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1824年5月7日、第九、初演。 [2008]

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パーヴォ+ドイツ・カンマーフィルの刺激的な「運命」に始まって、ケント・ナガノの新体制によるモントリオール響のチャレンジングな21世紀版、『エグモント』と、ベートーヴェン付いてます、今月。で、この2タイトルを聴いてみて、ベートーヴェンの可能性というもの思い知らされるわけです。「楽聖」だなんて、ありがたく祀られておりますが、いやいやいや... 死後181年を経ても、ベートーヴェンは活きている!ピリオド+モダンのハイブリットによる「運命」にしろ、21世紀版、『エグモント』にしろ、新しい試みをすんなりと受け入れてしまうフレキシビリティに驚かされる。というより、この度量があってこそ「楽聖」なのかもしれない。21世紀という時代に副った在り方、メッセージを発信できるベートーヴェンを目の当たりにし、本当に凄い音楽とは何かを、改めて考えさせられる。
さて、今度は、ベートーヴェンが生きた時代に迫ります。ドイツ、ピリオド界の鬼才、クリストフ・シュペリングと、彼が率いるピリオド・オーケストラ、ダス・ノイエ・オーケスターの演奏、コルス・ムジクス・ケルンのコーラスで、第九が初演されたコンサートのプログラムを再現するライヴ盤、2枚組(PHOENIX Edition/PE 107)。てか、まだ夏の気分なのに第九?なのだけれど...

これまでも、珍しい作品の発掘に余念が無く、一筋縄では行かないプログラムを取り上げつつ、エキサイティングな演奏を聴かせてくれて来たクリストフ・シュペリングが、とうとう第九に?びっくり... というより、がっかり?いや、これまでがマニアックだった分、誰もが知る名曲をどう料理するのか、興味津々... そんな具合で、ちょっと複雑な心地になりながら手に取った、第九初演の再現ライヴ盤。それは、今から184年前、ベートーヴェン、53歳の時、その死の3年前となる、1824年5月7日、ウィーンのケルントナー・トーア劇場。と、書き出してみると、何だか感慨が溢れてしまう。で、その時のコンサート・プログラムなのだけれど、『献堂式』序曲(disc.1, track.1)に始まり、ミサ・ソレムニスから、キリエ、クレド、アニュス・デイの3曲を、3つの賛歌(disc.1, track.2-4)として歌い、その後に第九(disc.2)の初演があったとのこと... 今では、第九は、少し長めのイメージで、まさに"合唱付き"だけに、その規模からも、第九だけを演奏することが一般的だけれど、その初演は、思いがけず、ベートーヴェン、山盛り!というより、このオール・ベートーヴェン・プログラム、聴いてみたい!全部、大好きな曲だよ...
ということで、まずは、コンサートの前半から。幕開けの『献堂式』序曲。ウーン、これからウィーンを代表する巨匠の大作が初演されますよ!という扉には、これほど相応しい曲はない気がする。ベートーヴェンの数ある序曲の中でも、この曲ほど、始まりのワクワク、この後への期待感が詰まっているものはないように思う。そんな序曲、その序奏からして、クリストフらしい感覚に貫かれていて... いつもなら、多少、コテコテ感もある荘重な出だしだけれど、あっさり、さっくり、おもしろく仕上げてしまうクリストフ。「コテコテ」はコテコテで、十分に気分を盛り上げる... が、「コテコテ」をからりと揚げて、ジューシーで、弾力を楽しませるクリストフの巧みさに、まずのっけから引き込まれる。続く、ミサ・ソレムニスからの3曲(disc.1, track.2-4)。何と言っても、コルス・ムジクス・ケルンのコーラスがすばらしい!力強くも味わい深いハーモニーは、ベートーヴェンのそれまでの栄光と苦悩を語り掛けて来るよう。しかし、ミサ・ソレムニスを、キリエ、クレド、アニュス・デイの抜粋で聴くのは、なかなか新鮮。また、思いの外、ナチュラルな流れが創り出されて。荘重で静かに盛り上がるキリエの後に、あの派手なグローリアが鳴り出さないのが、妙にしっくりと来る。3つの賛歌としてまとめられたのも納得。これはこれで、今でもレパートリーとしてプログラムに載ってもいいのでは?一方で、コルス・ムジクス・ケルンのすばらしいコーラスを聴いてしまうと、彼らのミサ・ソレムニスを聴きたくなってしまうのも事実。という具合に、本編が始まる前から盛り上がる!
そして、本編、第九(disc.2)。が、どうも弦がよく聴こえないような... エッジの効いた弦セクションは、ダス・ノイエ・オーケスターの魅力であるはずなのに... 金管が強過ぎる?いや、思いの外、ティンパニなど打ち鳴らされて、野卑さが前面に出されるのか?鳴り物入り... ではないけれど、ドンチャンと派手に繰り広げて、耳目を惹き付ける?さらには、リズムを強調しての高速演奏。何と、ギリギリ、演奏時間、60分を切ってしまう!で、いいのか?クリストフ?!という、第1印象だったのだが、クリストフが提示して来たものを、ひとつ呑み込んで、しっかり咀嚼して、改めて向き合うと、この粟立つ演奏に、初演の生々しさを見出せるのかもしれない。そもそも、第九という作品が、異様な興奮状態を抱えているようなところがあるわけで、それらをストレートに表現すると、落ち着いてなどいられない?時を経て、クラシックの象徴のようなイメージに納まってしまったが、初演時は、あまりに型破りな作品であった。何しろ、交響曲にして"合唱付き"!そういう革命的な気分、伝統に反するざわつきのようなものをクリストフは表現しているのかもしれない。その延長線上で、スローで夢見るような3楽章(disc.2 track.3)も、大胆に早足で演奏。ところどころ、まるでダンスでも踊るかのようなリズミカルさで展開。すると、3楽章は舞曲... という古典派の交響曲の伝統が蘇るのか。揺ぎ無くあった第九のイメージを打ち壊し、ベートーヴェンの守旧的な一面まで浮かび上がらせるクリストフの妙... 全体においては革命性を強調しながら、守旧性でスパイスを効かせて、やっぱり、おもしろいことを仕掛けて来る。

The Beethoven Academy (1824)

ベートーヴェン : 『献堂式』 序曲 Op.124
ベートーヴェン : 3つの賛歌 〔ミサ・ソレニムス Op.125 から キリエ/クレド/アニュス・デイ〕 *
ベートーヴェン : 交響曲 第9番 ニ短調 Op.126 「合唱」 *

クラウディア・バラインスキー(ソプラノ)
ゲルヒルト・ロンベルガー(メッゾ・ソプラノ)
レイ・M・ウェイド(テノール)
ペーター・リカ(バス) *
ダニエル・ボロウスキ(バス) *
コルス・ムジクス・ケルン
クリストフ・シュペリング/ダス・ノイエ・オーケスター

PHOENIX Edition/PE 107




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