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運命の引力... [2008]

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9月に入り、新たなシーズンが始まるクラシック。
なのだけれど、録音の世界では、そうした"シーズン"はあまり関係ないか... とはいえ、ここはひとつ気持ちも新たに、「運命」でシーズンの扉を叩いてみようかなと。って、大袈裟か?
"モダン"と"ピリオド"のハイブリットでありながら、"モダン"でも"ピリオド"でもない場所へ、ベートーヴェンの音楽をジャンプさせたヤルヴィ家の長男、パーヴォ。彼が率いるドイツ・カンマーフィルとの、ベートーヴェンの交響曲のシリーズ、ここまで、3番、「英雄」と8番(RCA RED SEAL/88697 00655 2)、4番と7番(RCA RED SEAL/88697129332)がリリースされ、驚かされてきたわけだが。さて、最新盤は?
今、最も忙しいマエストロのひとり、パーヴォ・ヤルヴィと、彼が芸術監督を務める、最も刺激的な室内オーケストラ、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンによる、ベートーヴェンのシリーズ、第3弾、5番、「運命」と1番(RCA RED SEAL/88697 33835 2)を聴く。

独特の音楽観(感)を以って綴られて来た、パーヴォによるベートーヴェン。「ピリオド・アプローチ」、「ベーレンライター版」と、前世紀末から一挙に多様化(自由化?)したベートーヴェン像だったが、ここに来て、一通り出尽くされた観もある。そんな矢先、さらに新しいベートーヴェンの姿を見せてくれて、驚かされて... 力が抜けたところで繰り出されていくベートーヴェンというのか、それまでのベートーヴェンが、柔道(伝統重視なイメージ?)か、あるいはレスリング(俊敏な"ピリオド"のイメージ?)であったなら、パーヴォのベートーヴェンは合気道?何か不思議な力で、あるいは無駄のない削ぎ落とされた力で、ベートーヴェンという大きな存在、音楽を、軽々と転がしてしまような。初めてそれを耳にした時は、多少、戸惑いもあったが、それまでに聴いたことのないベートーヴェンの姿がそこにあった。パーヴォの独自の感性から生み出される斬新なベートーヴェン像と、そこに至ったパーヴォのクリエイティヴィティに、ただただ感服するしかなかった。そして、その第3弾は?
合気道から、レスリング(俊敏な"ピリオド"のイメージ?)の方へと歩み寄りつつあるのか?そのままずばり、力強い「運命」の1楽章(track.1)を聴いてみると、パーヴォならではの感覚は、薄れてしまったようでもあり、わずかにガッカリしてみる。けれど、あの「運命の動機」の、力強さと鋭さは、恐ろしいほどで... それは、突然、現れて、聴く者を切り裂いていくような... 通り魔的にすら感じて、ショッキングな印象も。で、あとは、トップ・アスリートのように、走り抜けてゆく。まったく無駄の無い、力強い走り... だからこそのスピード感と、疾走感。そして、そのスピード感に障害になりそうな要素も、しなやかに、するりとかわして、その身体能力の高さに惚れ惚れしてしまう。クラシックの世界に多分にある仰々しさ、勿体ぶる様など、微塵にも感じさせず、スタイリッシュに決めて、なおかつ、ベートーヴェンの音楽に籠められた、仕掛けを、丁寧に掬い上げていて、スピード感の中に、けして単調にはならない、様々な輝きを散りばめてみせて、巧い!アスリーティスティックなアプローチを極める...
またそれを可能とする、ドイツ・カンマーフィルの演奏も驚くべきもので、カンマー(=室内)という規模を完全に凌駕する、彼らのパワフルさには圧倒されるばかり。例えば、そのパワフルさで、完全に古典派の内にある1番の交響曲、1楽章(track.5)を奏でれば、ただならないテンションとエネルギッシュさで、「古典派」の枠組みが壊れそうなぐらいなのだけれど、ハイ・テクニックを伴ったパワフルさならば、そこから生み出されていくサウンドのスリリングさ、エキサイティングなノリは、格別。このノリに捕まってしまうと、「運命」、1番の交響曲も、あっという間の出来事。まさに怒涛。音楽を聴く... というような、悠長なことをしている状況にないのかもしれない。が、これこそが、ベートーヴェンの凄さか?そんな凄さを前に、パーヴォの独自の感性も、「運命」の引力には敵わなかったか?いや、その凄さを、きっちり抽出したパーヴォも、凄いか。

The Deutsche Kammerphilharmonie Bremen paavo järvi beethoven 5&1

ベートーヴェン : 交響曲 第5番 ハ長調 Op.67 「運命」
ベートーヴェン : 交響曲 第1番 ハ長調 Op.21

パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン

RCA RED SEAL/88697 33835 2




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