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北欧と南米のケミストリー、"TRACING ASTOR"。 [before 2005]

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新しいシーズンが始まる前に、クラシック休み?
ということで、前回、クロノス・クァルテットのビル・エヴァンスを聴いたのだけれど、クラシックから離れてみる新鮮さというのか、当たり前だけれど、クラシックばかりが音楽ではないなと... で、クラシックから離れてこそ、また、クラシックを真新しく感じるところもあって。クラシックばかりを聴いていると、知らず知らずに耳がこってしまっているのかも。あえてクラシックから離れることで、耳もリセットされるような気がした"MUSIC OF BILL EVANS"。そして、新シーズンを前に、もう1枚、クラシックから離れてみようかなと...
ヴァイオリン界の鬼才、ギドン・クレーメルと、彼が率いるアンサンブル、クレメラータ・バルティカによる、タンゴ界の鬼才、ピアソラ。そこに、デシャトニコフのアレンジが効いて、スタイリッシュなタンゴが響き出す"TRACING ASTOR"(NONESUCH/7559-79601-2)を聴く。

タンゴというとピアソラ... そんなイメージがすっかりできあがっているのだけれど、ピアソラのタンゴはどこか尖がっている?タンゴにしてタンゴの枠に収まらない、独特なセンス。20代前半、ヒナステラに師事(1940年代前半)し、30代に入ってから、パリでナディア・ブーランジェからも学んだ(1954-55)だけに、しっかりと近代音楽の洗礼を受けているわけで... トラディショナルに留まることなく、ダンスのための伴奏音楽を超えて、主張を持った音楽を繰り広げたピアソラ。そのタンゴは、革命と呼ばれた。けど、その革命的なあたりに、中てられる?ぼんやりと苦手意識もあったり。そこに、クレーメルによる"TRACING ASTOR"... ピアソラをクレーメルがトレースするとどうなるのか?良い具合に尖がっていたものがとれて、ピアソラがスタイリッシュに響く!
クレーメルがジャンルを越境しようとする時、常に好サポートを見せるのが、ロシアの作曲家、デシャトニコフ。この"TRACING ASTOR"でも絶妙なアレンジを効かせていて、ラテンの濃さを、北欧のクリアさ、ロシアのリリシズムに巧みに変換し、ある意味、聴き尽されたピアソラのステレオタイプに囚われることなく、何かまっさらな音楽として再提示するかのよう。クレーメルはもちろん、クレメラータ・バルティカによる弦楽の瑞々しいサウンドが最大限に活かされていて、バンドネオンもギターもなく、まさにクレーメル+クレメラータ・バルティカによってトレースされたピアソラが繰り広げられる。そこに、ソッリマ(track.10)、ペレーツィス(track.13)といった、個性的な現代の作曲家の作品が挿まれ、アクセントとなり、ピアソラにこだわることなく、絶妙に焦点がぼかされる。
一方、クレーメルのアレンジで聴く、6つのタンゴ・エチュード(track.2-4, 7-9)は、オリジナルのフルート・ソロから、クレーメルの独奏によるヴァイオリン・ソロに置き換わり、ピアソラと真正面から向き合う厳しさを漂わせる。それは、ある意味、トレースする余地を残さない音楽とも言えるもので、デシャトニコフのアレンジ、他の現代の作曲家による作品とは鮮やかなコントラストを見せる、ストイックな音楽... いや、クレーメルのヴァイオリンが、ピアソラの音楽を裸にしてゆくような、そういう感覚もあり、ここではトレースとは裏腹の展開を見せるのか。そうして、見えて来る、ピアソラの音楽の味み... ステレオタイプなイメージを鮮やかに拭い去って、剥き出しにされたピアソラの音楽の存在感... また、鬼才、クレーメルの音楽性と、革命児、ピアソラの音楽性が見事に共鳴してもいて、この2人から生まれる鋭くも表情に富む独特の世界観には、ただただ惹き込まれてしまう。
という、"TRACING ASTOR"。ピアソラでありながら一味違う、場合によってはよりピアソラの真髄にも迫り... 「ピアソラ」という圧倒的なキャラクターを前に、巧みなエフェクトを掛け、聴く者のピアソラのイメージに揺さぶりを掛けて来るクレーメル+クレメラータ・バルティカ。そうして聴こえて来る、スタイリッシュな音楽。チャレンジングでありながらも、どこか淡々と音楽を紡ぎ出す彼らの姿がクール!改めてこのアルバムを聴いてみると、北欧と南米の鮮やかなケミストリーに感心させられる。

TRACING ASTOR Gidon Kremer Plays Astor Piazzolla

ピアソラ : 92丁目通り 〔アレンジ : デシャトニコフ〕
ピアソラ : タンゴ・エチュード 1-3 〔アレンジ : クレーメル〕
ピアソラ : チキリン・デ・バチン 〔アレンジ : デシャトニコフ〕 *
ピアソラ : セーヌ川 〔アレンジ : デシャトニコフ〕
ピアソラ : タンゴ・エチュード 4-6 〔アレンジ : クレーメル〕
ソッリマ : チェロよ、震えよ!
ピアソラ : 言葉のないミロンガ 〔アレンジ : デシャトニコフ/クレーメル〕
デシャトニコフ : トレーシング・アストル
ペレーツィス : オール・イン・ザ・パスト

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)/クレメラータ・バルティカ
語り : オラシオ・フェレール *

NONESUCH/7559-79601-2




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