に逃げ込まず、ドラマそのものの魅力を探らせて、新鮮。やはり、作品のイメージが変わるよう。
さらにおもしろいのは、クラフト+フィルハーモニア管の演奏を聴いていると、良くも悪くも存在する「シェーンベルクっぽさ」を薄めていくようで、普段、シェーンベルクを聴く感覚とは、少し違うよう。『期待』は、こんな感じだった?と、一瞬、考えてしまうほど。だったり。が、明らかに、おもしろくなっている。開けっ広げな表現主義ではないあたりが、不可解さに含みを持たせ、何か、デイヴィッド・リンチの映画でも見るような、スリリングさがクール。スタイリッシュな演出で、そんな舞台を見てみたくなってしまう... が、このオペラから、こういう雰囲気を漂わせるとは、やはり、クラフト、只者でない。

SCHOENBERG: Pelleas und Melisande ・ Erwartung

シェーンベルク : 交響詩 「ペレアスとメリザンド」 Op.5
シェーンベルク : モノドラマ 『期待』 Op.18 *

アニヤ・シリヤ(ソプラノ) *
ロバート・クラフト/フィルハーモニア管弦楽団

NAXOS/8.557527




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