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気分を変えて、合奏協奏曲、 [2008]

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近頃、ヘンデルの新しい録音がリリースされるとなると、オペラが中心... でなければ、『メサイア』ばかりでないオラトリオの数々... あるいは、ヘンデルがイタリア(オペラが禁じられていた当時のローマなど... )にいた頃のドラマティックな宗教音楽だったり... いやはや、充実の極み!なのだけれど、かつては『水上の音楽』やら、いろいろな協奏曲ばかりだった。というより、それしか無かった。なんて、少し前を振り返ると、「普遍」を謳うはずのクラシックのモードの変遷のスピード感... というより、もはや激流に、驚かされる。かつて、まったく顧みられなかった分野が、今や中心となり、かつての中心がすっかり忘れ去られ... ウーン、恐ろしくすらなる。
と、思っていたところに、かつての中心を見つける。ポーランドのピリオド・オーケストラ、アルテ・デイ・スオナトーリが、マルタン・ジュステルを指揮に、少し前のバロックの定番、ヘンデルのOp.6の合奏協奏曲集(BIS/BIS-SACD-1705)を聴く。

ダン・ラウリンによる、テレマンのリコーダーのコンチェルト集(BIS/BIS-CD-1185)、リコーダーが主役となる異色の『四季』(BIS/BIS-SACD-1605)に、レイチェル・ポッジャーのヴィヴァルディ、『ラ・ストラヴァガンツァ』(Channel Classics/CCS 19598)、アレクシス・コセンコのC.P.E.バッハのフルート協奏曲集(Alpha/Alpha 093)と、気鋭のピリオド系ソリストたちの伴奏を担い、キリっとカッコいい演奏を聴かせてくれて来たアルテ・デイ・スオナトーリが、とうとう前面に出て、演奏を繰り広げる。それも、"合奏"協奏曲!これまでのアルバムで、腕利き揃いであることはわかっていたけれど、その腕利き揃いがフィーチャーされる合奏協奏曲は、アルテ・デイ・スオナトーリを堪能するのに、最高の作品となることは間違いない。
さて、その演奏なのだけれど... ピリオドならではというのか、近頃ありがちな、やたらにコントラストを強調したりすることなく、"合奏"なればこそのバランスを大切にした演奏を繰り広げて、全12曲を丁寧に捉え、個々の響きと、アンサンブルの響きを巧みに引き立たせているのが印象的。その昔、聴いていた合奏協奏曲は、ピリオド・アプローチであっても、どこか綺麗に整えられ過ぎて、裏漉しされたような、なめらかなイメージがあったけれど、アルテ・デイ・スオナトーリは、バランスは大切にしても、裏漉しはしない。しっかりと個々の響きを活かして、コンチェルティーノを担う4人の奏者はもちろん、メンバー全員の音がしっかり聴こえて来る。いや、"腕利き揃い"が、こうしたところで力を発揮。何より、裏漉しされていないサウンドが、ヘンデルの音楽をより輝かせて、新鮮。時には、楽器同士がスパークするようなところもあって、バロックならではの魅力も十分。そうした中で、とても惹かれる音色が、アンサンブルの後ろから聴こえて来る... テオルボ、アーチリュートを弾く、アンドレアス・アレンド。通奏低音で、ピリっと存在感を示すあたりが、最高のスパイスになっており、なかなかいい味を醸す。こんな風に、通奏低音からも存在感が示されるからこそ、アルテ・デイ・スオナトーリの演奏は魅力的なのだろう。
さて、Op.6の合奏協奏曲集... ヘンデルがオペラで迷い、オラトリオへと踏み出そうという過渡期、1737年に作曲された、全12曲、3枚組となる大作。ヘンデル自身も、「グランド・コンチェルト」と呼んでいるのだが、2ヶ月も掛からずに作曲してしまったというから、凄い。よっぽどオペラで煮詰まっていたのか?そんな風に考えると、次から次へと、あまりにスムーズに展開される全12曲が、最高の気分転換であったことが窺える。そして、それが、聴く側にも伝わって来て、何とも言えず心地良い!全12曲を一気に聴き通すと、抱えていたストレスがスーっと流れて行くよう。で、このヘンデルの気分をすくい上げるような繊細さを引き出しているのが、フランスのピリオドの指揮者、ジュステル(「プリンシパル」でなくて、「ゲスト」ともちょっと違う、アルテ・デイ・スオナトーリのコンダクター... )。そのジュステルに、しなやかに応える、アルテ・デイ・スオナトーリの素直な音楽性。全12曲、3枚組の長丁場は、程好い緊張感を保って、飽きさせない。どころか、1枚目、2枚目、3枚目と、何気なしにヒート・アップしてくるようでもあり、無理の無い盛り上げ方も巧み。一方で、どことなしにノスタルジックな雰囲気が漂うのか... それは、まったく個人的な感覚なものかもしれないけれど、かつての中心を聴けるということに、若干の感傷も滲む。いや、改めて、じっくりと向き合ったOp.6の合奏協奏曲集は、卒なくバロックならではのサウンドを楽しませてくれながら、そこはかとなしに淡さや儚さが浮かび、オペラで煮詰まったヘンデルの苦悩を透かし、より共感を覚えるのか... 下手なオペラより、ずっと素敵なのかも...

HÄNDEL ・ CONCERTI GROSSI, OP.6 ・ ARTE DEI SUONATORI

ヘンデル : 合奏協奏曲集 Op.6

マルタン・ジュステル/アルテ・デイ・スオナトーリ

BIS/BIS-SACD-1705




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