フュージョン、アル・アンダルース！

ハイ・センス、ハイ・クウォリティ、さらにはハイ・ファイでもあって... もっともっと注目を集めてもいいように感じる、フランスのレーベル、Alpha。古楽、ピリオド・アプローチに軸足を置いた黒のジャケット、"ut picture musica"と、古楽、ピリオド・アプローチをベースにしながらも、ジャンルを超えてゆく魅力的な音楽を繰り出す白のジャケット、"Les chants de la terre"... この2つのラインが、Alphaの大きな特徴。なのだけれど、白のジャケットの国内リリースが途絶え、どうなってしまったかと、少しやきもきしていたところに、やっと新しいアルバムがリリースされ... その1枚、異色の古楽アンサンブル、アロマートによる、ウマイヤ朝時代のイベリア半島の音楽を、オリジナルに捉われることなく、様々なヨーロッパの古楽器で鳴らしてみるとどうなるのか？という大胆な試み、"Rayon de Lune"(Alpha／Alpha 521)を聴く。

711年、ターリク・イブン・ズィヤードが率いるイスラム軍がイベリア半島に上陸(因んで、ジブラルタル... "ターリクの山"の意... )。キリスト教勢力に替わり、イスラム勢力がイベリア半島の大部分を支配する時代(-1492)が始まる。750年、イスラム帝国でウマイヤ朝が倒され、アッバース朝が成立。が、756年に、ウマイヤ朝の王族がイベリア半島に逃れ、コルドバを都とする後ウマイヤ朝(-1031)を興す。この王朝の下、イベリア半島のイスラム文化は開花し、コルドバは、アッバース朝の都、バグダッドに匹敵するほどの繁栄を誇る...
という時代の、イベリア半島の音楽にスポットを当てる"Rayon de Lune"。とはいえ、一筋縄には行かない。イスラム支配下(東)のイベリア半島(西)におけるアラブ音楽(東)を、ヨーロッパの古楽器(西)で演奏する... という、東西が交錯し、何やら複雑で、状況を飲み込むのにも一苦労なアルバム。いや、それは、キテレツと言ってもいいのかもしれない。が、そんなキテレツを、巧みに形にして、実にナチュラルに響かせてしまうアロマートのセンスには驚かされる。十分にエキゾティック。しかし、そのアラベスクなあたり、コテコテというではなく... もちろん、しっかりとアラブ風なのだけれど、どことなくアイロニックなユダヤ風にも聴こえるし、フルートや、ヴァイオリンといった、クラシック御馴染のサウンドもあって、中世ヨーロッパ風？も、無くもない？となると、エキゾティックさが、まろやかになって、口当たりがいいのも特徴。で、これは、ある種、フュージョン(融合)？なのかもしれない...
そもそも、中世のイベリア半島が、他に類を見ない文化におけるフュージョンを引き起こしたわけで。キリスト教、イスラム教、さらにはユダヤ教と、異なる文化がそれぞれに響き合い、独特のハーモニーを織り成していた史実。そういうイベリア半島の性格を、より大胆に、時間や場所を超越して、フューズした音楽。もちろん、核となるのはアル・アンダルースのアラブ音楽なのだけれど、時折、繰り広げられる、アロマートのインプロヴィゼーションには、どことなしにジャズの感覚もあるようだし。ヨーロッパの古楽器によるアラブのメロディは、現代につながるポップな感覚を見出せそうなところもあるし。聴けば聴くほど、摩訶不思議。で、そんなサウンドを耳にしていると、「ウマイヤ朝時代の... 」云々といった、歴史的な背景、気難しさはどこかに消え去り、アラブ・ベースの洒落たフュージョン、そんな姿が見えてくる"Rayon de Lune"。多少、キテレツな操作を経た音楽なのかもしれないが、アロマートにフューズされた音楽の、そのものの魅力が溢れ出して、いつのまにやら、虜に。一方で、丁寧な日本語の解説を、丁寧に読み、このアルバムが何であるのかを、見極めようと努力してみたのだけれど、結局、こちらの理解は、キテレツなまま... 何をどうしたいのか、厳密にはわからない。しかし、そこに新たな何かが生まれていて、このユルく幻惑されて来る感じ、かなり斬新。斬新過ぎて、説明が追い付かない？ということなのか？

Rayon de Lune　Aromates - Michèle Claude

■ 月の光さす
■ 或るガゼルに捧げるシャコンヌ
■ あなたの眼差しが煌めく
■ グラナダの風
■ アルコール
■ 薄暗がりの中で
■ 即興演奏
■ 約束
■ あなたは、わたしの心を統治する
■ 即興演奏
■ 酒を勧める人
■ 失われた忍耐
■ 即興演奏
■ 眠れない
■ 昼さまざま、夜さまざま
■ 虎縞の美人
■ 私たちの朝はこうして明けゆく
■ あなたしか愛せない

ミシェル・クロード／アロマート

Alpha／Alpha 521

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