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"Scottish Tune and London Sonatas"の、大胆にして自然な佇まい。 [2008]

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渋めな存在... けど、リリースしてくるアルバムは、いつも個性的で...
そんな、古楽界の鬼才、リコーダー奏者、ダン・ラウリンの最新盤"Airs And Graces"(BIS/BIS-SACD-1595)は、バロックの頃、ロンドンで人気だった曲家たちのソナタと、その当時、ロンドンで流行していたというスコットランドのメロディを集めて、ダン・ラウリンとその仲間たち、古楽アンサンブル、パルナッスス・アヴェニューが演奏する一枚。だが、バロックとトラッドを並べて、一枚に編んでしまうアルバムなんて、今までにあっただろうか?古楽アンサンブルが、トラッドな音楽に取り組むアルバムは、Alphaの白のジャケットのラインをはじめ、いろいろあるわけだが、並べてしまうとは、大胆なことをしてくれる!

さて、まずはスコットランドのメロディから、3曲... ダン・ラウリンの素朴なリコーダーが、人懐っこいメロディを歌えば、スコットランドの風景が眼前に広がるようで、一気に、遠い遠いスコットランドの地へと、トリップさせてくれる。それにしても、トラッドの、土に根ざしたサウンドの、何気なく佇みながらも、力強い様は、美しい。こういうサウンドを耳にしてしまうと、作曲家によって生み出される音楽が、何やら人工的に聴こえてしまって。いや、「芸術音楽」というのは、極めて人工的ではあるのだけれど。
そうしたスコットランドのトラッドに対して、バロックの1曲目は、ジョン・スタンリー(1712-86)のソロ(track.4-6)。トラッドの後のバロック... どれほど違和感があるのだろうか?なんて思いきや、ダン・ラウリン、そしてパルナッスス・アヴェニューの面々は、あまりに自然に、トラッドからバロックへうつろって見せて。同じ奏者、同じ楽器ということも大きいだろうが、バロックとトラッドの近さも感じて、興味深く。また、スタンリーのソロの1楽章、アダージョ(track.6)の、センチメンタルな気分が、トラッドの気分とも重なって、バロックでありながら、「芸術音楽」という枠組みを超えたしなやかさを聴かせて、印象的。
このアルバムでは、バロックの頃、ロンドンで人気だった作曲家たちの、スコットランド・ブームからの影響も盛り込まれており、ルーマン(1694-1759)のソナタ、3楽章、ピーヴァ(track.23)では、まさにスコットランドの香りが立ち上って、フォークロワな素朴さで魅了し。アルバムの最後、ヘンデルのメヌエット(track.26)でも、バロック・ギターを伴奏に、リコーダーの奏でるメロディが、トラッドならではのメローなトーンをたっぷり染み込ませて、絶妙。
"クラシック"におけるエキゾティシズムといえば、西のスペイン、東のトルコ... そんなイメージがあるが、振り返ってみれば、北のスコットランドの存在も大きい。スコットランドが舞台のオペラ(ヘンデルの『アリオダンテ』やら、『湖上の美人』、『ランメルモールのルチア』、『マクベス』も忘れるわけにはいかないし... )はもちろん、スコットランドをイメージした音楽(メンデルスゾーンなどは特に!)も多い。何より、ハイドンやベートーヴェンが、スコットランド・ブームに乗って、かなりのトラッドを、演奏用に編曲していたりする。そして、このアルバムに綴られたスコットランド・ブームは、それらから遡って、1707年、イングランド王国とスコットランド王国が、正式に統合(それまでは、同君主連合... )されたことに始まるものとのこと。となれば、このアルバムに響く音楽は、その後の"クラシック"における、「スコットランド風」の原点か?
今となっては、孤高のジャンルとして、巨大な音楽マーケットの隅で、細々とその存在を保っている"クラシック"。しかし、かつては、より自由に、フレキシブルに、様々なセンスと交わって、ブームにだって貪欲に乗っかって... そんなことを考えると、感慨深く、またそうあれた時代の幸福感というのか、無邪気さが、このアルバムからはこぼれてくるようでもあり。

さて、パルナッスス・アヴェニューの演奏だが... ダン・ラウリンの、多少、枯れつつ(スコットランドの雰囲気にしっくり... )も、やさしげに、まろやかに響くリコーダーに、ほっとさせられて。他のメンバーによる演奏も、そうした気分をナチュラルに紡ぎ出していてすばらしい。のだが、そればかりでなく、印象的なのが、ターニャ・トムキンズのチェロ。ジェミニアーニのチェロのソナタ(track.14-17)での力強さは格別で、スコットランドの気分でまとめられたこのアルバムにありながら、イタリア出身のジェミニアーニ(1687-1762)の、"イタリアン"な魅力をしっかり抽出して、その艶っぽさで、圧倒してくる。すると見えてくる、スコットランドの笛、イタリアの弦によるコントラスト... このコントラストが、このアルバムに、いいアクセントを加えていて。かつ、イタリア・バロックの個性と存在感を、トムキンズのチェロが、ばっちりキメて、クール!いや、ホット!か... 素朴さの中で、また違う美しさ、楽しさを与えてくれる。

AIRS AND GRACES ・ DAN LAURIN / PARNASSUS AVENUE

Lord Aboynes Welcome or Cumbernault House
Waly Waly
Clout the Cauldron
ジョン・スタンリー : ソロ 第4番 ロ短調 Op.4 〔フルートと通奏低音のための〕
Lochaber
Fy gar rub her o'er with Straw
Busk ye busk ye Bonny Bride
ヘンデル : ソナタ ロ短調 HWV 376 〔フルートと通奏低音のための〕
ジェミニアーニ : ソナタ ハ長調 Op.5-3 〔チェロと通奏低音のための〕
The Flowers of the Forrest
Dumbarton's Drums
Logan Water
ルーマン : ソナタ 第10番 ホ短調 BeRl 210 〔フルートと通奏低音のための〕
ヘンデル : メヌエット ソナタ ホ短調 HWV 375 から

パルナッスス・アヴェニュー
ダン・ラウリン(リコーダー)
デイヴィッド・テイラー(アーチリュート/テオルボ/バロック・ギター)
ハンネケ・ヴァン・プロースジー(チェンバロ/リコーダー)
ターニャ・トムキンズ(チェロ)

ウィリアム・スケーン(チェロ)

BIS/BIS-SACD-1595




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