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ソヴィエトの思い出に、 [2008]

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カバレフスキー、といえば、運動会の...
というのは、もういい加減、どうかと思いつつ、そんな風に書き出してしまう。
やっぱり、カバレフスキーといえば、例のギャロップ(組曲『道化師』の... )で。他にどのような作品があるのか、知る機会はなかなか少ない。
が、近頃、あちらこちらでカバレフスキーが、ちらりちらりと目に入ってくるようで、ギャロップばかりでなく、作曲家の全体像へと視野が広げられつつあるのか。ヴァイオリン協奏曲などは、なんとなく以前から耳にすることはできたように思うが、ストットによるピアノ協奏曲のシリーズ(CHANDOS/CHAN 10052, CHAN 10384)が話題を呼び、NAXOSからも3番のピアノ協奏曲と、ソヴィエト人、カバレフスキーならではのプロパガンダ(?)な作品を収録したアルバム(NAXOS/8.557794)がリリースされたばかり。そこに、cpoから、交響曲全集が登場。それも、大植英次による指揮と、演奏も大いに気になり...
大植英次と、彼が率いるNDR放送フィルハーモニー管弦楽団による、カバレフスキーの交響曲全集(cpo/999 833-2)を聴く。それにしても、cpoならではの取り合わせだなと、感心してみたり。

ドミートリイ・カバレフスキー(1904-87)。ソヴィエトを代表する作曲家... で、ショスタコーヴィチ(1906-75)と同世代になるわけだが、ショスタコーヴィチが常に"社会主義リアリズム"という名の検閲に苦悩してきたのに対し、カバレフスキーは、音楽における社会主義リアリズムの体現者か。一貫して体制側にあり、音楽史が最も劇的に進化(あるいは崩壊)した20世紀、そうした進化を拒絶し、全ての人々に訴えかけるわかり易い音楽を志し... また、それら、プロパガンダには最適なわけで...
プロパガンダになり得る音楽の、全ての人々に訴えかける力強さは、ダイレクト。ソヴィエトは消滅し、プロパガンダとしての意味はすっかり消えてしまったものの、"プロパガンダ"を担っただろう音楽ならではの魅力というのか、わかり易さが生み出すパワフルさは、聴き応え十分!また、全4曲の交響曲の内、1番から3番にかけてが、社会主義リアリズムが提唱され始める1930年代(1番が1932年、2番が1934年、3番が1933年)の作品で。ショスタコーヴィチ以外、なかなか聴く機会のないソヴィエトの音楽の、一つの基準としての"社会主義リアリズム"を体験できるのは、なかなか興味深い。
何より、スターリンが血の粛清で政権を握る、きな臭い時代... そうした時代背景を反映してか、不安感が漂うサウンドと、ロシアならではのバーバリスティックな激しさに、モダニズムが生み出すダイナミズムというのか、両大戦に挟まれた時代の気分もあって... 1番の2楽章(DISC.1, track.2)、2番の終楽章(DISC.1, track.5)などは、ホルストの『惑星』の「火星(戦争をもたらす者)」を思わせるところもあり、おもしろく。2番ではまた、どことなくプロコフィエフの音楽を思わせるところもあり、ロシア・アヴァンギャルドの流れも巧みに取り込んで、「わかり易い」からちょうど良い距離を保った"モダン"を響かせてくるあたりが印象的。続く3番(DISC.2, track.1-2)では、「レーニンのためのレクイエム」というタイトルが付され、合唱が大迫力で歌う。まさにプロパガンダ?レクイエムの、「葬送のための... 」といった湿っぽさは一切なく、悲壮に始まるも、最後の葬送行進などは、圧巻!
やがてスターリンが逝き(1953)、ソヴィエトを覆った恐怖、緊張感も緩む頃、1956年(スターリン批判の年)の作品、4番(DISC.2, track.3-6)では、30年代の3つの交響曲とはまた一味違う、作曲家として充実した、熟成されたサウンドがあり。景気の良い行進曲風と、ユーモラスな表情を窺えば、すぐにシニカルな気分に包まれて、ポジティヴなのかネガティヴなのか、一筋縄ではいかないユートピアのリアル、そうした音楽が展開されていく。この作品を聴いていると、ショスタコーヴィチの交響曲を生み出したソヴィエトという社会の風景を垣間見るようで、なかなか興味深く。「わかり易い」は、時にチープ感を醸すような、リアルな社会主義(の)リアリズムに、妙に納得させられるよう。また、「わかり易い」が捻くれていくような、狂気を孕む展開も見えて、どことなしの仄暗さも魅力的だったり。このあたり、やはりショスタコーヴィチとの近さを感じる。
体制側にいたからこそ、ソヴィエトという時代を体現したカバレフスキーの音楽。21世紀となって、20世紀音楽が完全に音楽史へと取り込まれた今だからこそ、なかなかおもしろい。いや、かなりおもしろい。のかも。
さて、そうしたカバレフスキーの交響曲を紹介してくれた大植+NDR放送フィルの演奏だが、これがまた絶妙。ショスタコーヴィチよりはシンプルかもしれないが、そのシンプルさから、どれほど旨味成分を引き出せるかが鍵?そうしたイメージもあるカバレフスキーの交響曲を、巧みに料理して見せて、単に騒々しいだけ... ただわかり易い... そういう状況に陥ることなく、上手くまとめて、洗練されたサウンドを聴かせつつ、そのシンプルさが生み出す魅力、ド迫力を、素直に聴かせていて... この全集で、カバレフスキーの音楽が、興味深く、またおもしろく響いたのは、大植+NDR放送フィルの存在も、多分にあってのことか。"カバレフスキー"、"大植+NDR放送フィル"、"交響曲全集"は、実に幸福な取り合わせ。

Kabalevsky ・ The Symphonies ・ NDR RPO ・ Eiji Oue

カバレフスキー : 交響曲 第1番 Op.18
カバレフスキー : 交響曲 第2番 Op.19
カバレフスキー : 交響曲 第3番 Op.22 「レーニンのためのレクイエム」 *
カバレフスキー : 交響曲 第4番 Op.54

大植英次/NDR放送フィルハーモニー管弦楽団
NDR合唱団、ハンガリー放送合唱団 *

cpo/999 833-2




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