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新音楽監督の挑戦、"The General"。 [2008]

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"再構成"好きな、ケント・ナガノ...
オペラに挑むも道半ばで逝った武満徹。その様々な作品を巧みにつなげ、ペーター・ムスバッハを演出に迎えて、新たな劇場作品、『武満徹―マイ・ウェイ・オブ・ライフ』を編み出すというウルトラCをやってのけたマエストロ、ケント。モントリオール響の音楽監督に就任するにあたって、再び、そんなウルトラCを用意。
それが、"The General"。21世紀版、劇音楽『エグモント』?ということになるのか。ベートーヴェンの音楽はそのままに、『エグモント』を大胆に翻案し、新たな物語として再構成... という、意欲作、ケント・ナガノと、彼が率いるモントリオール交響楽団を中心に繰り広げられる、"The General"(RCA RED SEAL/88697 30602 2)。新音楽監督の挑戦は、吉と出るのか?凶と出るのか?聴いてみることに。

ゲーテの戯曲『エグモント』のために、ベートーヴェンが書いたのが劇音楽『エグモント』。ケントは、ポール・グリフィス(タン・ドゥンのオペラ、『マルコ・ポーロ』などの台本を書いている... )を新たな脚本家に招き、劇音楽『エグモント』に留まらず、ベートーヴェンの他の劇音楽作品、『シュテファン王』、『レオノーレ・プロハスカ』からのナンバーも借りつつ、"The General"としてリメイク。『エグモント』が描くバロックの頃のオランダ独立戦争を、20世紀末の惨劇、ルワンダ内戦に置き換え、ロメオ・ダレール(国連平和維持部隊司令官)を、エグモント伯(オランダ独立の指導者)に重ねて、21世紀により強く訴えるベートーヴェン作品として、再構成... こういう視点は、さすが... やはり一筋縄ではいかない、凝り性、ケントの仕事は、他とは違うなと。が、気になるのは仕上がりで...
そのコンセプト、説明を読めば、21世紀に対する強いメッセージ性も持ち、なかなか魅力的なのだけれど、CDで聴いてしまうと、単にナレーション付きベートーヴェン。劇音楽『エグモント』の音楽を素材に、新たなオペラを作曲した... というなら、また違ったリアクションもできただろうが... ケントによる意欲作、"The General"は、サウンド・オンリーだと、"再構成"も、さほど活きてこないのが残念。もうひとつ言ってしまうならば、あの凄惨なルワンダでの虐殺に対して、ベートーヴェンによる「古典派」の音楽は、どうも軽く思えてしまう。ベートーヴェンが悪いのではなく、ミスマッチなのかも。シェーンベルクの『ワルシャワの生き残り』などを思い返すと、余計に感じる。
しかし、ケント+モントリオール響の演奏は、なかなか、どうして... デュトワが去って、第一線からフェード・アウト気味のモントリオール響ではあったが、ケントを音楽監督に迎えて、久々に聴くその録音は、ずばり新鮮!そして、改めてその演奏を耳にすれば、さすがはカナダを代表するオーケストラ、すばらしいものがある。北米のオーケストラではあるけれど、やはりアメリカのオーケストラとは違い。また、フランス語圏であるモントリオールの特性なのか、デュトワ仕込みなのか、フランスのオーケストラのような感触もあり... 明晰さと、くどくならない"艶"が印象的。そこに、ケントの特性がぴしゃりとはまって、活き活きとしたベートーヴェンが繰り広げられる。
さて、このアルバム、2枚組で、"The General"の他に、「運命」(DISC.2, track.1-4)も収録されているのだけれど、こちらでは、より、そうしたケント+モントリオール響の方向性が表れていて。"ピリオド"、"ハイプリット"といったモードに流されず、かと言って反動的でもなく、独自の音楽観を、きっちと、そして丁寧に紡ぎ出そうとする真摯な姿が好印象。彼らの紡ぎ出す、バランスの取れたスタイリッシュさは、20世紀末から続いた、激変するベートーヴェン像の荒波を乗り越えて、21世紀の岸辺へと、ようやく辿り着いたような、そういう落ち着きがあり、興味深い。それにしても、ケント・ナガノ、モントリオール響の相性は、かなり良いようで、新体制とはいえ、すでに充実したサウンドを聴かせてくれている。となると、この新体制のこれからが楽しみに。マーラー、メシアン、ベルリオーズが予定されているとのことだが、デュトワ時代より、おもしろくなりそうな予感!

Kent Nagano - Beethoven Ideals of the French Revolution

ベートーヴェン/グリフィス : "The General" 〔オーケストラ、ソプラノ、合唱と語りのための〕 ***
ベートーヴェン : 交響曲 第5番 ハ短調 Op.67 「運命」
ベートーヴェン : 劇音楽 『エグモント』 Op.84 から *
   序曲/クレールヒェンの歌 「太鼓は響く!笛は鳴る!」/クレールヒェンの歌 「喜びにあふれ、また悲しみに沈む」
ベートーヴェン : 奉献歌 Op.121b *

マクシミリアン・シェル(語り) *
アドリアンヌ・ピエチョンカ(ソプラノ) *
モントリオール交響楽団合唱団 *
ケント・ナガノ/モントリオール交響楽団

RCA RED SEAL/88697 30602 2




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